第19話 百戦獄鬼

「では、俺から行きます!!」


 五奇いつきはそう叫ぶと、参弥さんびのブレード部分を射出しゃしゅつし、百戦獄鬼ひゃくせんごくき妖魔ようまとのあいだに割り込んだ。

 それを合図に等依とうい空飛あきひも動き出す。一瞬のすきをついて、等依とうい火雀かがら氷鶫ひとうをそれぞれ百戦獄鬼ひゃくせんごくき妖魔ようまに対峙させると、空飛あきひがボロボロの妖魔ようまめがけて、二対についの短刀を交差させて技を放った。


「行かせていただきます! 黒曜抜刀術こくようばっとうじゅつ! 双十字斬そうじゅうじざん!」


 空飛あきひの斬撃で妖魔ようまは消滅し、残ったのは気絶した鬼神おにがみを含めた四人と二体のおに、そして、百戦獄鬼ひゃくせんごくきだけとなった。


「んー? ミッションはコンプリートっしょ? のっこーるは~?」


 等依とういの言葉でみんなで百戦獄鬼ひゃくせんごくきの方を見れば、突然、火雀かがら氷鶫ひとうに襲いかかって来た。


「やっば!? 火雀かがら氷鶫ひとう! カムバッ~ク!」


 等依とういの指示で二体のおには姿を消した。すると、攻撃体勢に入っていた百戦獄鬼ひゃくせんごくきは、振り上げたこぶしのやり場を求めて……空飛あきひに狙いを定めたようで、彼に向かってこぶしを振り下ろした。


「あひゃあ!? ちょ、ちょっと待って下さいませ!? 僕は、その、半妖はんようでございましてですね!?」


 百戦獄鬼ひゃくせんごくきに向かってそう弁明べんめいする空飛あきひだが、当然通じるわけもなく。完全に獲物として認識したらしい、逃げ回る彼を執拗しつように追い回している。

 その様子を見た五奇いつき百戦獄鬼ひゃくせんごくきの前に立ちはだかった。


「やめるんだ! 百戦獄鬼ひゃくせんごくき! 敵はもういないし、鬼神おにがみさんも無事だ! だから、しずまってくれ!」


 五奇いつきおとりになっているあいだに、等依とういが折り紙で作った簡易式神かんいしきがみ達を百戦獄鬼ひゃくせんごくきの周囲に放つ。すると、獲物をそちらに切り替えたらしく、次々と式神しきがみ達を握りつぶし始めた。

 その様子は、まるで幼子おさなご玩具おもちゃを壊して遊んでいるかのようで。


(ゾッとする……)


 思いながら五奇いつきは視線で「逃げろ」と空飛あきひに合図を送る。その意図を察した等依とういが、まだ理解出来ていない空飛あきひを引きづるようにうでつかんで、百戦獄鬼ひゃくせんごくきの近くから引き離して行った。


 それを確認してから、五奇いつきは未だ式神しきがみ達を相手にしている百戦獄鬼ひゃくせんごくきの近くに気絶している鬼神おにがみを抱えて連れいく。


鬼神おにがみさんのもとへ帰るんだ……」


 五奇いつきが声をかけたと同時に、等依とういが放った式神しきがみ達が一斉に折り紙へと戻り、宙を舞った。

 そのタイミングで、百戦獄鬼ひゃくせんごくき鬼神おにがみ身体からだへと戻って行くのが五奇いつきにもわかった。全てがおさまったことで、五奇いつき一息吐ひといきつくと、いまだ起きる気配のない鬼神おにがみをおぶって歩き出した。


 ****


「ふむ。戦闘訓練と言ったはずだが、予想通り暴走したか」


 気絶した鬼神おにがみ含めた四人が齋藤のもとへと戻ると、開口一番そう言われてしまった。五奇いつき等依とうい空飛あきひは思わず顔を見合わせる。


「えっと……。齋藤教官? それってつまり……こうなることを想定していたと?」


 五奇いつきが代表しておそるおそるけば、齋藤があっさりと答えた。


「そうだが? 貴様らこそ、何故なぜこうならんなどと思っていた?」


 逆にかれ三人は何も言えなくなってしまう。すると、そこで鬼神おにがみが気が付いたらしい。


「うう~ん」


 小さくうなった彼女を五奇いつきは慌てて地面に降ろし、身体からだを支えた。ゆっくりと目を開けた鬼神おにがみは状況がわからないのか、寝ぼけたような声でこう言った。


「ここは……?」


 その声はいつもとは違いとてもおさなく聞こえた。

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