罰ゲームで僕とメッセ交換させられた地味子さんと、二人きりで夏祭り

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

二人きりの夏祭り

 夏祭りが終わってしまった。


 結局、誰からも誘われなかった。


 でも、自分にはどうでもいい。


 家でゲームするのも楽しい。


 この間も、みんなが祭りで騒いでいるとき、映画館が空いていた。


 家の窓からでも、花火は見られたし。

 


 とにかく今は、勉強だ。


 参考書を開いて、机に向かっていた。


 そこに、一本のメッセージが入った。


 なんだろう。誰から?


『電話していい?』

 


「え!?」



 クラスの地味子さんからだ。名前は、姫川さんだったっけ。


 たしか、クラスの女子たちが話していたっけ。

「罰ゲームで、僕と無理やりメッセ交換をさせられた」

 って。


 それでも僕は……。


 僕の方から、鳴らす。


「もしもし」



 姫川さんだ。


 

「も、もしもし?」


 相手の反応をうかがった。

 


「あ、あのね。今からお祭り回らない?」



「え、お祭りだって?」


 何を言っているんだ?

 お祭りなんて、とっくに終わってるじゃんか。


 そこまで言いかけて、黙り込む。

 せっかく電話が来たのに、


「えっとね。大きな街だと、まだやってるんだ。今からさ、一緒に回ろうよ。クラスの子だって誰もいないところでさ」


「わ、わかった! 準備する!」



 幸い、家は誰もいない。みんな里帰りに行っている。

 受験を優先して、僕だけは家に残ったのだ。


 けれど、この胸の高鳴りだけは、押さえることができない!


 騙されているかも。

 そう思った。

 でも、僕が行かないと、姫川さんは一人ぼっちで待っているかもしれない。

 そう思うと。

 


 受験は、落ちたところで死なない。

 

 このチャンスを逃したら、僕は。僕のこの気持は死んでしまう!


 

「ゴメン待った!?」


 駅には、ちゃんとメガネの女の子が待っていた。


「いま来たところ。じゃあ、行こうよ」


 二人でスマホを改札にかざして、姫川さんと電車に。

 

 手! 手をつないでる! 手手手!


「みんながいるとさ、こういうことできないもんね」


 えへへ、と姫川さんが笑う。


「ひ、姫川さん、その浴衣きれいだね」


 今日の姫川さんは、オレンジの浴衣だった。

 

「ありがとう! 新調したんだ」

 


 電車が、祭りのある駅に到着した。


 しかし、入れ替わりでお客は帰っている。


「あはは。さすがにこの時間だとお店もほとんどやっていないね」


 姫川さんが、残念がる。


「いいじゃん。見て回ろうよ」



 お店は、屋台くらいしかなかった。お酒を飲んでいるお客が多い。


 酔っ払いの相手はゴメンなので、別のところへ。


 姫川さん、背が小さいなぁ。ゲタを履いているのに。


「はぐれないでね」


 僕は、姫川さんと手を繋ぐ。


 子ども相手の金魚すくいや射的も、終わっていた。


「おっ、トウモロコシ食べよ!」


 僕たちの戦利品は、焼きとうもろこしと、フランクフルトだけだ。


 自販機でペットボトルのお茶を買って、公園のベンチに座る。


 ワタアメもあったけれど、キャラモノの袋を持ち歩く勇気はなかった。

 

「たこ焼きがあったら、あーんとかできたのにねー」


 姫川さんが、僕の持っているフランクフルトにかじりつく。

 

「これでガマン」


 ホクホク顔の姫川さんだったが、辛子に涙目になる。


 僕はただ、姫川さんのいつもと違う一面に、唖然となっていた。


「姫川さん、もういいよ」


「なにが?」

 

「だって、これだって罰ゲームなんでしょ? ムリをしなくても」


 フランクフルトを飲み込んで、姫川さんは真顔になる。


「……まだ、信じていたの?」


「わたしさ、たしかに遠慮はしていたよ。キミさ、もうすぐ受験だもん。女子にかまけている暇なんてないよねって」


 姫川さんは既に、推薦が決まっていた。


「他の男子に取られる心配は、しなくていいよ。大学は一緒じゃないけど、進学先は女子校だし」

 

「え、それって」


「受からなくたって、わたしはあなたを見捨てないよ。でも、すっごい応援していたい。だから、ずっと側にいてもいいですか?」



「……はい」


 もう夜中も近いというのに、僕の視界は真昼のように開けた。


 まるで、人生がこれから始まったみたいに。

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罰ゲームで僕とメッセ交換させられた地味子さんと、二人きりで夏祭り 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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