第25話 爆乳なのだ。花火と比べ物にならない程に


***


 アジトを出て少し歩き、誰もいない陰気な公園に差しかかったところで、調査中に現場でよく会う巡査部長の河井さんにたまたま出会した。


 巡査部長というが、赤みを帯びた黒髪ショートボブの可愛らしい女性だ。ちなみに俺より一つ年上。性格はお花畑である。

 

 そして隣に一人、男性の警官もいる。落ち着かない様子から察するに、どうやら入りたての新人のようだ。


「あー、憩野君ー!」

「どうも」


 河愛さんは明るく手を振ってきたので、俺は軽く頭を下げて返す。


「何かの調査中?」

「ええ、まぁ」


 とてもヤクザのアジトへ行っていたとは言いにくいな……。


 まぁ別に俺は警察の味方でも正義の味方でもなく、あくまでも依頼人の味方だから知られたとしてもいいのだが。


 河愛さんは無邪気に話し出す。


「さっきねー、現場で突然ナイフ持って暴れ出した人がいてねー、驚いたよ」

「何言ってるんですか。河愛さんからそんなこと日常茶飯事でしょ」


 背が150センチくらいなので175センチの俺をかなり見上げるようにして話す河愛さん。

 

 別にそれはいいのだが、この人、その警察の制服破れちゃいませんか? というくらい爆乳なのだ。花火と比べ物にならない程に。


 彼女を見下ろしながら話していると男の本性を抑えきれずに視線がつい胸に行ってしまう。まぁ俺くらい長い付き合いになると三回に一回くらいしか行かなくなるけどな。


 河愛さんはぽわ〜っと話を続ける。


「昨日のテレビ見た〜?」


 突然何の話だよ……。


「いえ、特にテレビは見ない人間なんで」

「実は私もそうなんだよー!」


 飛び跳ねながら、爆乳を揺らしながら河愛さんは言った。


 俺見てないもん! 鍛えられてるもん! テレビも見てないけど爆乳も見てないもん! そんなわけでとにかく俺は河愛さんの胸部を眺めるのに精一杯で、ふと浮かんだ「じゃあなんでテレビのこと聞いて来たんだ?」と言う疑問は気づけばどうでもよくなっていた。


 隣にいた新人の男性警官が河愛さんに声をかける。


「河愛さん。あの、そろそろ巡回を再開した方が……」

「あ、うん。そうだね〜」


 河愛さんがそう答えた直後、何故か男性警官が「クソっ! どうして俺は……」と小声で呟いた。自分を責めているようだった。……分かるぞ、その気持ち。


 俺は男性警官に手招きする。


「そこの君、ちょっと来て来て!」

「俺、ですか?」

「そうそう」


 そして怪訝そうに近づいてきた彼の肩に手を回し、河愛さんに聞こえないように問う。


「お前、河愛さんの胸を見てしまう自分を責めてんのか?」

「……はい」


 彼は悔しそうに答えた。仕事中なのに、巡査部長の胸に目が行ってしまう自分が許せないのだろう。ったく、真面目なやつだ。


 河愛さんが不思議そうにこちらを見てきている中、俺は彼の肩を優しく叩く。


「それはお前が悪いんじゃないんだ」

「……え?」

「それは生まれ持った男の本性だから仕方ないんだ。だから自分を許してやれっ」

「いいんですか……?」


 彼は涙目で聞いてきた。余程今まで悩み、そして自分を責めて来たのだろう。だが、それも今この瞬間で終わりだ!


 俺は彼に小さくサムズアップした。


「もちろん、いいに決まってるだろっ!」

「……あ、ありがとう……ありがとうございますっ!」

「いい警察官になれよ!」


 涙を流して喜ぶ男性警官に俺はエール送ると、彼を河愛さんの元へ戻した。当然、河愛さんは不思議そうな顔をしている。


 俺はもう家に花火が来ているだろうから、ここでおさらばさせて頂くことにする。


「では、俺はこれで」

「ちょっと待ってー、なんで斉藤君泣いてんの!?」


 河愛さんはきょとんと首を傾げた。流石に止められてしまうか……。


「あれですよ。ちょっとした仕事のアドバイスをしたんですよ」


 そう言って俺が「なっ!」と彼に視線を向けると、彼、斉藤は大きく頷いた。すると、どうやらそれで納得してくれたらしい河愛さんは笑顔で手を振り、斉藤は無言で大きく頭を下げてきた。


「ふ〜ん、そっかー! じゃあね〜憩野くーん!」

「はい。ではまた」


 そう言って俺も軽く手を振りながら家へ向かって歩き出す。


 普通はアドバイスだけで泣き出すやつなどいないと思うが、それもよしとしてしまうのが河愛さんだ。


 本日一回しか胸を見なかった自分を褒め、そして斉藤の良き今後を願い、俺は家へ向かって走り出す。……何やってんだ、俺は。

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