第17話 夏休みってなんだっけ?
王立アレクサンドロス魔道学院にも夏休みはある。基本は全寮制なので、夏休みともなれば殆どの学生が帰省する。俺とアルマも例外ではなく、久々の実家暮らしとなった。しかし実家が王宮となると一筋縄ではいかない。生まれてこのかた受けてきた王女教育によって身につけたものを忘れていないか、何人もの家庭教師たちにテストされた。かろうじて及第点をもらったものの、嫌味を含んだ小言を言われ続けた。まぁ彼らの気持ちもわからんではない。それこそ超超一流の教師陣なのだ。わざわざ一般の学校に授業を受けにいく王女を快く思うわけがない。もっとも王立だけあって、アレクサンドロス魔道学院の講師陣も超一流なんだが、超超と超の違いは彼らの中では大きいらしい。その点でフレキシブルなのはミーファくらいなものだ。
学校の制服より遥かに思いドレスの牢獄にずっと閉じ込められていることもストレスを増加させた。王女としての仕事もなんだかんだと毎日ある。俺は毎日寝るころにはへとへとだった。これで夏休みと言えるのか?
夏休みらしさを感じることが一つだけあった。夏休みの宿題だ。魔法に関するなんらかのレポートを作成するというアバウトな宿題だが、アバウトだけにテーマを決めるのが難しい。結局なんだかんだと時間を取られるので全てが「休み」とはかけ離れてしまう。共同提出は可なので、当然の如く俺とアルマはそうすることを選んだ。アルマはアルマで、騎士団で結構しごかれているらしい。俺とアルマはお互い公務の合間を縫って顔を合わせ、夏休みの宿題の相談をしていた。
結果として題材に決めたのは、ノアール氷結湖だった。ミューゼル王国北部の高原地帯にある湖で、名前の通り完全に凍っている。決してそんなに寒い地方ではないし、完全に不自然な状況だ。もちろん今までにも調査はされていて、魔法的に凍らされていることはわかっている。ただ、いつ誰がやったか、意図的なものだったか、凍らされることになった経緯などは不明だ。
専門家が研究してもそうなのだ。俺たちのような学生が行って新たな発見などできるはずもないのだが、あえてそれを研究テーマに選んだ理由は、高原地帯が風光明媚なところだからだ。ぶっちゃけ、観光気分で行って息抜きをする気満々なのである。レポートの内容は、ほぼ既存の文献のコピペレベルでなんとかしようと思ってる。講師たちも学生にそんなに大きな期待はしていないだろう。
ただ計画を立ててみると問題があった。アルマと俺のスケジュール調整をした結果、丸一日時間を取れる日が一日だけだと分かったのだ。レポートをまとめるくらいの時間はとれるのだが、現場にいくのは夏休み後半の一日だけ。まともな手段で行くにはかなり厳しい。そこはアルマに、俺に一任してくれるように頼んだ。
そしてノアール氷結湖に行く当日、早朝から俺たちは王宮のテラスに立った。二人とも学園の制服姿だ。もちろんドレスで行くわけにいかないというのもあるのだが、これにはもうひとつ別の理由がある。
「姫様、これからどうやってノアール氷結湖まで行くのですか?」
アルマが聞いてきた。
「一気に飛びますか? まぁ姫様にならできるでしょうけど。ちょっと味気ないですかね。でも他の手段だと、かなり時間がかかってしまいますが」
俺は制服のポケットから二つの指輪を出し、ひとつをアルマに差し出した。アルマはそれを受け取り、しげしげと眺めた。
「魔力があるようですが、何の魔法かまったくわからないですね。いったいこれはなんですか?」
「とにかくはめてみて」
そう言いながら、俺は渡さなかった方の指輪を自分の指にはめた。それを見てアルマも従った。
「上まで
俺が先に上空へ舞い上がると、アルマが後からついてきた。
「『バーゲンホルム起動』それがコマンドワードよ」
俺が言うと、アルマは指輪に魔力を込めつつ「バーゲンホルム起動」と言った。一見何事も起こらないように見える。アルマは不思議そうだ。続けて俺も指輪を起動した。やっぱり何も変化はない。表面的にはだが。
「アルマ、ちょっと飛んでみて。ただし、かなり加減してね」
アルマが
遠くにアルマの姿が見えた。俺も
「姫様、いったいこれはなんなのですか?
「話すと難しいことなんだけど・・・」
元の世界の人間なら基本的な物理知識はあるから理解できるだろうし、SFマニアならコマンドワードだけでもどういう魔法か理解できるだろうけど、この世界のアルマにどう説明すればいいんだ? 慣性の法則から説明しないと。
知ってる人は知ってると思うが、バーゲンホルムはレンズマンシリーズに出てくる慣性中立機だ。作品中、重要なギミックなのだが、俺が作った指輪はそれとよく似た機能を持たせている。
この世界の
また、ケイシムの時にわかったことだが、この世界は一応惑星上にある。慣性がなくなったら、実は高速で動いている惑星の動きから、/取り残されてしまうことになりそうだが、大気が惑星と同じ速度で押してくれているわけで、惑星から取り残されることはない。
レンズマンのバーゲンホルムと違うところは、機能をオフにしてもオンにした時の固有速度が再現されるわけではないということだ。オフにすると単に慣性がもどり、実質大気が保持してくれていた固有速度にすぐに同調することができる。
で、それをどう説明すればいいんだろう? 結局俺は説明から逃げた。
「
アルマは指輪を感心したようにしげしげと見つめた。とりあえず納得してくれたようだ。「魔法」って言葉ほんと、説明に便利だ。
「これなら景色を見ながら早く移動できそうですね」
アルマはとびっきりの笑顔を浮かべていた。普段なかなか見ない笑顔だ。結構楽しみにしていてくれてたのかな?
「じゃあ行こうか」
俺はアルマに手を差し出し、アルマが俺の手を握り返した。
おっさん王女の異世界スクールライフ M.FUKUSHIMA @shubniggurath
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。おっさん王女の異世界スクールライフの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます