夜の戦争 後編 3 「4分間」(終)




 とりあえず大沢一等兵の左大腿部の銃創の応急処置は終わった。


 しかし吸引器を使ってからずっとバッテリー残量警告音が私の「ひさちゃん」の中で、私にだけ聞こえるように鳴り続けている。

 いつもの夜勤ならば、介護ロボット端末のバッテリー充電を使い切ってしまうなんてことは一度も無かった。警告音自体聞くのが初めてだ。


 本当にこんな音が響くのだろうか。ここは大沢さんの見ている幻影の中だと思っていたが、もしかしたらそうじゃないのかも知れない。

 何故なら、昨日初めて私たちの施設に来た大沢さんが、介護ロボット端末のことを知っている筈がないし、私すら知らない介護ロボット端末のバッテリー残量警告音を知っている筈もないから。

 大沢さんがこの「ひさちゃん」の端末までをイメージしていて私の意識がそこに迷い込んで宿っているのなら、こんな警告音は大沢さんが知っていないと再現できないもの。


 介護ロボット端末のバッテリーが切れたら、どのように機能を停止していくのか。

 全くわからない。


 その時私はどうなるのか。


 「おい、お前」


 大沢さんが私を呼ぶ。

 そう言えば呼び方が貴様じゃなくなったな。多少は気を許してくれるようになったのだろうか。

 お前でもそれはそれで嫌だけど。


 「お前、ずっと姿が点いたり消えたりしてるように見えるが、正体は何だ」


 「ひさちゃん」のホログラム投影装置の不具合とバッテリー減の影響で、「ひさちゃん」のホログラムは明滅している。

 撃たれてからずっとそうだったはずだけど、今頃それを気にするの。


 「憲兵隊のところに連行される途中で言ったと思いますが、私は大沢さんが99歳になった時に少しお世話していた者ですよ。機械の調子が悪くなって、姿を見せ続けることが出来ないんです」


 「やはり得体の知れない物の怪の類か。機械を物の怪が使う世になるとはな。海野十三や押川春浪でも思いつくまい」


 誰よそれ。知らない人の名前を突然出して何を言ってるのか。


 「誰ですかその海野なんちゃらさんとか押川さんとか」


 「空想科学小説という子供向けの文章を書いてる作家だ。お前が言うような怪しいからくりが出てくる話をよく書いているんだ」


 「だったらその人たち、随分未来を先取りしていたんですね」


 「ふん、未来か。お前が本当に99歳の俺の世話をしていたというなら、俺はこの後どうなる? 家族を守れたのか?」


 戦争の行方がどう、とか余計なことは言わない方が良い。

 ここが大沢さんの幻影の中なら大沢さん自身が無意識にでも知っているはずだし、そうでなかったとしても、近しい人を守るために、と純粋に強く願って戦っている人には敗戦ということは到底認めがたいことだろうから。


 だから、私から見た客観的な大沢さんの人生の評価をお伝えするべきだろう、と思った。


 「私が知っている限りですが、大沢さんは立派にご家族を守られたと思います。

 奥様とは大沢さんが99歳になるまで一緒に添い遂げられましたし、お二人の間にできた2人のお子さんも、2人とも立派に成人されました。

 お仕事だって、ずーっと私鉄の保線の仕事を定年まで勤めあげられて、列車の事故が無いように頑張って下さってたんです。おかげで事故の心配をする列車の乗客はいません」


 大沢さんは黙って私の話を聞いている。


 「私はお年寄りのお世話をする仕事を10年やってますけど、その人の人生って最後の最後に出ると思うんです。

 自分の好き勝手に生きて来た方は、最後にご自分が動けなくなった時に、ご家族の方は誰も寄り付きません。遺体の引き取りすら拒否する家族もいます。

 私たちのようなお世話専門の人間は、皆さんに対して平等にお世話させていただきますが、それでも何か割り切れないものを感じてしまいます。

 大沢さんの場合は、私たちの施設に来る前まで奥様が熱心に大沢さんのお世話をされ、奥様が亡くなってもすぐに息子さんとお嫁さんが大沢さんのために色々と動いて下さってました。

