僕の嫌いなダイエット
お題:僕の嫌いなダイエット 制限時間:2時間
(2014.2)
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「そういえばお正月中、少し太った?」なんて隣を歩く藤崎さんはいう。
しょうがないじゃないか、お正月なんてぐうたら寝正月するためにあると僕は思ってる。
今日はお正月明け最初の登校日だった。ちょっとざわついたいつもと違う休み明けの学校も終わって、今は駅の改札に向かって、僕らは駅内のビルの中をぶらぶら歩いている。
太ったか、なんて言うから此方も少しむっとして言い返した。
「藤崎さんこそ、もしかして」
「……そんなことないわ」
「本当?」
「本当よ、そんなに太って見える?」
傷ついた、という表情を作って此方を見られる。その顔はちょっと苦手なんだ、僕の中の善人が「女の子を傷つけるなんて馬鹿だなぁ」と責めてくる。
「売り言葉に買い言葉だよ」
「そう、ならよかった」
ほっと溜息をついて柔く笑う彼女。善人がウンウンと頷いているのが鬱陶しい。
「でも、やっぱりちょっと太ったような気がするわ」
「そんなに気に成るのかい」
「なんだろう、すごくね、ほっぺとか引っ張りたい重量感あるわよ」
「そうか……そんなにか……」
そりゃあ、もっぱら正月中の運動というと雪かきくらいで、基本的に家で引きこもっていたらそうなるか。しかしそこまで女の子に言われてしまうと、良いかっこしいな僕は気に成って仕方がなくなってしまった。
ダイエットとか、面倒だし成長期の僕は特に考えなくてもいいじゃないか、と悪魔のささやきが聞こえてくる。対して赤コーナー、天使曰く藤崎さんにそこまで言わせてしまうくらいふっくらしているのは自分で許せるのか!と攻撃的だ。
数分間のバトルの結果、僕は嫌いなダイエットを始めることにした。
「ダイエット……しよう」
握りこぶしを作って一人ごちる。
「ダイエットするの?」
「……だって、そこまで言われたら気に成るよ」
「そっか」
「うん」
面白い事を思い付いた、と言わんばかりに藤崎さんは小悪魔的な笑みを浮かべる。
悪魔とまで行かない、可愛い、小悪魔の微笑みだ。
藤崎さんがそういう顔をするということは、あまり僕にとって良いとは言えない事のはず。
知らず、汗が一筋背筋を伝った。
「じゃあ、一緒に喫茶店とかはいっても、甘いもの食べれないね」
「……そうだね」
「例えば、ドーナツ屋さんとか行っても、山田君はおかわり自由のカフェオレだけなんだね」
「……そうなりますね」
「残念だなぁ」
「……残念ですね」
終始上機嫌で藤崎さんが悪魔のような言葉を紡ぐ。この口ぶり、つまり、この後想定されるのは……
「山田君、電車の時間までだいぶあるし、良ければお茶していかない?」
「……ぜひ……行きたいです……」
その後、喫茶店で美味しそうに僕の好きなチーズケーキを口に運ぶ藤崎さんを恨めしげに見ながら、楽しいけど少し辛いおしゃべりの時間が過ぎていった。
じっとメニューをみていても、「ダイエット、するんだよね?」と笑顔で言われてしまうとさっき言った手前メニューから目をそらすしかない。
気のせいか。いつもよりカフェオレの味は苦かった。
ダイエットなんて嫌いだ!
きちんと運動して、一ヶ月後には藤崎さんを見返してやろう、と僕はコーヒーカップに誓った。
即興小説トレーニング集 名無しのGさん @garana16
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