第9話 翌朝になって

 翌朝。

 九時前だというのに、すでにEチームの四人は部屋に集まっていた。


「おっは~。五奇いつきちゃん、空飛あきひちゃん、鬼神おにがみちゃん、みんな顔色よさそうっスねー。あ、ちな、オレちゃんも元気っスよー?」


 すぐに全員の体調を気遣う等依とうい五奇いつきは思う。


(この人の方が、リーダー向いてるんじゃ……?)


 口に出すのはやめ、そのかわりに等依とうい含めた三人に向かって声をかけた。


「みんな元気ってこと、ですかね?」


「それは何よりだ。初日からバテられていては話にならん。おはよう」


 五奇いつきの声とかぶって耳に入ってきた齋藤の声に、全員が驚いた。


「きょ、教官……いつ、その、いらっしゃったのでこざいましょうか?」


 空飛あきひけば、齋藤は表情一つ変えずに答える。


「気にするな。では早速、これからのことを話す……前に部屋の設営を行う! 全員、協力するように!」


 言われてようやく、この部屋にゴミ箱以外なにもなかった理由を理解した四人だった。


 ****


「なんっで、俺様がこんなことを! クソが!」


 文句を言う鬼神おにがみを見ながら、五奇いつきも荷物を運んでいた。とは言っても、大きかったり重たかったりする机などは、等依とうい使役しえきする"簡易式神かんいしきがみ"という術で運んでもらっているのだが。


等依とういさんの式神しきがみさん達、とても便利でございますね……大変助かります。はい」


 素直にお礼を述べる空飛あきひに、等依とういがあっさりとした口調で答えた。


「んん~? べっつに~? そんなことないっスよ! 気楽に気楽に~」


 次々と折り紙でできた式神しきがみ達を操って行き、等依とういが配置していく。おかげで五奇いつき空飛あきひ鬼神おにがみの三人は小物を配置していくだけでよかった。

 入口付近にソファーとローテーブル、壁際と窓際に二つづつ机と椅子のセット、そして間接照明や観葉植物や各々の荷物を置き、設営が終わったのは昼頃だった。


「ふむ、このような配置か。さてと昼だが貴様らはどうする? 食堂や売店があるが?」


 設営を見守っていた齋藤が声をかければ、鬼神おにがみが真っ先に口を開く。


「あ? 馴れ合うつもりなんざねぇわ! 飯は勝手に食うわボケェ!」


 彼女の言葉に等依とういがなだめるような声色を出す。


「お~、鬼神おにがみちゃん? オレちゃん達、チームなんスよ~? 協調性、協調性ー」


「るっせぇ! 殺すぞ! イライラすっから行くわ、バカ共が!!」


 鬼神おにがみは悪態をくとさっさと部屋から出て行ってしまった。しばらくして空飛あきひも言う。


「あの、僕も食事は一人派でございまして……はい。なので、その、失礼いたします。また、のちほどお会いいたしましょう」


 丁寧に頭を下げて部屋を出て行く彼に何も返せず、五奇いつきは唯一残った等依とういと顔を見合わせる。


「どーするよ、リーダー? 今んところバッラバラなんスけどー」


「あははは……どうしますかねぇ? いや、ホントに……はぁ」


 今日は二人とも弁当だとわかったため、設営したばかりの部屋で食べることになった。齋藤は十三時から説明すると言い残してどこかへ行ってしまった。


「えっ? 五奇いつきちゃん……それ……弁当?」


 早速ソファーに並んで座り弁当を同時に開けた瞬間、等依とうい五奇いつきに対して困惑した顔で声をかけた。


「そうですけど……どうしたんですか?」


「いやー五奇いつきちゃんも、なかなかキャラ立ってるなぁーんつって?」


「は、はぁ?」


 不思議そうに首をかしげる五奇いつきの弁当は、焦げた何かにボロボロのおにぎりのような物体が入ったものだった。


「うーん? オレちゃん的には嫌いじゃないっスよ? うん。健康的にどーかわっかんねぇースけど」


「健康的に? よくわかんないですけど、まぁ食べますか?」


「……そうっスね~。んじゃぁ、いっただきまーす!」


「いただきます」


 弁当に手を合わせると、二人は食事を開始する。なお、等依とういの弁当は一回り大きめで、中は梅干しが乗っかった白飯に、ふっくらとした卵焼きと炒めたピーマンとベーコン、そしてプチトマトが添えられていた。

 正反対な弁当を食べ出すと、五奇いつきが少し小さめの声でぼやく。


「……ちょっと失敗したなぁ」


 等依とういが口に含んだ水を吹き出しかけていたが、五奇いつきは気にせず食事を続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る