3-3. ジェットコースターのように[3]
流れていたラジオ番組が終わり、交通情報と天気予報が始まった。
――今夜の関東地方は、明け方にかけて山沿いの一部で一時的に雨が降り、ところによって雪になるでしょう。平野部は曇りで、雨は降っても小雨程度の予報です。明日は朝からよく晴れた一日になるでしょう。東京の最高気温は八度。日差しはありますが、北寄りの冷たい風が吹いて気温よりも寒く感じられそうです。寒さ対策をしっかりしてお出かけください。――
寄り添うようなラジオのアナウンスに野枝実が耳を傾けていると、
「何か音楽でも聴く? 好きな曲かけていいよ」
「はい、あ、ウォークマン置いてきちゃった」
膝に乗せたトートバッグをごそごそする野枝実に、じゃあ、と先生はズボンのポケットをまさぐってスマホを取り出し無造作に手渡した。
「いろいろ入ってると思うから、適当に見ていいよ」
「えっ、音楽?」野枝実が動転して口走ると、
「うん、何か気になるのがあれば」
手帳型のスマホケースはクレジットカードやICカードも入ってずっしりと重い。恐る恐る画面をスクロールしながら渋い色合いのアルバムジャケットたちに指先と目を滑らせていると、ふと見慣れたものが現れた。ずっと前、こうして先生の車に乗せてもらっていたときにラジオから流れたフィッシュマンズのアルバムであった。
「先生、フィッシュマンズ聴いてもいいですか」
「いいよ、なんでもどうぞ」
『いかれたBaby』のイントロが流れ始めたとき、窓の外で背の高い防音壁が途切れ、広大なマンションが顔を出した。なかなか遠ざからない巨大な建物を野枝実はしばらく凝視していた。
まだあかりがついている窓もあるが、どの窓もカーテンがきっちりと閉ざされてところどころから細い光が漏れている。窓を閉めていてもきっと一日中車の気配がするのだろう。
「高速沿いの家とかマンションとか見ると、なんか不思議な気持ちになるよね」ふと先生が口を開く。
「俺たちはこうして車で通り過ぎて一瞬だけど、例えばあそこのマンションに住んでる人はこの風景がずっと続くんだなって思うと、なんかね、」
「不思議な気持ちになりますね」
前を見据えたまま、うん、と先生が大きくうなずく。その横顔がトンネルのオレンジ色に照らし出される。
夜の高速道路のトンネルには、そのようなことをふと考えてしまうような色合いがあった。
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