故人的な機械
ある博士が世紀の大発明をした。人工知能に過去の人物の歴史、エピソードを教えることで当人を再現できたというものだった。ニュースは瞬く間に世界中に広がり記者会見が組まれた。
「私は過去の偉人を完全に再現することに成功しました。エピソードが多いほどより本人に近づくため有名人であるほどよりその人物に近づくことでしょう」
すると、一人の記者が手を挙げて質問をした。
「とてもすごい発明だと思いますが、この機械は偉人しか再現できないのでしょうか?」
「偉人というのは誰にでも分かるからそう言っただけで、情報さえあればどんな人でも再現することが可能です」
「たとえばですが、私の亡くなった母も再現することはできるのでしょうか?」
「はい、可能です」
そう言って博士が複雑そうな機械のスイッチを押すとスピーカーから声が流れた。
機械から流れた音声はその記者しか知らないような事にも答えて、周りの記者たちを驚かせた。
しばらくたつと、その機械は個人向けに販売され始めた。誰でも偉人や故人と話せると話題を呼び、爆発的な売れ行きを見せた。
「君のところの織田信長はどうだい?」
「うーん、まだ明智光秀とは仲直りしてくれないなぁ」
「うちのところなんて秀吉とも喧嘩はじめて大変だよ」
「家康さんはみんなの仲を取り持ってくれるからおすすめだよ」
という会話で街角はにぎわうようになったり、
「また夫と話せるなんて思ってなかったわ」
「本当にすごい機械ね、でもそれは本当にあなたのご主人だったの?」
「私の呼び方だったり、子供の呼び方までそっくりだったのよ」
と、巷では大盛り上がりだった。
そして博士と出資者の男もこの成功には顔を綻ばせていた。
「うまくいきましたね博士」
「はい、おかげさまで。この間まで貧乏だったのがウソみたいにお金持ちになりましたよ」
「しかし博士、あなたは心理学が専門でしたよね?」
「えぇ、そうですよ」
「博士が人工知能にも精通していたなんて驚きましたよ。どうやってあんな発明の発想になったのでしょうか?」
「実はあれは人工知能では無いんですよ」
「なんですって!」
「おっと、次の予定があるので私はここで失礼します。詳しく知りたければ私の研究所へいらしてください」
そう言って博士は足早に行ってしまった。
「あれはじゃあなんなのだろうか?」
残された出資者の男は一人首をかしげていた。
後日、出資者の男が博士の研究所を訪ねた。
「博士、あの時のお話を聞かせていただけますか?」
「あなたはこの発明の出資者でもありますからね、特別にお教えしましょう」
そう言って博士は2台の機械をだした。
「片方は現在発売されている機械で、もう片方が発表の時に言っていた人工知能です」
「では、人工知能の方も発明したという事なんですね。どうしてそちらを発表しなかったのですか?」
「見ていただければ分かりますよ」
博士は人工知能の機械の方に偉人の名前を打ち込みながら出資者の男に尋ねた。
「あなたは偉人にどのような印象がありますか?」
「そうですね、賢くて、力強い、そんなイメージですね」
「はい、それが世間一般的な印象だと思います。ですが、実際はそうとは限らないんですよ。こちらの画面に話しかけてみてください。」
「どういうことでしょうか...。分かりました」
そう言って男は機械に向かって話しかけた。
「こんにちは、あなたは誰ですか?」
「わ、私は、一体ここはどこなんですか!助けてください」
機械から出てくる音声はとても弱弱しく、あまり賢そうでも力強くもなさそうだった。
「博士、これは一体」
「それが過去の歴史やエピソードから再現された偉人なんですよ。偉人というのは、えてして私たちが想像しているような人とは違う事が多いですからね」
次に博士はもう一つの機械を起動した。
「今度はこちらに話しかけてみてください」
「こんにちは、あなたは誰でしょうか?」
「ワシを知らぬのか!この無礼者が!」
機械からは力強い声が流れた。
「そうです、これが私がイメージしていた偉人です。この二つの機械が違うことは分かりましたが、ではこの機械はいったいどういう仕組みなんですか?」
「簡単に言いますと、使用者の深層心理から情報を抜き出しているんですよ」
「つまりこれは私が想像していた偉人がそのまま出てきたという事でしょうか?」
「はい、そうなります。しかし自分の信じ込んでいたモノとは違うものがあると人間は信じようとしませんから人工知能の方は秘密にしていたんですよ」
「しかしこれでは他の故人、例えば自分の身内なども再現できるのは一体どうなっているんですか。自分の知らなかったようなことも知っていると話題じゃないですか」
「人間は聞いたけど、忘れていたこと、思い出せないこと、というのが実はたくさんあるんですよ」
「どういうことですか」
「故人にしか分からないことを知っていた、なんてものは実は自分が見たか聞いた事があるのにただ単に忘れているだけのものなんですよ。この機械はたまにそういった深層にある記憶を読み取っているにすぎません。それに本当に故人しか知らないことなんて確かめようが無いですからね」
「なるほど、たしかにそれなら自分の記憶の中にある都合の良い人になるわけだ」
男はそう納得して博士の家をあとにした。
「結局本物の故人よりも自分の記憶にある人の方がいいものだよ、君もそう思うだろ?」
男が帰るのを見届けた博士は自分用の機械を起動しながらつぶやいた。
「この人殺し!絶対に許さな......」
「おっと、起動する方を間違えてしまった」
画面からは女性の金切り声が聞こえてきて、博士は慌ててスイッチを押して消した。
そして、別の方を起動しながら語りかけた。
「機械の形は変えるべきだったかな?」
「えぇ、そうねあなた.......」
未定 @narisukeP
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