第20話 知るということ

「目が覚めたようだな、鬼神乙女おにがみおとめ? 貴様はあんじょう暴走し、チームメイトに多大ただいな迷惑をかけたのだぞ! はっきり言おう! あのままであれば、死人しにんが出ていたとな!」


「……どういう、意味だ……?」


 鬼神おにがみけば、齋藤が冷たく言い放つ。


「貴様のおに百戦獄鬼ひゃくせんごくきの暴走により、蒼主院等依そうじゅいんとういおに夜明空飛よあけあきひの命があやうかったのだ!」


 齋藤にそう指摘されて、鬼神おにがみの表情が強張こわばるのが五奇いつき達にもわかった。しばらく沈黙した後、ゆっくりと鬼神おにがみが口を開く。


「……どうすりゃ……いい?」


 その声はいつになく弱々しいもので、五奇いつきはなんと声をかけていいのかわからない。


(いや……そもそも、俺が声をかけたところで、何か変わるのか? ……嫌われているのに?)


 そんな思いが頭をよぎれば、等依とういが口調とは裏腹な冷静な声で鬼神おにがみく。


鬼神おにがみちゃんさー。ひょっとして、百戦獄鬼ひゃくせんごくきの制御が出来ない理由わけ、知ってたーりするん?」


 鬼神おにがみは怒鳴るでもなく、静かに首を横に振った。相当こたえているらしい。そんな彼女の様子を見て、五奇いつきは思わず声を発していた。


「……知らないなら、知ればいいんじゃないかな?」


 口を突いて出た言葉は、予想以上に周囲に響いたらしい。みんなが目を丸くし、五奇いつきに視線を向ける。


(えっ? あ、思わず言っちゃったけど……どうしよう?)


 自分で言っておきながら困惑してしまう五奇いつきに対し、鬼神おにがみが顔をせながらき返す。


「知るっつったって、どうしろってんだよ……? 実家の連中すらお手上げだったんだぞ?」


 そう答える彼女に対し、今度は空飛あきひが手をあげた。


「あの……思ったのでございますが、トクタイの資料室などで調べてみるというのはいかがでしょうか?」


 彼の提案に等依とういが同意する。


「なっる~! いーんじゃね? オレちゃん、大賛成!」


 明るく言う彼に感謝しつつ、五奇いつきも深くうないた。その様子を見て鬼神おにがみが複雑そうな顔をするが、どうやら受け入れることにしたらしくゆっくりと立ち上がった。


「……この借りは必ず返すからな!」


 いつもの調子を幾分いくぶんか取り戻した彼女に、三人は穏やかな表情を浮かべ、齋藤の運転でトクタイ本部へと戻ることにした。


 ****


「そっれでー? どっから調べるんスかー?」


 四人は、資料室で何をどう調べるのかをEチーム専用の部屋でひとまず話し合うことにした。


「つーか、チャラ男。てめぇは”鬼憑おにつき”について、ガチでなんも知らねぇーのかよ?」


 鬼神おにがみにそうかれた等依とういが、あごに右手を置いて答える。


「う~ん? 蒼主院そうじゅいんとなっが~い付き合いのある家系かけいなのと、”生まれつき半身はんしんとしてのおに宿やどしている一族いちぞく”ってこっとーしか知らないっスねー」


 あっさりと言う等依とういに、五奇いつき空飛あきひ鬼神おにがみの三人が各々おのおのに叫ぶ。


「結構知ってるじゃないですか!?」


等依とういさん、それは知らないとは言わないと思われます。はい」


「てめぇ……しらばっくれてんならしばくぞ!?」


 そんな三人の反応に、等依とういが困惑したように返す。


「えぇー……うっそ~ん? オレちゃん、おちこぼれなんスけどー?」


 彼の様子に、今度は三人が困惑する番だった。しばらくの沈黙の後、五奇いつきが咳払いをし、うながした。


「と、とりあえず……資料室に向かいましょうか?」


「そうでございますね、はい」


「チャラ男……ほかにもしらばっくれてたりしたら、殺すからな?」


「えー……」


 そんなやりとりをしながら、四人は資料室へと向かった。

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