未定
@narisukeP
代わりのロボット
その男はとても真面目な会社員ではあったが、特段優秀でも無能でもない普通の社員だった。
ある朝、男が出社すると最近導入されたロボットがデスクにやってきた。
「オハヨウゴザイマス。コーヒーハイカガデスカ?」
「ありがとう、まだ眠いから濃いめのをお願いするよ」
「カシコマリマシタ」
仕事もはやく現場でもあちこちに引っ張りだこの人気者だ。
男がメールを処理していると、上司に呼び出された。異動かあわよくば昇進の話かもしれないと男性は少し期待していた。
だが部屋に入るとそのどれでもなさそうな雰囲気だった。
呼び出された部屋には3人の男性が座っておりその真ん中にはテレビでしか見たことのないような重役がいた。
重役の男性は腕を組んで男を説得するように言った。
「最近、わが社が新型ロボットを導入したことは君も知っているだろう。このロボットは営業から経理まで全てのことをこなせるそうだ。しかもコスパもとても良いとか」
「はい、とても優秀なロボットだと現場でも好評です」
「そうか、それは経営陣としてもうれしいことだ。そこで私たちは社員のほとんどをロボットで置き換える事に決定した」
「そんな......、家族もいるのに」
「仕事先の紹介や斡旋で転職はサポートするから、心配はしなくてもいい。以上だ、さがりたまえ」
「コーヒーオマタセシマシタ」
男は呆然として何も反応できなかった。
「コーヒーオマタセシマシタ」「コーヒーオマタセシマシタ」
「ありがとう......」
「コチラオツカイクダサイ」
コーヒーと一緒に大きなダンボールが渡された。今日中に出て行けという事のようだ。
40歳になろうかという男にとってそう良い転職先は残っていなかった。あちらこちらに面接に行ったがコンビニのアルバイトくらいしか雇ってくれる所は無かった。
「仕事は少しずつ覚えればいいので、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、雇っていただきありがとうございます」
オーナーは優しそうな人で、男はここでなら心機一転頑張れる気がした。2か月後に例のロボットが導入される前までは。
「オハヨウゴザイマス。コーヒーハイカガデスカ?アリガトウゴザイマシタ」
今回は男にではなく、客に向かって話すロボットを見ながら男は自分の不幸を呪っていた。
ロボットはあっという間にこの職場でも人気者となり、男はオーナーに呼び出され2ヶ月前と同じ話を聞かされ、同じようにクビになった。
「すまないね、うちのコンビニも従業員を全員ロボットに置き換えることになってしまいました。短い間でしたが、ご苦労様でした」
数日後、男は牢屋にいた。
コンビニも解雇され、居酒屋でやけ酒を飲んでいると古い友人と偶然出会った。その友人は大した成功をしたという話を聞かないが、身なりの良い服を着ていた。
「君もロボットに仕事をとられたのかい?」
「そうさ、会社もコンビニのアルバイトすらクビになってしまったよ。君もという事はお前もクビになったのか?その割には羽振りがよさそうじゃないか」
「色々な仕事がロボットに変わったことで僕のような人は仕事がはかどるようになってね」
「そういえば、お前は何の仕事をしているんだ?」
男がそう聞くと、友人は周りを確認してからこっそりと耳元に話しかけてきた。
「泥棒家業さ」
「ど、泥棒だって!?」
男は驚いて叫びそうになるのを抑え小声で友人に聞き返した。
「しーっ、静かにしてくれ。
実は僕もロボットに仕事を取られてね。腹いせに前の職場に盗みに入ったんだ。そしたらあの会社ときたら警備員すらロボットに変えてしまっていてね、移動パターンさえ覚えてしまえば見つからないのは簡単だったよ」
「なるほど、そんな抜け道があったのか」
「これはここだけの話にしてくれよ」
男はにわかにその話に興味を持ち、友人にあれこれ質問した。
「今日は久しぶりに会えて楽しかったよ、じゃあまた」
友人はそう言って二人分の勘定を払って出て行った。
「これはいい話を聞いてしまったぞ、私も以前の会社に復讐してやろう」
次の日の夜、男は会社に盗みに入った。カードキーも前の職場の知り合いに忘れ物をしたと話したら快く貸してくれた。
だが、残念ながら男は友人のように器用なわけでもなく、ロボットのように賢いわけでもなかったため、あっさりと捕まってしまった。
監房の中で男は肩を落としてうなだれていた。
「話が違うじゃないか、あんな馬鹿な事しなければ良かった」
「囚人番号XXXX番、牢屋から出ろ」
看守はそう言って牢屋のカギを開けた。そして隣には何度も見た例のロボットがいた。
「ここの囚人は全部ロボットに置き換えることになった」
そして、男はあっさりと牢屋の外に出されてしまった。
「一体どうなっているんだ...?だけど、あのロボットがこんなことに役立ってくれるなんて、案外ロボットに仕事を取られるというのは悪いことではないかもしれないな」
男はそう思いながら、家に向かって歩き出した。
家につくと居間の方から賑やかに談笑する妻と子供の声がしていた。
「もう、あなたったら」
「お父さん面白いこと言うね!」
男は冷や汗を感じながら、居間のドアを開けた。
そこには妻と子供そして、ロボットが楽しそうに話していた。
「ハハハ、オイシイコーヒーハドウダイ」
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