服に着られる

服に着られる

　「ねえ、知ってる？とっても可愛くてオマケに永遠の若さをくれる服があるんだって」

放課後の待ち時間中にクラスメイトが話し掛けてくる。

「あ～、なんか聞いた事あるかも。一度着たら最後、二度と脱ごうと思わなくなるくらいキレイなんだっけ？」

今、アタシ達の間ではある噂話が広まっている。

着ると脱ぎたくなくなる服、美人になれる服、永遠に若いままでいられる服。

理想の自分でいられ続ける服。とにかくとってもキュートでとっても可愛い服の噂。

でも、誰が言い出したか分からないし、誰も見た事のない、そんな話。

ママはドラマの見過ぎだ～なんて言ってたし、彼氏は危ない薬じゃない？なんて言ってた。でもアタシとしては友達と話をした新しい服の宣伝って説を信じてる。

「あ、知ってるの？じゃあじゃあ、学校近くのあの店にそれらしいのが入ったかもって聞いた？」

「え、そうなん？それなら後で行ってみようかな。駅の裏通りにある店だよね？」

「そうそう、友達の友達があそこで見たって言ってたんだよね！私が先週行った時は何もなかったんだけどなぁ」

私は今日はデートで行けないし残念と、呟くのを聞きながら今日の予定を考える。

バイトは…今日は無い。デートも週末に予定してるから平気。

ママからのおつかいも特に頼まれていないし…お財布の中はちょっと厳しいけど、お昼を抜けば今月は持つかな？せっかくいい話を聞いたんだし行ってみようかな。

「ほんと？じゃあアタシ行ってみよ。ちょうど週末デートだから、新しいの欲しかったんだよね～」

「マジ？もしあったら色々教えてよ！」

ば～いと手を振って一足先に教室を出ていく。やる事も決まったし善は急げ、ちょっと小走りしながら学校を出ていく。

「いらっしゃいませ～」

元気なお姉さんの声を聴きながら店内に足を踏み入れる。夕方の店内はどアタシと同じ学生服姿の子や子連れの母親、早めに仕事が終わったＯＬさんたちがまばらではあるけどチラホラといた。でも話題の新作に集まってって感じじゃなさそう。

アタシも新作コーナーを見て回るけど…特にない。でもこの服はいいかも？

「何かお探しの物ありますか～？」

良さげな新作を探してると店員のお姉さんに話掛けられる。せっかくだし、聞いてみよう。

「なんか～、すっごいキレイな服があるって聞いたんですけど、新しく入ったりしてます？」

「う～ん…新作の中で一番キレイと言われると…これですかね？どうです、今年のカラーを使い込んだいいモノですよ」

ふっつーにセールストークされたって事は無いって事だよね。って事は外れか、ざんねーん。

お姉さんの話を程ほどに聞き流しつついちおー店内を見て回っていると、値下がりコーナーにそれはあった。

　目が離せない。（欲しい）その服が余りにも美しいから。（欲しい）見てはいけないと分かるくらい引き込まれるのに、どうしても目を離す事が出来ず（何をしてでも欲しい）。

マネキンからその服を脱がそうとする。服のサイズにマネキンが合ってないのか、脱がすのに時間が掛かった。（誰かが邪魔をするから、その手を振り払う）

マネキンからようやく服を脱がせられた。他に物がないんだし、マネキンが着てた物だけど、どうしても欲しいから仕方ないよね。（辺りにはさっきまで生きていた“何か”が転がっている）

折角の服が汚れないように、ゴミが散らばった店内を歩く。試着して、そのまま着て帰ろう。こんなに綺麗なんだもの、着ないで持ち帰るなんて選択肢、ないない。

「あれ、誰もいない」

気が付けば、あんなにいた店員さんが1人もいなくなっている。他のお客さんも、姿が見えない。いい服置いてる店なのに、流行ってないのかな？勿体ない。

「試着室借りまーす」

念のために一声かけると早速着替える。着替える前から楽しくて仕方ない。

気分はウキウキと、足取りはルンルンと、店を出て街を歩く。

今のアタシは最高に美しい。まるでアタシの為にあるような服に出会えたんだもの。

ショーケースの前でぐるりと回ってみる。最高。ずっと着ていたいくらいだわ。

そのままの気分で家に帰ると部屋に籠ってコスメとアクセサリー探し。

服に合わせてカスタマイズしないとね。でも、ちょうどいいのは無い。

新作探しに明日も店を回らないと。

いや、せっかく盛り上がっているんだし、一刻も早く手に入れたいわ。

ちょっと夜遊びになるけど、今日くらいはいいよね。

「いってきまーす…」

家族が眠っているので声は小さく、足音も小さく。

扉を少し開けて私は家を出て行った。

　「……店内で複数の死体が見つかった事件ですが、未だ詳細は分かっておらず、監視カメラに映っていた女子高校生と思わしき人物の行方を追ってるとの事です。以上現場からでした」

「ありがとうございます。では次のニュースです。深夜の謎、突如現れたマネキンについてです。通報をした住人によると、早朝に急に物音がして様子を見に行くと玄関にマネキンが倒れこんでいたとの話です。また、娘さんが昨夜から姿を見せていないとの事で──」