第38話 学院生活は続いていく

 レイが本気になろうとしているのを本能的に感じ取ったのか、廃人と化しているバルサとルイドは、唸り声を鳴らして警戒している。


(二人の動きは速い……なら、止めるまでッ!)


 レイは地面を力強く踏み込み、前傾姿勢のまま一気にルイドへ迫る。そして、神聖語で呟いて右手に紫電の刃を生み出すと、渾身の貫手ぬきてを叩き込む。


 しかし、ルイドは異常な身体能力と反射神経を駆使して、大きく横に飛び回避。

 そして、これがレイの狙い。


 どんなに身体能力が高くとも、空中にいる間は回避出来ない────


「《雷線よ》ッ!」


 レイの向けた左手人差し指から、一筋の電撃が迸る。


「グァ……ッ!?」


 電撃は狙い違わずルイドの右足を撃ち抜いた。

 これで、今までのような素早い行動は出来なくなっただろう。


 しかし、レイがルイドに注目している間に、バルサがレイの背後から迫り、飛び掛かってきていた。


 ソフィリアが接近を知らせてくれたこともあり、レイは問題なく振り向くと、バルサの繰り出したかかと落としを両腕を交差して受け止める。

 その衝撃でレイの足元が若干抉れる。


 レイはバルサの足を掴むと、自分を中心に円運動を利用してバルサを振り回し、充分な遠心力を加えて吹っ飛ばす。


 そして、宙に放り出したところを迷わず追撃。


 左手人差し指をピシッとバルサに向けて────


「《雷線よ》」


 宙に一条の閃光が迸り、バルサの脚を撃ち抜く。

 バルサは苦しそうに呻き声を上げながらも、しっかりと着地してみせる。


『レイ、今ですッ!』


(了解ッ!)


 ソフィリアの合図と共に、レイはまずルイドに急接近する。

 脚に傷を負っているルイドは最早レイの動きに反応することは出来ない。


 レイは右手の紫電の刃に一層マナを集中させ、その電撃の勢いを高める。

 耳をつんざくような高周音が響き、眩しい閃光が辺りを照らす。


「じゃあなッ!」


 レイは左から右へ、紫電の刃を一閃する。

 その一太刀はルイドの首を走り、半瞬遅れてどす黒い血が辺りに散る。


 そして、ルイドは力を失ったようにその場に崩れ落ち、やがて肉体を黒い塵と化して、風に飛ばされていった。


「グェァアアアアアアアアアアアッ!?」


「次はアンタだよ」


 言葉にもならない声を上げて叫ぶバルサに、レイは鋭く視線を向ける。


 バルサは身体のあちこちから暴走した魔力を炎にして吹き出させている。

 このまま放っておいても活動停止しそうだが、それまでの間にどれだけの被害をもたらすかわかったものじゃない。


 バルサは自身の杖すらも燃やしながら、目の前に紅蓮の火球を生み出すと、最後の力を振り絞ってそれを放つ。


 猛々しく燃える火球は地面すらも黒く焦がしながらレイに迫る、迫る────


「手加減はナシ、全力で吹っ飛ばす!」


 レイは両手を前に持ってきて、迫り来る巨大な火球と、その先にいるバルサをしっかりと見据える。


「《力の奔流よ、道を成せ》──」


 レイの両手の前に膨大なマナが集束、圧縮され、尋常ならざるエネルギーの塊を生み出す。

 それに震え上がるかのように、地面は振動し、大気は唸る。


(せめてもの情けってとこだお父様……一瞬で終らせるよ)


「ぶっ飛べ──ッ!!」


 レイは生み出した莫大なエネルギーの塊を一気に解き放つ。

 【オリジン・バースト】──圧倒的エネルギーの奔流で、対象の根源ごと消し去る超高火力レーザー。


 轟音が鳴り響く。景色が白熱し、皆の視界を焼く。

 解き放たれたエネルギーは真っ正面から火球を飲み込み、何事もなかったかのように消し去る。そしてなお突き進み、目を見開くバルサを光の中に包み込む。


 徐々にそのシルエットが消えていき、やがて跡形もなくこの世から消え失せる。


 一気に訪れた静寂。

 レイの眼前には、円柱状にくりぬいたかのように抉れた地面や木々の残骸があった。


 これらの戦闘を、驚愕の表情で見守っていたアリシア、ルードル、リエラ。マキもほとんど表情は変えていないが、微かに目を見開いている。


『やっと、終ったんですね』


(っぽいな……でも、これから新しく何かが動き出す。絶対にな)


