第14話 教えてください

 五奇いつきは三階に上がると、等依とういの部屋を二回ノックした。


「ほいー? もう風呂上がったんー?」


 等依とういの声が聞こえてきたので、五奇いつきは素直に用件を告げる。


「俺です、五奇いつきです。ちょっときたいことがあるんですけど、いいですか?」


「いいっスよ~。開いてるからどぞー」


 返事を聞いて、五奇いつきは遠慮がちに扉を開けた。


「お邪魔しま……えっすご!?」


 室内が見事にサイケデリックに染まっていた。幾何学模様きかがくもようのカーテンにクッションなど。とても同じ家に住んでいるとは思えない。思わず固まっていると、等依とういが不思議そうに声をけた。


五奇いつきちゃーん? どしたんよ? オレちゃんに用事なんっしょ?」


 そこで本題を思い出した五奇いつきは、慌ててベッドにもたれかかっている等依とういの近くへ座った。


(っていうか、目チカチカするんだけど……?)


 そんな感想を抱きながら、差し出された派手なクッションを受け取りく。


「んで? きたいことってなーに?」


 五奇いつきは色々な意味で負けそうになっていたが、勇気を出して早速話を切り出した。


「あのですね。蒼主院そうじゅいん退魔術式たいまじゅつしきについて教えてほしいんです」


「ふーぬ、にゃるほどね~。五奇いつきちゃんはなんて聞いてたん?」


 五奇いつきはルッツから教えられたことを話した。五行思想ごぎょうしそうもとづいていること、自分には金の退魔術式たいまじゅつしきが合っていることなど。一通り話を聞いた等依とういあごに手を当てる。


「んーオレちゃんが知ってるのだーと、トクタイ所属の退魔師たいましには種類があって、いっちゃん多いのが五奇いつきちゃんも使ってる"蒼主院流退魔術式そうじゅいんりゅうたいまじゅつしき"を扱う人なんね? んで、それを教えられるのてーと、蒼主院そうじゅいん家になんらかの形で関わってる人だけなんスよ。それに、術式じゅつしき教えるのにも許可いる……はず?」


「そ、そうなんですか? じゃあ……先生も、もしかして蒼主院そうじゅいん家と関わりが……?」


「もしかしなくてもそうっしょ。まぁ、それが蒼主院そうじゅいん家の門下生もんかせいなのか、それとも血筋ちすじの人なんかはわかんねースけど!」


 とにかく。と言葉を区切り等依とういは続ける。


「んでまぁ、蒼主院流退魔術式そうじゅいんりゅうたいまじゅつしきつーのはね? 簡単にゆ~と、元は一般的な陰陽道おんみょうどうから派生したもんで、蒼主院公謐そうじゅいんきみみつって人が開祖かいそなんスよ。その人がアレンジしたのが始まりだとかなんとか?」


 今まで知らなかった新事実の数々に、五奇いつきは驚きを隠せない。そして、それをなぜ師匠であるルッツが教えてくれなかったのかも含めて疑念を持った。五奇いつきの様子に気づいた等依とういが優しくく。


五奇いつきちゃん? 大丈夫?」


「あ、はい。大丈夫です! 風呂前にすみませんでした!」


 深々ふかぶかとお辞儀をすると、等依とういが右手をヒラヒラさせながらほがらかに言う。


「いーっていーって! つか、オレちゃんこんなんだからさぁ。わかりにくかったかもしんねーわ! 悪いっスね~。で、ところでさ……」


 一端そこで言葉を区切り、五奇いつきに耳打ちするように声を潜めながらく。


鬼神おにがみちゃんって、何時いつまで風呂入ってると思う? オレちゃん、いやーな予感するんスけど?」


 言われて時計を見れば二十分以上はすでに経過していた。


「女の子ってめーっちゃ風呂長いイメージあるんスよね……」


 色々と察してしまった二人は、ただただ遠くを見るしかなかった。


 ****


 結局、五奇いつきが風呂に入れたのは約一時間半後だった。もちろん、その一時間は鬼神おにがみだ。


「あー疲れたていうか、もはやしんどい……」


 シャワーを身体に浴びながら、疲労を実感する。本当は湯舟に浸かりたいのだが……。


「……さすがに、ね……」


 狂犬きょうけんみたいとは言え、女性である鬼神おにがみかった湯舟に入るのは抵抗があった。出会ってまだ一週間も経っていない上に、嫌われているのでなおさらだ。

 大人しくシャワーだけさっさと浴びると、五奇いつきは歯を磨いて寝間着ねまきに着替えて、部屋へと戻ることにした。

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