俺はまだ画面越しの君に恋してる

八蜜

プロローグ


蝉が鳴り響き外の日差しが身体を焼く午前。学校には行かず、彼女との思い出の場所を巡る毎日。スマホの写真ファイルの中には彼女と過ごした長く、それでいて短い、平凡な毎日が記録されていた。画面の向こうに写る彼女は綺麗で、俺の全てだった…


彼女と待ち合わせをしていた公園の大木。午前…と言っても11時過ぎごろ、もうお昼だ。公園には人の影は無く、額から汗が垂れる俺が居るだけ。長い間外に出て居なく、夏の暑さも相まってきつい。


「やっぱりここに居た」


声に驚き振り向く。そこに居たのはクラスメイトで彼女の親友で俺の親友…御堂秋葉(みどうあきは)と芽吹春(めぶきはる)長時間外に居たのか汗で制服が肌に張り付いている。


「何?」


そっけなく返事をする。お願いだから帰ってくれとそういう意味も込めて。


「そんなに邪険にしなくてもいいだろ!?学校なんで来ないんだ?」


分かっている。でも俺の口から答えが聞きたい。そういう意味に聞こえた。だから望んでいる答えを口に出す。


「楽しくないからだよ。夏目が居ない夏も人生も…」


「一年だよ!!もう、夏目が死んで!」


「言うなッ!!」


聞きたくない。


「私もまだ実感湧かなくて振り返ったらまたいつものように夏目が笑ってくれてるってそんな気がして…でも、もう夏目は居ないんだよ!」


「亡くなった人はいくら悲しんでも、後悔しても、もう帰ってこないんだぞ…なら俺たちが受け入れなきゃ居なくなった夏目に申し訳ないだろッ!」


会いたくなかった。聞きたくなかった。会ってしまえば、聞いてしまえば、受け入れるしかないから…いつまでもうじうじしている俺なんかよりこいつらの方がよっぽど分かっている。


「一年前から昨日まで夏目が死んで塞ぎ込んでたお前が外に出てきたのはどうしてだ…?」


「…」


「お前も変わろうと努力したんだろ…?何も出来なかった自分の無力さに打ちひしがれて、心ごと壊れそうになったお前が誰かに助けて欲しくて外に出たんだとしたら俺は、俺たちは一緒にその悲しみを乗り越えていきたい」


鼻が痛くなり…目頭が熱くなる。堰き止めていた激流が大粒の雨になって地面に落ちる。

涙、それは人が感情を表す為の手段。


「俺は…これからの人生笑えるかな…?」


「俺(私)たちが居る」


その言葉に背中を押されたような気がした。背を摩る2人の手は暖かく、何より優しかった。

声にならない声をあげ、今までの悲しみを吐き出す。その行為自体には何の効果も無いのかもしれない。だが、少しだけ足枷の付いていた足が軽く、一歩としては凄く小さな一歩かもしれないが少しだけ、前に進める気がした。

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俺はまだ画面越しの君に恋してる 八蜜 @Hatime

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