ほうこくしてみた→怪しい謎の人影〈 〉

「次はもっと早く持ってこようね、真白ちゃん」

「はい………」


 七時間かけてマジックバックの中の素材を全部納品することができた。いつも同じダンジョンにしか行かないから、素材の種類は量に比べて少なかったけど、その分、量が物凄かった。


「あっ、あの…これ…」


 早く出さないと…て考えてたら、すっかり忘れてた、紫色の魔石の欠片のことを思い出した。


「これは?」


「だ、ダンジョンに落ちてた魔石…です」


「ふむ…これは、割る前はどんな様子だったかい?」


 どんな様子…確か…


「えっと…禍々しくて…なんだか、いやな感じ、がしました」


「一個だけだった?」


「はい」


 返事をすると、東さんは顎に手を当てて考え始めた。


「ふむ…」

「東さん、これって」

「多分、そうだろうね…次、同じ様なモノがあったら、そのまま持ってきてくれるかい?」


「わ、わかりました」


 どうしたんだろう?難しい顔してるけど…悪い物、なんだろうな。あの見た目で悪く無いわけないもん。


「じゃあ、お金はいつもの通り攻略者カードに送っておくからね。帰っても大丈夫だよ」


「は、はい!さ、さようなら」

「またね」

「気をつけて帰るんだよ」


 優しく、そう言われる。

 うん、次はもっと早く持ってこよう。






————————————————————


 真白ちゃんが人知れず決意を固めている同時刻。《深淵の穴》の中層、239層に怪しげなローブを被った者達が三人そこにいた。


「くそ!なんなんだアイツは!」


 三人の中で最もガタイが良い男が叫ぶ。


「おいおい落ち着けよ『ナンバー6』」


 細身の男がキレ散らかす大男を、おどけた様子で宥める。


「落ち着いてられるか『ナンバー5』!!あのガキの映像は合成だって話じゃねえか!」

「落ち着け。驚くのはわかるが、冷静になるのは何よりも大切だぞ?なあ『アームズ2』」


 八つ当たりに、襲ってきたAランクモンスターのブラックウルフをミンチに変えた『ナンバー6』と呼ばれていた男。細身の『ナンバー5』と呼ばれた男は、それをまた宥めながら、小柄の、真白ちゃんくらい小さな少女に話しかけた。


「……わからない」

「チッ!そもそもなんで俺らの所にコレがあるんだよ!」

「仕方ないだろ?日本ここは特級が四人、いや、五人もいるんだぜ?更には攻略者最速の『如月颯軌』、ダンジョン配信者最強格の『山﨑さん達』、引退してるが特級一歩手前まで行った『雷帝』、他にもいっぱいネームドがいるんだからな。アームズシリーズはそう言う対ネームド兵器なのに、使わないわけにいかねぇだろ?」

「チッ…!おい『アームズ2』!テメェ何ぼさっとしてんだ!さっさと魔石埋めてこい!」

「…はい」


 投げつけられた紫の魔石を拾い上げ、小さく返事をして下層に向けて足を進める少女。

 無防備に、無警戒に歩く少女にモンスターが襲いかかるが、少女に触れる寸前、その姿が消失した。そして、コトリ、と魔石が落ちる。少女の通った跡には魔石とアイテムの道ができていた。

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『はいしんしてみた』 不定形 @0557

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