殺し屋の失敗

砂漠の使徒

依頼

 俺は殺し屋。狙った獲物は逃さない。今回のターゲットはこいつだ。性別は男、身長165センチ、体重53キロ。まあ、普通の男性だな。なんでこんなやつが殺されるのかなんて、考えねぇ。仕事に関係ないからな。俺はただ任務を遂行することだけを考え、銃を構えた。ここは廃ビル。登ってくるやつはいねぇだろうから絶好の仕事場だ。この銃もほとんど音が出ない特別性。バレてしまったらおしまいの俺の仕事にぴったりだ。さて、そろそろ奴がここを通る。情報によれば、あいつは毎日通学路としてここを使っているらしいからな。おっと、無駄なことを考えていると、のこのこ現れたな。なんにも考えずに、のんきな顔しやがって。ここでてめぇの人生おしまいだ。俺はいつもどおり引き金を引く。


 しかし、弾がでない。なんだ、詰まってるのか。こんなこと、初めてだ。全身から冷や汗が出る。このままじゃ、依頼失敗で俺が殺される。なぜだ。どうして出ない。俺は銃のマガジンを確認する。すると、弾が一個も入ってない。なぜだ。たしかに今朝入れるように頼んだはずだ。こんなこと、今まで一度だってなかったのに。


「あなたはいつもそうよね」


 突如として、声が聞こえた。あまりの出来事に焦り、背後に立つ何者かに気づかなかった。これも失態だ。


「誰だ!」


「私の声も忘れたのね」


 いや、今思い出した。冷静になればすぐ出てくる。さっきは銃で頭がいっぱいだっただけだ。


「どうした晴江」


 仕事場にくるなんて、初めてだ。いつもは無関心なのに。銃の弾を込めるときも。ああ、そういえば。


「おい、なんで今日は弾が入ってないんだ」


 失敗は許されないと、何度も言ったはずだ。


「やっぱり仕事のことしか考えてないのね」


「そんな話はどうでもいい!」

「俺は早くあいつを殺して……!」


 これ以上時間をかけると見失う。


「自分の息子の顔も忘れて……」


「は!?」


「私達の子供よ、あの子は」


「……」


 スコープを覗き込む。たしかに俺に似ている。本当なのかも。


「あなたは仕事のことしか考えてない」

「だから、あの子のことも忘れて殺そうとした」


「いや、覚えてるさ!」


 見たら思い出した。


「じゃあ、弾が入ってたらどうしたの?」


 それは……。


「撃ってたかもな」


「……」


「違う!」

「あれは……依頼だから仕方なかったんだ!」


「二言目には、いつもそれ」


「悪いかよ!」


「今回の依頼は、私が作ったのよ」


「なに!?」


「あなたに、家庭を思い出してほしかったの」


「晴江……」


 そんな風に泣かれたら、俺は……。


「すまなかった」


 これからは、家族との時間も大切にしよう。


「愛してるぞ」


「私もよ」


 俺は久しぶりに妻の温もりを感じて……。


 バーーーーン!!


 銃声が響いた。


「依頼失敗……」


 (完)

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殺し屋の失敗 砂漠の使徒 @461kuma

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