第15話 それぞれの個性と

 共同生活と訓練を開始してから二週間が経った。

 その間にも、互いのことが少しづつわかってきた。

 まず、鬼神おにがみは粗暴な言動や態度からは裏腹に神経質だ。ゴミ出しも風呂掃除にトイレ掃除まで、ものすごく気にする。五奇いつきも何度怒られたかわからない。


 次に等依とういは、あのチャラさからは想像できないほど面倒見がいい。周りをよく見ていて、何かあれば率先して行動してくれる。


 ある意味ギャップが一番激しかったのが空飛あきひだ。あの丁寧すぎる口調と礼儀正しさからはうかがい知れないほどに、いつも寝坊ギリギリだし、ズボラだったのだ。


「おい! 半妖はんよう! てめぇ、ゴミはちゃんとけろって言ってんだろうが!!」


 今日も、朝一で鬼神おにがみの怒鳴り声が聞こえてきた。


(また空飛あきひ君が怒られてるのか。確かにズボラだけどさぁ、鬼神おにがみさんも神経質すぎんだよなぁ)


 歯を磨きながら、そんなことを考える。もはや朝の光景だった。歯を磨き終えた五奇いつきがリビングに入ると、不機嫌そうな鬼神おにがみと目が合った。


「ちっ! んだよ?」


「……いや、なんも?」


 微妙な空気が二人の間に流れたタイミングで、空飛あきひが二階から降りてきた。


「おはようございます。あの、鬼神おにがみさん僕を呼ばれましたか?」


「あぁ!? てめぇが出したゴミがまた分別できてねぇんだよ! 何度言やあわかんだ!? トリアタマか!」


 そう怒鳴られ、空飛あきひが頭を下げる。


「も、申し訳ございません! つい……!」


「つい……じゃねぇんだよ! ちっ! クソが!」


 苛立ちいらだちを隠しもせずに、鬼神おにがみ空飛あきひにゴミを分別させる。そんな二人を見て「どうしたものか」と五奇いつきは思案した。


鬼神おにがみさんの主張は真っ当だけど、言い方がひど過ぎるんだよな。もっと言いようがあるだろうに……。だけど、俺が注意すると火に油を注ぐようなものだしなぁ)


 五奇いつきも何度か言い方を注意してみたのだが、その度に「うるせぇ! ならちゃんとやれや!」と怒らせてしまい、いつも平行線なのだ。

 そうなるともうお手上げだ。どうすることもできず、ただ鬼神おにがみの機嫌が直るのを待つだけとなる。


(正直、他人の機嫌を見ないといけないのって、けっこうしんどいんだけど?)


 内心でそう愚痴りながら、五奇いつきは冷蔵庫から昨日買ったサンドウィッチを取り出してテーブルに移動した。椅子に座って横目で見れば、分別が終わったらしい空飛あきひがゴミ出しに行かされているところだった。

 元々は当番制にしようという話だったのだが、鬼神おにがみの口うるささと空飛あきひのズボラっぷりから、管理が彼女に一任された。


「……いただきます」


 誰にともなくそう言うと、サンドウィッチを口に運ぶ。具材はハムにキャベツだ。それに満足しながら食事をっていると、等依とういがゆっくりとリビングに入ってきた。


「おっは~。ふあーよく寝たっスー」


等依とうい先輩、おはようございます」


 挨拶をわすと、等依とういも朝食の準備を始める。全員の食事の好みが違うため各自で用意している。ちなみに、等依とういの今日の朝食はピザトーストだった。


(朝からよく食べれるよな……)


 五奇いつきは妙な関心をしながら、食事を終えて身支度を整える。そうしているうちに他の三人も合流して、そろって家を出た。


 ****


「おはよう。今日も時間に間に合ったようでなによりだ。さて、早速だが本題に入る。本日より祓神ふつかみであられるみぎわ様の加護を受けた状態での戦闘訓練を行うこととする!」


 齋藤からそう言われ、四人に気合が入る。いよいよ実戦に近い訓練だからだ。


「いい目だ! では、心してかかるように! 着いてこい! みぎわ様、よろしくお願いします!」


 気づけば、みぎわの部屋へと続く扉が開いており、ほがらかな笑みを浮かべたみぎわが入室してきた。いつも通りの優しい声色で四人に向かって声をかける。


「みなのものよ、よろしくじゃぞ?」

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