 ご家族がそれだけ大沢さんのことを大切に思っていたからなんだと思います。

 ですから私は、今のご家族が大沢さんを大切に思えるくらいに、大沢さんはご家族を立派に守れていたんだと思います」


 私がそう言うと、大沢さんは何か言おうと口を開いたが、思い直したのか止めた。


 その時、「ひさちゃん」のホログラムが完全に消えた。

 こうして徐々に機能を停止していくのか。

 こうして思考していられるのは後どれくらいなのか。


 「おい、お前、どうしたんだ」


 大沢さんがホログラムが消えたことを気にして尋ねる。


 「充電が切れかかってるんです。電池で動いてるんですよ。電池ってこの頃ありましたっけ。伝わるかなあ」


 「お前、死にかかってるってことなのか」


 「そう取ってもらってかまいません。大沢さんが何とかしてくれると思ってたけど、結局関係なかったのかな」


 「どういうことだ? それは前にも言っていたな」


 「ええ。私、99歳の大沢さんのお世話をしている時に、突然ここに来ちゃったんですよ。今の大沢さんが私を見つけるほんのちょっと前に、です。

 私の同僚が、この機械に宿ってる時だとお世話してる人が見ている幻影が私たち介護してる者にも見えるんじゃないかって言ってたんです。だからここは99歳の大沢さんが眠りながら見ている幻影の中なのかなって思ってたんです」


 大沢さんはけっこう心配そうな顔をして私「ひさちゃん」の素体を見ている。

 何だ、やっぱりいい人じゃないか。


 その姿が暗闇で閉ざされる。

 多分、光学センサーが切れた。


 「さっきは俺が目覚めればいいって言っていたな! どうすれば目覚めるんだ! 教えてくれ!」


 「それは私にはわからないです。だって私、巻き込まれただけですから」


 「おい! ふざけるな何とか言え! 突然どうs………………」


 感音センサーも止まったのか、大沢さんが私に何か言っているのも聞こえなくなった。

 もうサーモホンスピーカーも音声を出力していないのかも知れない。



 死。


 肉体の死は怖い。


 でも何だろう、今の私、「ひさちゃん」の素体に宿っているデジタルな存在の私は、こうして一つ一つ何も出来なくなっていく「死」が、それほど怖く感じられない。


 充電が無くなったから一つ一つ機能を停止する、当然のことだと受け止めている。


 この思考を司っている部分の機能が停止した後、私はオペレーターポットの中の私に戻れるのだろうか。


 意識は消えてしまって、私の肉体は植物人間状態で残されるのだろうか。


 わからない。


 最も全ての生物の死はそんなものだろう。

 死んだ後どうなるのかは、色々言われていても結局自分で体験してみないとわからないし、死んだ後のことなんて生きてるうちにわかるわけないのだ。


 いつ消えるか分からないから、せめて大沢さんに伝えたいことを伝えておくか。

 サーモホンスピーカーも切れているだろうけど、僅かな可能性で動くかも知れない。


 「大沢さんみたいに表面は厳しいけど内面優しいって昔の男性に多いですけど、態度で分かれっていうのは止めて下さい! 女は超能力者じゃありません! ちゃんと自分の気持ちは言葉に出さないと伝わりませんよ! 許嫁の人を泣かさないでく


































 私が目を開けると、まだ真っ暗だ。

 私は生きているのか死んでいるのか。

 死後の世界って真っ暗なんだな。

 これは寂しい。


 私はダメ元で右手を開閉スイッチに当たるように動かしてみた。

 私の右手がスイッチに当たり、カチリとスイッチが入る。


 私はオペレーターポットの中の私に戻って来たようだ。

 真っ暗なのはバイオフィルムスーツが顔を覆っているためなのだ。


 グゥオン・グゥオンとオペレーターポットの蓋が動く音が水中を伝わってくる。

 音が止まり、蓋が開いたようだ。


 自分が死んだなんて、戦場の幻影のせいでちょっと思い込みが過ぎたな。

 私が最初に恐怖で動揺したときに一切「ひさちゃん」を操れなかったように、人影の正体を見たと私が思って恐怖した時に「ひさちゃん」との接続が切れて、オペレーターポットの中の私が幻影を見ていただけだったのかも知れない。

