第21話 もう一人の鬼神

 資料室付近に着いた五奇いつき等依とうい空飛あきひ鬼神おにがみの四人が自動扉を開け、中に入ろうとした瞬間だった。後方から声がした。


「……乙女おとめ?」


 全員で振り向けば、そこには長い金髪をツインテールにした、赤いひとみ鬼神おにがみと同い年くらいの少女がいた。五奇いつき達と同様にトクタイの隊服を着ているが、スカートを履いており、胸に着けられたバッジには「Team.A」と書かれていた。


 その少女は鬼神おにがみにだけ視線をやりながら、彼女に語りかけた。


「……久しぶり」


「……ひつぎ


 そう鬼神おにがみが返すと、それっきり二人は沈黙してしまう。


(えっ、なんなんだ……この、なんとも言えない空気は?)


 五奇いつきがそう思っていると、空飛あきひが手をあげて口を開く。


「あの、お二方ふたかたはお知り合いかなにかなのでございましょうか?」


 鬼神おにがみが複雑そうな声色で答えた。


「……コイツは鬼神柩おにがみひつぎ。いとこだ」


「……乙女おとめ百鬼びゃっきとはどう? うまくやれているの?」


 その少女、ひつぎ鬼神おにがみけば、彼女は気まずそうな顔をする。


百鬼びゃっき? 百戦獄鬼ひゃくせんごくきのことか?)


 五奇いつきが疑問に思っていると、微妙な空気を見かねた等依とういひつぎに向かって声をかけた。


「うーん。いとこちゃんてことは、”鬼憑おにつき”だったりと~か?」


「……そういうアナタは蒼主院そうじゅいんの人間のようだけれど?」


 逆にき返されてしまった等依とういが頭をく。


だいせーかい! 等依とういっス! よっろ~」


 まるでなにかを誤魔化すように答える彼に、さして興味もないのかひつぎは続ける。


「……そう。両我りょうがとは随分ずいぶん違うのね? まぁいいわ。それよりも、乙女おとめ。どうなの?」


 なんとも言えない空気感に、五奇いつきされながら疑問に思った。

 

(なんだこの空気……っていうか、両我りょうがって誰だ……?)


 とても口を挟める雰囲気ではないと感じ、黙って見守っていれば、鬼神おにがみがゆっくりと口を開いた。


「……別に。いつもと変わんねーよ……。もういいだろ? 行くぞ」


 ひつぎに向かってそれだけ振り絞るように言うと、さっさと資料室に入って行った。それを見た三人がひつぎの方を見れば、彼女はため息をく。


「そう。あの様子だと、まだみたいね? まあいいわ。さよなら」


 含んだ声でそれだけ言うと、ひつぎは去って行った。


「ありゃりゃー、行っちった~」


「一体なんだったのでございましょうか?」


「……さぁ?」


 状況が飲み込めない三人はしばらく立ち尽くす。しばらくして、五奇いつきが口を開いた。


「とりあえず、資料室に入りますか? 鬼神おにがみさんも待っているだろうし……」


 うなずきあった三人は、資料室へと今度こそ足を踏み入れた。

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