エピローグ

私は吸血鬼ノスフェラトゥ


永遠の生を生きる者。

絶対の個にして、命を奪い、糧とするもの。

死から、病から解放された、絶対の存在。


そして―永遠の、孤独を生きる者。


「…ローラ…」


かつて、私には愛する人がいた。

その人といることが、私のすべてだった。


その瞳が私を捉え

その笑顔が、私を溶かした。


動かぬ私の心臓を動かし


冷たい私の体を温めてくれた。


いつまでも共にいたかった。




その少女は、私に『私』を教えてくれた。

吸血鬼としてではない、私を生んでくれた。


人と共に生きる、その大切さを教えてくれた。

人を愛する―その素晴らしさを、教えてくれた。


ローラは―命の重さを教えてくれた。


ずっと孤独だった私の生に

明るく暖かい火を灯してくれたのが、ローラだった。


ローラ。


私が初めて、大切だと思った人。


私に、愛を教えてくれた人。



「ローラ…」


もう一度、その名を呼ぶ。


―なんですか、ヴァレンシアさん


その声が、今でも聞こえてきそうだ。


いつの日か、一緒に買い物に行ったときに、プレゼントし合った『羊のブローチ』をもてあそぶ。



―あ、これなんか可愛い!ねぇねぇ、ヴァレンシアさん、これ買いっこしましょう!

―羊か。…まぁ肉はうまいが

―またヴァレンシアさんはそんなことばっかり言って!可愛いんです!!癒し系です!ほら買いますよ!!

―あ、お、おいローラ!


そのやりとりを思い出し、つい笑ってしまう。


もう、そのやりとりも、できないのだ。


ほかならぬ、私が奪ったのだから―



ローラの形見のブローチと…私が持つブローチが、掌の中で合わさる。


羊と、羊が合わさり、ひとつになる。


その瞬間。


突然、ヴゥン!!と魔方陣が展開し、グルグルと私を取り囲む。


「な、なんだ!?こ、これは…この感じは…!!!」


この暖かい気。

ずっとずっと、焦がれていた


あの人の、もの。


「まさか…!!!」


魔方陣が一気に広がり、私を真っ白な世界へ転送する。


「く…あぁー!!!!」





「…ここ…は…?」


真っ白な世界。


何もない…でも確かに感じる…


掌にある、ふたつのブローチが、言っている。


あの人が、いると。


「―ヴァレンシアさん」

「―!!!!!」


背中にかけられた、愛する人の声。

涙に濡れる、その人の笑顔。


ローラが最後に施した、魔法。

羊のブローチに託した、彼女の魔法。


「どれだけ…会いたかったか…!!!」

「私もです…!」


ぎゅっと抱き合う、私と、ローラ。


ヴァレンシアとしての、私。


「―まさか、こんな魔法を仕込んでいたなんて…」

「ふふ、私、大魔法使いなんですから。」


たった1度だけ許された、ローラとの逢瀬。


「―ローラ、ずっと、こうしたかった…」

「…ヴァレンシアさん…」


彼女の唇に、私自身の唇を重ねた。


Fin

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命の価値―吸血鬼とひとりの少女― さくら @sakura-miya

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