 オペレーターポットの開閉ボタンを押せないって思ったのも、大沢さんの幻影に巻き込まれたと思い込んだ私が見ている夢だったから、金縛りみたいな状況になっていただけなのかも知れない。


 私は自分の思い込みを少し恥ずかしく思いながら、上半身をゆっくり起こし、バイオフィルムスーツの顔部分のファスナーを開ける。

 随分久しぶりに自分の目に光が飛び込んでくる。私は一度目を閉じて慣らしてからゆっくりと目を開ける。


 いつもと変わらない夜勤室内。

 「はぁーっ、戻れたんだ……」

 思わず安心してため息をついてしまった。

 夜勤室のネットカフェ状のベニヤの壁の上から見える位置に掛かっている時計を確認すると、時間は午前3時18分。

 殆ど経っていない。


 なら、もう一度夜勤に戻らねば。

 私はもう一度バイオフィルムスーツの頭部までファスナーを上げて、オペレーターポットに横たわり、蓋の開閉スイッチを閉めた。


 また、私はゆっくりと半覚醒状態になっていく。

 LIFE(科学的介護情報システム)とのリンクが繋がって、再度利用者情報が頭に入って来る。

 目を開けると、そこは214号室でも、介護ロボット端末の格納庫でもなかった。


 目の前は真っ暗だ。

 私の顔を覆うバイオフィルムスーツの生地しか見えない。


 「あれ? 『ひさちゃん』に入れない?」


 今までこんなことは一度もなかった。

 初めて「人格転移型介護用端末システム」を体験した時も、半信半疑だったにもかかわらずきちんと介護ロボット端末に意識が転移していた。

 何か初めて起こる不具合だろうか?

 初めて起こる不具合といえば、私が恐怖で取り乱したら「ひさちゃん」を一切操作できなくなったのもそうだけれど。

 一度不測の事態で接続が途切れると、再度接続できなくなるのだろうか?


 LIFE(科学的介護情報システム)とのリンクは繋がっているので、通信はできるかも知れない。


 ”原田さん、ごめんなさい、聞こえる?”


 ”ああっ、石川さん! 良かった、大丈夫ですか? 今どこですか?”


 原田さんが随分慌てている。そりゃそうだろう、同僚の介護ロボット端末が突然操作する介護者との接続が切れて動かなくなっているのだから。


 ”今はオペレーターポットの中。だけど『ひさちゃん』とリンク出来なくて困ってるのよ”


 ”……そうですか……石川さん、オペレーターポットから出て『のぞみ棟』まで来てください”


 ”……わかったわ。15分くらい掛かるけど、大丈夫?”


 ”ええ、利用者さんは皆さん落ち着いて眠っておられますから。慌てないでゆっくりでいいですよ”


 ”じゃあ、用意してすぐ行くわね”


 通信が終わると、私はオペレーターポットの開閉スイッチをもう一度押した。





 更衣室でシャワーを浴びてネオリンガー液を洗い流し、日勤帯の制服に着替えて私が「のぞみ棟」に行くと、そこには原田さんの「みよちゃん」が待っていた。


 「ごめんなさい、原田さん。突然『ひさちゃん』が動かなくなったり、思っても見ない幻影が見えたりしたものだから。接続が切れた『ひさちゃん』を見つけて、原田さんも驚いたでしょ? 『ひさちゃん』側の故障じゃないと思うけど一応は確認しないとね。『ひさちゃん』はまだ214号室の中?」


 私は意図せず取り繕うかのように早口で原田さんの「みよちゃん」にそう話しかけてしまう。「みよちゃん」はそんな私を気にすることなく、ゆっくりデイルーム内の一点を指さす。


