第16話 汀様の加護

 みぎわを含めた五人と一柱ひとはしらは、車へと乗り込んだ。今回、運転は齋藤だ。


(神様もシートベルトするんだな……)


 慣れた様子で座席に座るみぎわを見ていたら、自然と目が合う。


「何かの? 五奇いつき殿?」


「あ、いえ! なんでもありません! 失礼しました!」


 見た目少年の神様だが、その威厳いげんある姿に威圧されて思わず謝ってしまった。だがみぎわは気にしていないらしかった。


「そうかの? なら良いのじゃが」


 首をかしげる彼にもう一度頭を下げると、五奇いつきも車に乗り込んだ。


 ****


 車を降りて辺りを見渡すと、木々に囲まれたなにかの施設のようだった。


「おっひょー? こっこはー?」


 等依とういくと、齋藤が答えた。


「トクタイが所有している土地だ。ここでこれから訓練を行う」


「なるほどでございますが……ターゲットはどうなるのでございましょう?」


 今度は空飛あきひく。彼はこういうところは敏感らしい。


「ターゲットは、入隊試験の時同様、雑魚ざこ妖魔ようまどもだ。と言っても、ここにいるのは全て"人造妖魔じんぞうようま"なのだがな……」


 "人造妖魔じんぞうようま"という聞きなれない単語に、五奇いつきが首をかしげる。どうやら他の三人も知らないらしく、同じく首をかしげていた。


「"人造妖魔じんぞうようま"については、いつか教えてやる。今は訓練に集中しろ!」


 そう言われてしまうと、誰も何も言えなくなってしまう。少しの間の後、齋藤が再び口を開いた。


「では、訓練内容を説明する! 今回のターゲットはこの敷地内のどこかにいる、大型の牛の獣人じゅうじん型の妖魔ようまだ! それを貴様ら四人とみぎわ様の加護で倒せ! 良いな! では、訓練開始!」


 合図と同時に、みぎわの身体が淡く光輝き出した。


なんじらにが加護を」


 みぎわのいつもと違う口調と雰囲気に、思わず圧倒されていると、自分達の身体もその光に包まれ、変化が起こったのがわかった。


「身体に力がみなぎってくる?」


 五奇いつきがそうつぶやくとみぎわが教えてくれた。


「わしの加護は"身体強化"なのじゃよ。ゆえに、みなの身体能力が上がっておるはずじゃぞ?」


「なるほどでございます。感謝いたします、みぎわ様」


 空飛あきひがそう言うと、今まで黙っていた鬼神おにがみが珍しく、少しだけ弱気な声でいた。


「なぁ……この強化ってのは、"鬼憑おにつき"にはどう作用さようすんだ?」


 そう言われてようやく五奇いつきは気づく。


(あっ、そう言えば"鬼憑おにつき"ってなんなのか聞いてないぞ!?)


 しかし話は進んでしまった。


「貴様の場合、"おににも加護が作用さようする"だろうな」


 齋藤の答えに、鬼神おにがみは「そうかよ」とだけ言うと黙ってしまった。


(何か問題でもあるのか?)


 そう疑問に思っていると、空飛あきひも同じだったようだ。


「あの……失礼ながら、何か問題でもあるのでございましょうか?」


 勇気を出してけば鬼神おにがみが怒鳴りながら答えた。


「俺様はおにの力を制御出来てねぇっつうのは知ってんだろうが! だったら察しろや!」


 彼女の様子にあっけにとられていると、見かねた等依とういが口を挟む。


「あー……よーするに、鬼神おにがみちゃんのおにちゃんが動き出したら、暴走するりつ高くなるっつーことっしょ? "鬼憑おにつき"って暴走すると手ーつけられなくなるって聞くっスからね~」


(あっさり言ったけど、それはかなりの大事おおごとなのでは? だってそれって!)


「それは……つまり暴走されますと、抑えるのは僕達になるということ……なのではございませんか?」


「あぁ? そうだっつってんだろ! 悪かったな! クソが!!」


 空飛あきひの突っ込みに、鬼神おにがみが大声で吐き捨てた。それを見て五奇いつきは、思う。


(一応……気にはしてるんだよな?)


 見かねた齋藤が冷静に指摘する。


「貴様ら、訓練はすでに開始しているぞ? さっさと行かんか!」


 どやされた四人は、妖魔ようまを倒すべく動き出した。

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