第34話 あー、ゴミのことか


 ***


「ただいま……、ってまだ寝てんのか?」


 家に戻り二階に上がると、まだ電気は点いていなかった。


 そして電気を点けると、特に何もないはずの俺の部屋パッと現れるはずなのだが……今日は何かあるようだ。ソファーにでかい何かが。瀬渡、こんなとこで寝てたのか。


 ソファーの前に立ち、気だるげに声をかける。


「おーい朝だぞ〜」

「っん? お、おはよう」


 瀬渡は目を擦りながら起き上がった。


 何、めっちゃすぐ起きるじゃん。まぁあっちの社会は上のやつに起きろと言われれば一瞬で起きないといけないから、それで鍛えられたんだろうか。


 俺は別に朝は弱くは無いけど流石にここまで高速では起きられまい。地味に羨ましいな、そのすぐに起きれるクセ。かといってそのクセを会得するためだけに裏社会には行きたく無いけど。


「お前、なんでこんなところで寝てんだよ」

「いつもこういう場所だもん、むしろ今日は快眠できたくらい」


 やけにスッキリした顔をしている。昨日、変なビルの一室で会った時とは大違いだ。


「でも他にも寝るとこくらい……無いか」

「まずウチ、この家について何も教えてもらってないし」

「そうか……すまん」


 確かに俺、この家に住めとか言っておきながら何も説明していなかったな。でも改めて考えてみるとこの家、寝れるところがソファーくらいしかない。


 瀬渡も俺の部屋のベッドで寝るのは嫌だろうし……いやこいつならやりかねん。決して俺のことが好きだから気にしないとか、そんな理由ではなく単純に何も気にしないだろう。


 それはそうと、早く亜井川の高校時代について調べなくては。


 まずは花火だな。でも、現在六時、流石にこっちから電話するのには早いか……待てよ、瀬渡も途中まで俺たちと同じ高校の生徒だったじゃないか! もしかしたら亜井川について何か知っているかもしれない。


「瀬渡」

「何よ?」


 いつの間にかテーブルに座って水を飲んでいる、綺麗で優美な後ろ姿に話しかけると、彼女は多少不機嫌そうに振り向いた。


 俺は顔だけこちらに向けている、綺麗で、強そうな女に話しかける。


「突然なんだけどさ、俺らの高校に亜井川遠流って奴いた?」

「亜井川……。あー、ゴミのことか」

「いや、今ごみの話をしてるんじゃなくてだな」


 昨日料理作ってくれたときに出たゴミの捨て方はいいのよ。気にしなくて。


「いや、だからゴミの話でしょ? 亜井川、ウチ一年の時に同じクラスだったんだけど、そん時にゴミって呼ばれてた」

「本当か!? なんでそんな風に……?」

「そこまで覚えて無いわよ。ウチはゴミって呼ばれてる亜井川って奴がいじめられていたのを知ってるだけ」


 それだけさらーっと言うと、また瀬渡は水を飲み始める。ほんと、飲んでるところすいませんでした。


 俺は瀬渡の言葉で、一昨日の平井健太の一件を思い出した。もっと言えば、その時に言った花火の言葉を思い出した。



――「ま、まぁとにかくですね、学生なんて興味のない人のことはその人のあだ名ぐらいしか知らないんですよ」


 そして俺はあの時、花火に「むしろ、あだ名すら知らない人の方が多いだろ」とかなんとか返したはずだ。


 高校生、いや学生なんてみんな、クラス奴の顔は分かっても、名前やあだ名を知っているのは少しでも接点があったり、興味がある奴だけだろう。

 

 みんな目の前の部活に、勉強に、恋愛に必死でどうでもいい奴のことなんて頭に入ってこないはずだ。


 と言うことは、学校での亜井川は俺にとって「どうでもいい奴」だったのだろうか? そんなはずはない。二年生という一年間の間同じクラスにいて、知人に気づかないはずがない。


 だったら不登校か何かか? そんなことを瀬渡に聞いてみようと思ったが、おそらく瀬渡は先程以上のことは何も知らない。なぜなら二年の時も俺と彼女は別のクラスだったからだ。


 つまり瀬渡は二年の時、俺と亜井川のクラスと別のクラスだったのだ。だから何も知っているはずがない。


 普通に考えるならば不登校、病欠と言ったところだが、どちらにしろどこかのクラスには在籍しているわけで、クラス名簿には名前があるはずだ。でも、学生はクラス名簿なんて滅多に見ない。だから俺は気づかなかったのだろうか。


 でも例えそうだとして、亜井川が二年の時に同じクラスに在籍していたとしても、それが今回の彼の計画には繋がる気がしない。


 俺は再び瀬渡の背中に向かって話しかける。


「例えば、亜井川が二年の時に不登校にだったとするだろ?」

「は、何言ってんの?」


 瀬渡はそんな尖った言い方で今度は椅子を動かして身体ごとこちらへ向けた。怖いよぉ……。あなたはデフォルトが強そうだから余計迫力があるんですよ。


 瀬渡は、身体をこちらに向けたくせにスマホをいじりながら答えた。


「なったとする、じゃなくて、あいつ確か一年の終わり頃から不登校だったわよ」

「え、そうだったのか……それで」

「それで?」


 瀬渡がギロッと目を俺に向けた。怖いよぉ……。俺なんで今日はこんなに怖がってるんだろ。


「……それでさ、あいつ、今夜の二年D組の同窓会で出席者全員殺そうとしてんだけどさ……」

「はぁ!?」


 瀬渡が驚きでスマホを落とした。その画面が映し出していたのは、とある料理サイトだった。一生懸命勉強してるんだ……か、可愛いよぉ……。



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