放課後

 絶滅危惧種博物館での見学が終わり、学校に戻ってきて課題を渡されて放課となった。秋も終わりに差し掛かっているせいで校門を出た時には日が傾き始めていた。

 夕日で赤く染まった空の下、長く伸びた自分の影を追いかけるようにして歩きながら、ぼくは絶滅危惧種博物館でのミヤとの会話の中でふと浮かんだ疑問について考えていた。なぜ去年の見学では雷発電に関する説明をろくにしなかったのだろう。一昔前とは違い、放っておいてもマイクロマシンや自律機械が勝手に有害物質だけを取り除いてくれる上に、そもそも荒らされることのほとんどない海の保全よりも、生活の基盤となる電力の方が見学する意義は高いのではないだろうか。

 落ち葉を踏みつけ、まっすぐ家へと向かいながらぼくはさらに考える。思い返してみれば地殻エネルギー発電、雷発電についての説明を聞いた記憶がほとんどない。ミヤの言っていた三大電力源というくくりについては社会科の授業で聞いた覚えがあり、特に原子力発電については科学の授業でその危険性とともに聞いた覚えがあるが、ほか二つの発電についてはさっぱりだった。そこでカバンから携帯端末を取り出し、インターネットで検索をかけてみることにした。インターフェースを操作して単語を打ち込み、まさに検索をかけようとしたその時、背後からタタタっと足音が聞こえてきた。

「図書委員の仕事のせいで遅くなっちゃったー」

 息を切らし、一つにまとめた真っ黒な髪を振り回しながらミヤが走り寄ってきた。特に決まっているわけでも、話すべきことがあるわけでもないが、家が近所のミヤとはよく一緒に下校している。

「また考え事?陰気だなぁ」

 そんな失礼なことを言いながらミヤはぼくの隣に並んで歩きだした。

 優等生で図書委員なミヤなら何か知っているだろうと思い、さっきまでまで考えていた電力に関する疑問をミヤに説明しながら並んで歩く。ミヤは興味深そうに聞いていた。二人とも家から学校が近いせいであっという間にいつもミヤと別れている交差点の手前まで辿り着いてしまった。ミヤはキョロキョロして何となく悩む素振りをしてからその場に立ち止まった。この会話を片付けてしまうつもりなのだろう。ぼくとしても疑問を解消してしまいたいためその場に立ち止まり説明を続けた。最後まで説明してしまい、ミヤの考えを聞こうとミヤの顔色を窺った。ミヤは手を顎に添え、いかにも考えている風だったが、その額には夕日に照らされてキラキラと光る汗が浮かんでいる。さっき走ってきたときのものだろう。そんなに急がなくてもよかったのにとぼくは少し思った。

「それでさっき携帯をいじっていたのね。実は私も雷発電と地殻発電がひた隠しにされている理由はわからないの。仕組みについてもさっぱりだね。」

 ミヤはひた隠しにされているように感じているようだ。そして、ミヤにもさっぱりわからないことがあるのだなとぼくは珍しく感じた。

「ちょっとその携帯で調べてみてよ。」

 ミヤに促されインターネットを検索してみた。新エネルギー庁の情報によると、雷発電も地殻エネルギー発電も重力の力で膨大なエネルギーを操っているらしい。しかし、より詳細な理論については書かれていなかった。同じページに理論の構築から実際の発電所の制御までのかなりの部分を機械が担っていることも書かれていた。

「重力って物と物との間に働く力のことだよね。詳しい理論は難しすぎるから、ここに書ききれるものではないのかも」

 ミヤは何となく不満そうな、微妙な顔をしていた。

 気が付けば日が沈み切っていた。

 二人の間にわずかな沈黙が流れている間、ぼくは機械による発電所の制御がどのようなものなのか想像してみた。

「発電所の見学って個人でもできるのかな。」

 ぼくの何気ない一言にミヤはものすごい勢いで食いつき、見学できるのかできないのか分からないにもかかわらず、週末に発電所まで行くことが決定された。

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