 そう。バルサとルイドにどういう細工を施したのかはわからないが、圧倒的な力を植え付ける代わりに廃人に変えた犯人がいる。

 それが人なのか、組織なのか、はたまた国なのか……。


 どれにせよ、これで終りというわけではないだろう。


「ま、今は大丈夫だろ……」


 レイはアリシア達に振り返ると、気持ちを切り替えるようにパンと手を叩いた。


「よし、先生達に報告しに戻ろう」



 □■□■□■



 レイはこれらの一件を近衛魔法騎士団『執行室』に報告した。


 『執行室』としては見過ごせない……いや、もしこれが関係が悪化している隣国と何らかの関わりがあるなら、アスタレシア王国としても見過ごせない事件だ。


 レイは室長のルーナから、より一層アリシアの護衛に力を入れるように指示を受けるのだった────



 □■□■□■



 ────数日後。


「で、結局あの事件は何だったのかしら……」


 下校中、アリシアは隣を歩くレイに向けて呟く。


「いや、まだ『執行室』でも情報は掴めてないらしい」


「そう……でも、良かったの? 私が何か言えるような立場じゃないことはわかってるんだけど……」


 レイは口ごもるアリシアの言おうとしていることを察する。


 レイを家から追放したバルサ。魔法の才能のことで散々レイを見下してきたルイド。

 その二人に恨みを持つことはあっても感謝などは到底出来ないレイだが、仮にも血の繋がった関係。


 そんな二人を自分の手で葬り去ったレイを、アリシアは気に掛けているのだろう。


「まあ、思うところはある……。

 でも、あれが最善だったと思うんだ。あのまま放っておいても、恐らくバルサやルイド自身が苦しいだけだろうしな。

 それに、誰かにあの二人の相手を他の人に任せたくなかったんだ。俺が自分でけりをつけたかったんだよ」


「そう……」


 レイとアリシアの間に妙な沈黙が流れる。

 そして、アリシアはそっとレイの右手を取り、手を繋ぐ。


「え、あ……アリス?」


「何も言わないで……」


 レイの右手に、小さくて柔らかいアリシアの手の感触。

 年頃の男子としては、これでドキドキするなと言う方が無理がある。


『れ、レイッ!? 何ときめいちゃってるんですかッ!? 今すぐ手を振りほどきなさい!』


(んなこと出来るわけないだろソフィー!? こんな経験そうそう出来ないんだからな!?)


『わ、私が手でも腕でも繋いであげますから!』


 レイは脳内でギャンギャンわめくソフィリアの声を無視しながら、この妙な気恥ずかしさと緊張感に心地よさを覚えていた。

 横目に見れば、アリシアの顔も真っ赤に染まっている。


(それにしても、一体どういう風の吹きまわしだ……?)


 と、レイがふとそんな疑問を浮かべていると────


「せんぱーい!!」


 後ろからリエラが駆けてきながら、声を掛けてきた。


 それを聞いたレイとアリシアは反射的にバッと手を離し、何事もなかったかのように振り返る。


 リエラの隣には、やはり相変わらず無表情のマキがいる。


「途中までご一緒しても良いですか?」


「ん……ああ、もちろん良いぞ? な、アリス?」


「え、ええ。構いませんよ?」


 レイとアリシアは心の中で「危なかったぁ……」と、胸を撫で下ろしていたのだが、危なくなかった。アウトだった────


「と、ところで……その……」


 リエラが恥ずかしそうにモジモジしながら、上目遣いで尋ねる。


「どうして先輩とアリシア様は手を繋がれていたので……?」


「「──ッ!?」」


 思い切り見られていたのだった────


 このあと、レイとアリシアは必死にごまかしたのだが、それはまた別の話である。


 そして、レイはソフィリアの呆れたようなため息を聞くことになるのだった。




 ────レイとソフィリア。

 この同じような境遇の人間と天使の出逢いが全ての始まりだった。


 これからも、レイ達の魔法学院生活は続いていく────













【あとがき】

最後まで読んでくださり、作者は大変喜んでおります! ありがとうございます!


もし、これからも作者とその作品達と仲良くしていただけるようでしたら、作者もフォローしてくださるととっても嬉しいです!


では、また作品を通してお会いしましょう!

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追放された無才の魔法師と天から堕ちた天使様の共同成り上がり快奇譚~「俺に、魔法を教えて」が全ての始まり。数年間堕天使のもとで魔法を学んでいるうちに、いつの間にか最強の魔法師への道を歩んでいました~ 水瓶シロン @Ryokusen

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