第17話 訓練開始

五奇いつきちゃーん? 輪音りんね探知たんちほう、どーなんスか~?」


 等依とういかれ、五奇いつき輪音りんねを見る。輪音りんねの鈴のは、持ち主である五奇いつきにしか聴こえないのだ。


「鈴は鳴ってないです! でも、振動はしていますからこっちの方角かと!」


 五奇いつきがさししめしたのは、敷地内の南方なんぽうにある古びた病院のような建物だった。


「にゃるほどー! とりま、こーっちでいーってことっスね!」


「とりまってなんだよ! ちゃんとやれや!!」


 二人のやりとりに鬼神おにがみが突っ込みを入れれば、三人は苦笑いを浮かべるしかなかった。


 ****


「……ここ、でございましょうか?」


 空飛あきひの言葉に五奇いつきが頷く。


「うん、輪音りんねの鈴が振動し始めてるんで。ここのどこかに妖魔ようまがいます。みんな、準備はいいですか?」


「おーけーっスよ!」


「大丈夫でございます、はい」


「いいからさっさと行けや!」


 準備が整っていることを確認した五奇いつきは、慎重に廃病院の扉を開ける。ひび割れたガラスが恐怖をあおってきて、不気味だ。


「お、おい! 横取り野郎、ゆっくり慎重に行けよなぁ……」


(あ、こういうの苦手なんだ……)


 鬼神おにがみの反応に、五奇いつきはそう思いながら進んで行く。受付を抜け、奥にある階段へと向かっていった。


「なんだかホラーゲームのようでございますね? 僕、けっこうたしなむものですから……」


 珍しく楽しげな空飛あきひに、横にいた等依とういが一言。


「……空飛あきひちゃんてば、ナイスキャラっスねー」


 彼なりのフォローだろう言葉に、空飛あきひが戸惑いながらく。


「は、はぁ……左様さようでございますか?」

 

 そんなやりとりをしていると階段前までたどり着いた。


輪音りんねの鈴が! おそらく下の階にいます!」


 そうして階段を見つめれば、ところどころが崩れていてボロボロだった。意を決して、鬼神おにがみが言う。


「おら! さっさと行って終わらせんぞ!」


 四人は慎重に階段を下りていく。


「大きく鈴が鳴りました!」


 輪音りんねの鈴の音の大きさで、妖魔ようまの大体の強さまでもがわかるのだ。この音の感じだと、ちゅうくらいの強さだろう。そう五奇いつきが思っていると、等依とういが口を開いた。


「つくづく便利っスよね~! オレちゃん、そーゆーの持ってないかーら、うらやまっス!」


 意外な言葉に五奇いつきは思わず否定する。


「いやいや、等依とうい先輩の式神しきがみも便利じゃないですか!」


「んん? オレちゃんはそれしか取りないっスからねー?」


 どこか自虐を含んだ声色に、五奇いつきは深く追求することをやめた。


「着きました。ここだと思います」


 五奇いつきの言葉を合図に、全員が戦闘体勢に入った。五奇いつき空飛あきひが武器を構え、等依とうい火雀応鬼かがらのおうき氷鶫轟鬼ひとうのごうきを呼び出し、鬼神おにがみがファイティングポーズを取る。五奇いつきがカウントを三から数え、一の合図で扉を勢いよく開けた。


「ぐぉおおおおおおおお!!」


 瞬間、妖魔ようま咆哮ほうこうが響き渡る。それにされそうになりながら五奇いつきは攻撃を仕掛けた。


「行きますよ! 参弥さんびセット! ゴー!」


 ブレード部分を妖魔ようまに向けて射出しゃしゅつすると、妖魔ようまけようともせずに攻撃を受けた。予想以上に頑丈だったらしく、ブレードは当たったものの、地面に落ちてしまった。それを見て、等依とういが自身のおに達に指示を出した。


火雀かがら氷鶫ひとう、レッツらよっろ~!」


 二対についおに達が向かって行くと、ようやく妖魔ようまが動き出した。足元に落ちていた参弥さんびのブレードを拾い、ワイヤーをつかむと強く引っ張った。


「うぉ!? うわぁああ!?」


 引っ張られた勢いで、五奇いつきは壁に打ち付けられそうになる。


五奇いつきちゃん!」


 それを氷鶫ひとうが身をていして受け止め、助けてくれた。


「あ、りがとう……?」


 五奇いつきがお礼を言えば、氷鶫ひとうが右の親指を上げた。そして、抱きかかえていた五奇いつきを優しく地面に降ろした。あらためて感謝を伝えると、五奇いつきは状況を確認する。空飛あきひ二対についの短刀で妖魔ようまに斬りかかり、鬼神おにがみが蹴りを入れる。そこへ火雀かがらこぶしが飛んでいた。


「俺も負けてられない! 輪音りんねセット! きん退魔術式たいまじゅつしき! 壱銘いめい斬葬ざんそう!」


 五奇いつきが技を放ち、一直線の攻撃が妖魔ようまの腹に当たった。


「やったか?」


 五奇いつきがそう言ってから、四人と二体のおに達は妖魔ようまから距離を取り、様子を見た。


「ぐがががががが!!」


 怒り狂った妖魔ようま身体からだが、巨大化して行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る