第22話 妖魔王

「おせぇーぞ」


 資料室に入るなり鬼神おにがみにそう言われ、三人は苦笑する。その様子に、彼女はめんどくさそうな顔をする。


「おら、さっさと調べんだろ? 俺様は二階を探す。てめぇらは好きにしろや」


 それだけ言ってさっさと行ってしまった。


(……一応、待ってはくれていたんだよな? っていうか、鬼神おにがみさんのことで調べに来ているのに……偉そうだなぁ……)


 そう不満に思いながらも、五奇いつき等依とうい空飛あきひに声をかける。


「では、俺達も探しましょうか?」


「そうっスね~。オレちゃんも二階をさっがそーっと!」


「でしたら、僕は一階を探させていただきますね。良い資料が見つかると良いのですが……」


 そう答えると、二人も資料を求めて行く。出遅れた五奇いつきは、一人呟く。


「俺も一階を探すかな……」


 ****


「んー……良いのないなぁ……」


 資料をあさること一時間。なかなか成果が得られない中、五奇いつきが思い起こしていたのは、鬼神おにがみのいとこ、ひつぎのことだった。


(あの子、なにか知っていたのかな? それとも、ただ鬼神おにがみさんを心配していただけ……?)


 考えながら探していると、ある資料が目にまった。


「……『妖魔王ようまおうについて』? 妖魔王ようまおうってなんだ?」


 鬼神おにがみとの関係性はなさそうだが、興味をかれた五奇いつきはその資料を手に取ってみる。分厚いファイルをめくってみる。


「……なになに? 『妖魔王ようまおうとは全ての妖魔ようまの頂点にして、最上位の存在』ねぇ……」


(そういえば、あの時の妖魔ようまは……何者なにものだったんだろうか?)


 五奇いつきはページを読みながら、あの日、自分の人生を変えた妖魔ようまのことを思い出す。


(わけのわからないヤツだったな。あと、とても恐かった……)


 あの時の恐怖が嫌でもよみがえって来る。五奇いつきはそれを振り払うようにページをめくっていく。


妖魔王ようまおうだいかわりをしている可能性があり、また、その都度つど属性なども変わっていると考えられる。よって、歴代の妖魔王ようまおうとのデータをここにまとめる』


 そのデータを五奇いつきは見てみた。


「うわぁ……なんだこれ。全然わからないや……」


 複雑そうなグラフやら図形やらが書き込まれていて、とてもじゃないが解読できそうになかった。だが、ある一文いちぶん五奇いつきの目に入った。


(『妖魔ようまとは、人の願望に起因きいんするモノであると仮定している』か……)


 今まで考えたこともなかった妖魔ようまという存在について、考えてみたくなった。だが、「さすがにこれ以上は脱線する」と理解した五奇いつきは、そのファイルを閉じ、本来の目的である”鬼憑おにつき”について資料がないか再度探し始めた。


 ****


(結局、俺が見た範囲では、いの見つからなかったなぁ……)


 二時間かけて探してみたものの資料は見つけられず、五奇いつきは他の三人と合流するため、資料室内にある共有テーブルのところまで向かった。

 この資料室は壁一面に資料が並んでおり、中央に共有テーブルが配置されている。テーブルの方を見れば、鬼神おにがみ等依とういすでに座って待機していた。


 空飛あきひの姿がないことに気づくが、まずは合流をと思い、五奇いつきは二人に近寄って行く。とくに会話をしているふうでもなかったので、五奇いつき苦笑くしょうするしかなかった。

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