第8話 祓神と

 せていた顔をゆっくりと上げると少年は、穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。


「初めましてじゃな。われが祓神ふつかみ汀守神みぎわもりのかみという。お主らへ加護を与えようぞ」


 声色と見た目からは想像もできない、神聖さを肌で感じ、五奇いつきは彼が人間とは別の存在であるのだと理解した。

 日本における数多あまたの神の一柱ひとはしらであり、生まれも理由も様々な超常的存在かつ、トクタイに力を貸す神達のことを祓神ふつかみと呼び、各チームに一柱ひとはしらがつき、加護をさずけるのだ。


「なんとその、お呼びすればよろしいのでしこざいましょうか?」


 空飛あきひが遠慮がちにくと、齋藤が答えた。


みぎわ様とお呼びしろ。くれぐれも無礼のないようにな? 特に鬼神乙女おにがみおとめ、貴様な?」


 釘を刺された鬼神おにがみは苛立ちげに、齋藤を睨みつけながら近くにあったゴミ箱を蹴った。


「……るっせぇな……わぁってるってんだ、ちきしょーが! 話はもういいだろうが! 帰るわ」


 乱暴に手荷物を持つと、鬼神おにがみは部屋から出て行った。それを見た齋藤が告げる。


「……いつかはあの態度も矯正きょうせいせねばならんな。コホン、貴様らも今日は帰っていいぞ。明日は朝九時にこの部屋に集合の後、訓練に入る! また、共同生活に備えて準備をしておけ? では、解散!」


 言うだけ言って齋藤は部屋を出て行き、みぎわもまたもとの部屋へと戻って行った。取り残された五奇いつき等依とうい空飛あきひの三人は無言になり、しばらくして五奇いつきが口を開いた。


「あの、それじゃ解散、しますか?」


「そうっスねー。さんせーい」


「僕もでございます。はい」


 けば二人も同意したため、今日はこれで解散となった。各々手荷物を持って、部屋を後にする。カギはオートロックらしく、最後に五奇いつきが出た途端、自動で閉まった。


(良かった。カギの場所とかわかんなかったからなぁ)


 ひとまず安心した五奇いつきは、ビルを後にした。


 ****


「あぁ……疲れた……」


 自宅へ戻った五奇いつきは、疲れ果てた身体からだを休めるべく、風呂に入ることすらせず、寝室に入りベッドにダイブした。日はすっかり昇っているが、急激な眠気でそのまま寝そうになる。


「あっそう、だ。ルッツ先生に、連絡しとかなきゃな……」


 今にも閉じそうな目をむりやり開けて、スラックスのポケットからスマホを取り出す。


(毎回思うけど、日本人の顔でルッツって……あきらかに偽名だよなぁ)


 出会ってまもなく、何度いてははぐらかされてきたルッツの"名前問題"を思い返す。


「まぁいっか。それより、アドレスっと」


 すぐにルッツのアドレスを見つけ、メッセージを送る。


「えっと……」


『こんばんわ、五奇いつきです。無事に入隊試験に合格しました。Eチームでしたが……』


 すぐに返信が着て、五奇いつきは時計を見る。


(今……朝の五時なんだけど……)


 そう思いながら内容を確認する。


『おめでとう。Eチームとはいえ、入隊出来てなによりさ。それで、今後の事はなんて聞いているんだい?』


 ルッツからのメッセージで、そういえば、今後について詳しくは聞いていなかったことに気づく。


大事だいじなことの大半教えてもらってないぞ!? 大丈夫なのか、この組織!)


 急に不安になってきたが、それよりも眠くて仕方がない。五奇いつきはとりあえず、明日の朝に備えて眠ることにした。

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