社会科見学
ひよひよひよひよ
博物館
最近都心部にできた絶滅危惧種博物館に学校行事として来ていた。クラス単位で行動することになっていたが、実際は生徒も教師も展示物や飼育されている動物たちを好き勝手に見ている。この絶滅危惧種博物館ではその名の通り、数年、数十年前には絶滅の危機に瀕していたが、遺伝子工学や生態の解明に伴い絶滅の危機を逃れた動物たちが展示されている。博物館にしては装飾が過剰すぎるし、生きた動物の展示が主であるため、どちらかというと動物園と名乗った方が良い気もするが、創設者には譲れないものでもあったのだろう。
鳥類のコーナーを通りかかったとき、ある鳥が目についた。その鳥は雷鳥という名前で、ずんぐりとした体に真っ白な羽をつけて変な声で鳴いていた。ぼくが気になったのはそいつの見た目ではなく、プレートに書かれた名前にある「雷」だった。「雷」とは何だろう。どこかで目にしたような気もするが思い出せない。字に「雨」が含まれていることから天候の一種であることは予想できるがそれ以上は何もわからない。
ぼくが「雷」で頭を悩ませていると背後からトトトっと楽し気な足音が近寄ってきた。足音の主のミヤは、ぼくの隣で立ち止まると展示されている雷鳥とぼくの顔を見比べた。ミヤはぼくよりも身長が高いせいで、自然と前傾してぼくの顔を覗き込むような姿勢になった。
「さっきからずっとここにいるけど、この鳥のこと気にいったの?」
ミヤは勉強することが好きな変わった人間だから、博物館を見て回るのが嬉しくて仕方ないのだろう。とても楽しそうな声色をしていた。
ぼくが事情を話すとミヤは分厚いメガネの奥の大きな瞳をキラキラさせながら「雷」の説明を始めた。
曰く、「雷」とはぼくの予想の通り天候の一種であり、大雨が降るときに発生し、非常に大きな電気を伴う現象であるらしい。ひと昔前には頻繁に発生し、地上の人間や動物たちに災禍をもたらすこともあったそうだが、現在では完全に制御され、ぼくたちが雷を目にすることはめったにない。制御された雷はかなりの効率で電力へと変換されており、原子力発電、地殻エネルギー発電に次いで、電力供給源として3番目のシェアを誇っているそうだ。
「ついでに言うとその雷発電所はここから南へ行った海岸から海に突き出したところにあって、去年学校で見学に行ったんだけど覚えていないの?」
言われてみれば行ったことがあるような気がして、だんだんと思い出してきた。あれは去年の暮れ、冬休みを目前とした頃だったような。とても寒かったのを覚えている。ミヤがやれやれという顔をしていたため反論する。
「去年見学に行ったときは発電所のそばの海の保全施設がメインで雷発電については少ししか紹介されなかったし、仕方ないじゃないか。」
ミヤもあの程度の説明では納得できていなかったらしく、去年の見学に対する愚痴をこぼしはじめた。
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