第4話 入隊試験

五奇いつきの意識がはっきりしてきて、辺りを見渡せば、木々が生い茂る森の中だった。暗闇の中、鳥の羽ばたく音がどこからともなく聞こえてくる。ライトを取り出して照らせば、小動物が逃げたのがわかった。


「ここは? いや、そうか。ここが試験会場か!」


 ようやく状況を理解した五奇いつき参弥さんび輪音りんねを構え、警戒しながら森の中を進みだした。

 しばらくして、輪音りんねに付いている鈴が二回鳴った。この鈴は、妖魔ようま探知たんちできるのだ。


「二回ってことは、二体だな!」


 この輪音りんねの鈴は、鳴った回数が探知たんちした妖魔ようまの数なのだ。

 五奇いつきはまず物理特化の参弥さんびを構え直し、戦闘体勢に入る。

 前方から一気に二体の、角の生えた人型の妖魔ようまが飛び上がって襲ってくるのが見えた。


参弥さんびセット! いけ!」


 トリガーを押し、ブレード部分を射出しゃしゅつする。ブレードはを描き、二体の妖魔ようま身体からだを斬りつけた。


「ぐぁあああ!?」


「いてぇじゃねぇか! クソガキぃぃ!」


 妖魔ようま身体からだは基本的に頑丈だが、祓力ふつりょくを乗せたやいばでなら、かなりのダメージを与えることができる。実際、二体の片方の左足ともう片方の右腕は綺麗に斬れていた。今度は輪音りんねを二体の妖魔ようまに向ける。


「"封呪紋ふうじゅもん"解放! 金の術式きんのじゅつしき! 壱銘いめい斬葬ざんそう!」


 五奇いつきが唱えれば、輪音りんねの刀身が鈍色にびいろから白に変わり、祓力ふつりょくを込めた光の弾が勢いよく放たれた。二体は避けるヒマもなく、消し炭となった。

 妖魔ようまを倒したことを確認すると、五奇いつきは深く息をく。


「実戦でも通じた! 本当にすごいんだな……退魔術式たいまじゅつしきって」


 二つの武器を見つめながら、修行の時にルッツから教わった事を思い返す。


 ****


退魔術式たいまじゅつしき、ですか?』


 黒樹くろき市内のルッツが所有している修練場しゅうれんじょうで、首をかしげながら五奇いつきに、ルッツが頷きながら答えた。


『そう、退魔術式たいまじゅつしき。正式名称はもうちょっと長いんだけどね? とりあえず、そういう術があるって覚えてくれるといいかな?』


『は、はぁ』


 いまいち理解出来ていない五奇いつきの様子に、ルッツがく。


五奇いつき君。五行思想ごぎょうしそうってわかるかな?』


五行思想ごぎょうしそう?』


 五奇いつきき返せば、ルッツが優しく解説してくれた。


『木・火・土・金・水の元素から万物ばんぶつは成り立ち、それらは互いに影響を与え合い、そして循環じゅんかんするという考え方のことさ。ま、とにかくそういうものだと思っておくれよ。で、僕達が使うのはその考え方を元に構築した術式じゅつしきでね? それぞれにめいという技の形態があるのさ』


『な、なるほど?』


 いまだわかっていない五奇いつきに対し、微笑みながらルッツが言う。


『君と相性がいいのは金だから、その技を教えるとしよう』


 ****


 そうして、五奇は金の術式じゅつしきを三年間身体からだに叩き込んだ。その技術が試験とはいえ、しっかりと身についていることが嬉しかった。


「よし、進もう。……正直、審査基準がわからないけど」


 ルッツからは「とりあえず死ななきゃ大丈夫」と言われ、試験前の説明にも「用意された妖魔ようまを倒し生き残ること」としか書かれていなかった。


(雑にもほどがあるけど……まぁ行くしかないか)


 試験を突破し、退魔師たいましになることが最優先だ。そう自分に言い聞かせながら夜の森の中を更に進んで行った。

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