 「みよちゃん」の指さす先、格納庫前を私も見ると、そこには床に横たわった「ひさちゃん」の素体があった。


 「ひさちゃん」の素体は、左腕と左側の胴体に4か所2cmくらいの穴が開いており、右手には拭った跡があるが、血液が付着している。


 ……あれは、幻影ではなかったのか……


 床に静かに横たわる「ひさちゃん」を見て、私はゾッとした。

 体中から力が抜けて、私も床にへたりこんでしまう。


 「看護科長に、現時点で私が確認した状況は電話連絡して報告しています。

 介護ロボット端末№3『ひさちゃん』の素体は破損が見られ、充電も切れているようなので夜勤では使えそうにないことと、私から見た客観的に起きた事実を。

 とりあえず、石川さんは介護ロボット端末を使用しないでそのまま夜勤を継続して勤務してもらって、今日の日勤帯で私も一緒に科長に事実報告、ってことです」


 これは事故だろうな、と、冷静になろうとする私が現実的なことを考える。ヒヤリハットではないだろう。事故報告書を夜勤帯で書くなんて私としては何年振りのことか。


 「……原田さんから見たら、どういう経緯だったの?」


 私は気になって尋ねた。

 私は随分長いことあの幻影? 現実? の中にいたように感じているが、現実の時間は殆ど経っていない様子だったから。


 「午前3時13分に214号室で人影を見たって石川さんとの通信が終わった後、私はすぐ『きぼう棟』の利用者さんの対応を終わらせて、214号室に向かったんです。

 私が214号室に到着したのは午前3時15分。214号室の居室扉は開いた状態でした。

 私が中に入るとベッドでは利用者の大沢さんが良眠していましたが、石川さんの『ひさちゃん』の姿はどこにも見当たりませんでした。

 通信で呼びかけましたが石川さんの返答はなく、それで他の棟の職員にも応援を要請して施設内全域を探そうとしていたら、214号室の振動センサーが何か重量があるものが倒れるのを感知したんです。午前3時17分でした。

 それで214号室に確認に行ったら、床でこの状態になった『ひさちゃん』を発見したんです。

 通信でもう一度石川さんに呼びかけたんですけど繋がらなくて、ともかく『ひさちゃん』の素体だけはここまで移動させたら午前3時23分に石川さんから通信があった、ってところですね。

 まあ全部記録はしてるので、後で確認できると思いますよ。

 それで石川さん、何があったんですか?」


 「ひさちゃん」の素体が発見された午前3時17分って、多分私がオペレーターポット内で意識を取り戻した時間だろう。オペレーターポットの開閉には1分程度かかる。私が時間を確認したのが午前3時18分だから、多分間違いない。

 僅かでもオペレーターポットが開き出したらその時点でLIFEとのリンクは切れるから、意識が戻った直後に蓋を開けた私には、原田さんの通信が繋がらなかったのだろう。


 あれは僅か4分間の出来事だったのか……

 随分長い夢だと思いたかったけれど……


 「原田さん、話しても信じて貰えないかも知れないけど……」


 私は私の体験したことをざっくりとだが原田さんに話した。


 「何なんですか、石川さん、それ! あーあ、絶対私が残るんだった! あの時応援に行くって言い出した私に説教したい! あーあ」


 私の話を聞いた原田さんの反応は、いつもの原田さんだ。

 それこそ、私の体験した不可思議なことを羨むなんて、原田さんは本当にどうかしている。

 でも、いつもと変わらない原田さんの様子は、内心動揺している私を現実に引き戻してくれるのに十分だった。


 「原田さん、信じるの? 私だって半信半疑なのに」


 「信じるも信じないも、とりあえず石川さんの体験した謎の4分間以外の出来事は全部通信ログや介護記録に残ってますし、通常の夜勤ならバッテリーが切れるなんて絶対ない介護ロボット端末のバッテリーが無くなってるんですから、普通の事態じゃないってのは客観的に証明できると思いますよ。TOUWAの人が介護ロボット端末を調べたら何か解るかも知れませんし。

