第16話 ノインとユーノの休日

 

「うっわ! 凄い……温泉だ~っ!」


 眼下に広がる光景を見て、展望台の手すりに走り寄るユーノ。


 莫大な富を帝国にもたらしたミスリル銀鉱脈、ユニークスキルである”シンカー”、”進化”の解析データについでに分析したユーノの女神スキル。


 着任早々たくさんの成果を出した僕たちは、研究シーン以外では常識人でホワイトなイレーネ所長の計らいで、帝国北部の山中にあるキノサ温泉郷に休暇に来ていた。


「所長の話では、最高級の温泉宿が僕たちの貸し切り……しかも料理食べ放題!」

「凄い待遇だね」


「マジでっ!? 天界では温泉は上級女神連中の社交場だから、わたし、温泉に来るの初めてだよ~」


「……前から思ってたけど、女神業界ってやけにブラックじゃね?」


「んん~? 下積み時代は休みが月2で給料が現物支給なくらいで、普通だよ~」


「…………」


 社畜女神根性満載なユーノのセリフに突っ込んではいけない気がしたので、僕はユーノの手を引き温泉街へ向かう。


 街に近づくにつれ、ほのかに香る硫黄の匂いと火の魔法力が強くなる。


 屋台に並ぶ”温泉まんじゅう”、”温泉たまご”の文字……ここでしか食べられないグルメに目移りしてしまう。


「おじさ~ん! あんことクリーム10個ずつ!」


 夕食もあるんだからほどほどにしてよ……そういう暇もなくユーノがまんじゅうを買い込んでいる。


「はいっ! ノインの分!」


 笑顔でまんじゅうを差し出してくれるユーノ。

 苦笑しながらまんじゅうを頬張ると、この地方特産のあんこの甘味が口いっぱいに広がる。


「うわ……美味い! いくらでも食べられそうだね」


「でしょ~?」


 僕たちは連れだって温泉街の通りを歩く。


「えへ、なんか楽しいね」


「だね」


 ふと、”シンカー”が発現した後、今日までの怒涛の日々を思い出す。

 執行猶予中のユーノにもいい気分転換になるだろう。


 久々にゆっくり羽を伸ばそうと、僕は心に決めるのだった。



 ***  ***


 ちゃぽん


 目の前に広がる、万年雪を頂く霊峰……涼やかな音を響かせる小川のせせらぎ。

 キノサ温泉郷随一の温泉宿ご自慢の露天風呂は最高だった。


 じんわりと沁み込む癒しの魔法力が、身体の芯に残る疲れを溶かしていくようだ。


「そういえば、アンロックされた女神スキルってどんなの?」


 男湯と女湯を仕切る板越しにユーノに話しかける。


 混浴じゃないのが少しだけ残念だけど、僕はユーノに付属している一対の脂肪塊に興奮するわけじゃないのでこれで良かったかもしれない。


 おそらく、湯面にぷかぷかとマーマンのケツのように浮かんでいるのだろう。


「むむっ……なにかユーノちゃんに対する罵声のオーラを感じるぞ?

 ……それはともかく、今回アンロックされたのはD-女神スキルの”エリクシルヘア”だよ?」


「それってどういう効果があるの?」


 相変わらず僕の心を読んでくる女神ちゃんである。


 ”エリクシル”……癒しの魔法力を生み出したという、創造神の一柱だ。

 さぞかし凄い効果があるんだと期待したのだけれど。


「枝毛が治ります!」


「役に立たねぇ!?」


「なに言ってんのノイン! 女子的には大事ッ! イレーネちゃんも興味津々だったんだから!!」


 バッサリと斬った僕の評価に、不満なのかバシャバシャと湯を叩く音が聞こえる。


 ”シンカー”もそうだったけど、女神ちゃんのつかさどるスキル、ちょいちょいハズレを混ぜるの何とかして欲しい。


 まあ、もっと女神ランクを上げればすごいスキルがアンロックされるんだろうし、些細な問題だよね……僕はもう一度湯船で大きく伸びをする。


 女の子のお風呂は長いと相場が決まっている。

 先に出ておくよ、そうユーノに声を掛けようとした時。



 ズ……ズンッ



「ん? なんだ?」


 お腹に響く低音が、野山を走る風に乗り耳に届いた。


「!? ノイン、正面の山!!」


 女湯からユーノの慌てた声がする。


「え!?」


 視線を正面の山に映した僕の目に衝撃の光景が映る。



 ド、ドドドドドドドッ!



 雪の覆われた山頂から、真っ赤なマグマが吹き上がっている。

 温泉郷にほど近い霊峰……ソイツが突然噴火したのだ。

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誤植から始まるスキル無双 ~球でも投げてろとギルドを追放された僕の【シンカー】ですが、実は女神の誤字で【進化】でした なにこれチートすぎる~ なっくる@【愛娘配信】書籍化 @Naclpart

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