 謎の4分間の出来事は、石川さんの言う事しか今のところ何も手がかり無いですしね。石川さん器用に嘘つける人じゃないし。

 だから上田くんとお似合いだって私は思ってるんです」


 最後の一言は余計だ。

 でも、こういう一言が、確かにいつもの職場のいつもの夜勤と感じさせてくれる。


 「でも、原田さんには迷惑かけてしまったわね。不注意でごめんなさい」


 「いいんですよ。利用者さんは皆落ち着いて眠っておられますし、私は特に困ることも無かったですから。介護ロボット端末の破損だって、こっちの使い方の不備じゃないってわかりますって。事務長は口うるさいですけど、事実を客観的に判断する人だと思いますから、弁償しろとは言われないと思いますよ。

 もう4時を回りましたし、朝の排泄介助を頑張ってもらえれば全然OKです」


 原田さんはやっぱりさっぱりしている。一緒に仕事をしやすい。

 それにしっかり対応もしてくれているし、頼りにもなる。

 こういった動じないところは本当に有難い。

 

 「じゃあ久々に自分の体で、朝の排泄介助を頑張るかな」


 「頑張って下さいね。看護科長に報告する体力は残しとかないといけませんけど」


 「何よ、自分は介護ロボット端末使えてるからって余裕ぶっちゃって」


 「仕方ないじゃないですか。石川さんはそんな滅多にない体験したんだから、当然の代償ですよーだ」


 ふふ、っとどちらからともなく私たちは笑い出した。





 朝の排泄介助の時間になって、私と原田さんは一番最初に2人で214号室に入ることにした。

 私が大沢さんに尋ねたいことがあったのと、その記録を原田さんの「みよちゃん」にリアルタイムで記録しておいて貰うためだ。


 大沢さんにそっと声をかけて、目覚めてもらう。


 「おはようございます、大沢さん。朝のオムツ交換をさせていただきますがよろしいですか」


 大沢さんはゆっくりと左目を開き、少しボーっとしていたが、僅かに頷く。


 当然ながら昨夕来た「ひさちゃん」を私が操作していたことなんて気づいていないようで、私自身の体で初めてお会いする私のことは初対面と思っているようだ。


 私と原田さんの「みよちゃん」は大沢さんの陰部を清拭し、汚れた夜間用のパットを新しいパットと交換する。


 オムツ交換時に見える大沢さんの左大腿部には、私が応急処置をしたのと一緒の位置に古傷がある。ただ、その古傷は切開され縫合された跡もあった。きちんとした治療をあの後早い段階で受けることができたのだ。

 そのことに私は安堵した。

 もしかしたら、あの後大沢さんは米軍に投降してくれたのかも知れない。

 生き残ってくれることを選んでくれて、本当に良かった。


 オムツ交換が終わり、掛物を戻し、私は大沢さんに尋ねる。


 「大沢さん、寝ている間に夢を見ておられませんでしたか?」


 大沢さんは、まだ眠そうな目で私を胡乱うろんげに見ていたが、はっきりしない発音で「見ていた」と返答する。


 「その夢は、大沢さんが兵士として従軍していた頃の夢。グアム島の頃の夢ではありませんでしたか?」


 大沢さんは、驚いたように目を見開き、私の顔を見つめる。


 「大沢さんはそのグアム島で、全身が薄っすら光る謎の女性に夜襲を邪魔され、撃たれた左太腿の応急手当を一緒にした。

 その謎の女性は、昨日この施設に入られた大沢さんを、夕食の時間に起こしに来た女性とそっくりだったのではありませんか?」


 「あ、あんた、何で……何で……そんなことを知ってるんだ……今まで……誰にも話したことがない……妻にも……子供にも……」


 私は大沢さんを助けることができた安堵と、あの頃の尊大だった大沢さんへの意趣返しも込めて……本当は良くないけれど。


 にこっと笑顔で返答した。


 「私が、物の怪の正体、中身の人ですよ」と。









 夜の戦争 おしまい


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夜の戦争 桁くとん @ketakutonn

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