第31話⁂めぐみちゃんの父親⁈⁂



 1935年5月初旬

 満開の牡丹桜が、雲ひとつなく晴れ上がった空に🌸

 一重咲きの桜よりも華やかに‥一層艶やかに美しく二重に三重に重なり合って❀⋆。*花びらを散らせて⋆*・。🍃


 最近は霧子の容姿には、もう目を覆いたくなるものがある。

 身体は赤く膨れ上がったブツブツが固まって、それはまるで潰れたイチゴの塊か、いくらの塊が、身体の四方八方に散らばり、顔は鼻が捥げ落ちえぐれて醜く変形して原型を留めていない。


 首から顏にかけてはドス黒い大きな塊のブツブツのアザや腫瘍のようなものが、所々に出来て、瞼の上には大きくぶつぶつに腫れあがったこぶが出来て、それこそ四谷怪談のお岩そのもの。


 あれだけ大切にしてくれた、唯一の拠り所本郷も、この醜さに愛想を尽かして家から足が遠のいている。


 それでも……6歳になった息子見たさに帰って来るが、霧子が病床に伏せって

「うううううううう~~うう~」

うなっているにも拘らず、コソ~ッと帰って行く有様。


 本郷にして見れば、横浜遊郭一のべっぴんと歌われた美しい夕霧の容姿に惚れ込んで、法外なお金で身請けした身。


 それなのにまだ結婚して数年で、こんな化け物になろう等とは、努々思いもしなかった出来事。


 口にこそ出さないが、{大金を積んだのにとんでもない話だ!こんな事になるのだったら身請けなど絶対にしなかった。インチキな~?金返せ!}と言いたいところ。

 要するにお坊ちゃま育ちで世間知らずの我がままで冷たい男なのだ。

 妻も只の玩具。

 要らなくなったら簡単に捨てる事など容易い事。


 あの時代貧困にあえいでいる女性は山ほどいた。

 少々高齢でも横浜有数の造船会社社長だから、後釜はより取り見取りで幾らでもいる。



 また造船会社の社長さんという事もあり、あの頃には珍しい美しいフランス人形のような青い瞳の西洋人女性とも接する事も度々有った。


 あの頃は、まだ栄養事情も悪く東洋女性は、決して西洋女性のように8頭身美女にして手足もスラリと長く、ボンキュッボンのグラマラスなボディではなかった。


 更にはブロンドの髪に青い瞳の西洋女性とは程遠い、掛け離れた存在だったのかも知れない。


 容姿端麗な夕霧に惚れて結婚したのに、お岩のように醜くなった妻が煩わしくて仕方ない。


 あの頃は男尊女卑を地で行く時代。

 ましてや大企業の社長さんの妻と言えば、政治家(貴族)のお嬢様や関連企業の御偉方のお嬢様、または大富豪のお嬢様等で、会社をより盤石にする為の道具にしか過ぎない事も多々あった。

 強いパイプで結ばれる為の只のお飾り的存在だったのかも知れない。


 妻は会社を盤石なものにする為の道具で、他にお気に入りの愛人を囲う事などザラだった時代。

 本郷もご多分に漏れず、醜くなった霧子の事など眼中にない。

 もう既に若い愛人がいるのだ。



 そんな事など知る由もない霧子は……

{あんなに優しかった本郷なら、例えこの様な醜い姿でも、きっとこの苦しみを共有してくれるに違いない}


 その気持ちとは裏腹に、本郷の方はと申しますと……?

 たまに息子見たさに帰っては来るが、あの醜くなった霧子に会うのが嫌で忍び足で帰宅するにも拘らず、お手伝いさん達の騒がしさに直ぐに気付かれてしまう。


「あなた~?タスケテ~!……あなた~」


 寝室から弱々しい声で懇願する霧子に、仕方なく顔を出す本郷なのだが……。

 全く酷い男。


「あなた~タスケテ~!私苦しいの~」


「アッ!そうかい?...俺忙しいんだ!申し訳ないけど煩わせないでくれる~?」


「ああああ~?ごめんなさい」

 忙しい主人を煩わせて申し訳けなく思う霧子。


 それでも……霧子が闘病で苦しんでいるのにも拘らず、あんなに優しかった本郷が手の平を返したように冷たくなっている。


 口を開けば離婚をほのめかす言葉ばかり。

 霧子は折角掴んだこの夢のような生活を、どんな事をしても手放したくはない。


「…気の毒に思うさ~!…でも…でも~?お前…陽介という男と頻繫に会っていたらしいじゃないか~?……それで梅毒になって助けてって虫が良すぎるんじゃないか?」


「あなた~私は絶対にそんな……そんな…関係など有りません。グウウ(´;ω;`)ウッ…それから御付きの北村がいつも一緒だったから聞いてください・・あなた酷い……ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「だがな~?その北村が『車で御送りしましたが?半日は自由行動だったので分からない』と言っているんだよ」


「あなたそれは絶対に違う!私たちはそんな……そんな関係じゃないの!」


「もうそんな噓は通用しない・・お前とは御免だ!」


 実は北村が何故そんな出鱈目を言ったのかというと……?

 余りにも美しい霧子に、ほのかに思いを寄せていた北村は、到底叶う筈のない女性とは分かっていても抑える事が出来なくて、とんでもない事をしたのだ。


 それは、思いを遂げる為に下着ををコッソリ気付かれないように盗んでいたのだが、それに気付いたお手伝いさんが霧子に報告した。


 霧子もいつもお世話になっている北村の事だから、大目に見ていたのだが、

 注意をしても治らないので、等々社長に報告した。


「何だと――――――――ッ!愛する妻の下着を盗むなど許されぬ事!」

 カ――――――――ッとなった本郷は北村を首にしてしまった。


 北村が当然の事ながら悪いのだが、折角会社で定年近くまで働いたのに首になり相当の恨みが有ったのだ。


 生活に行き詰まり、あの時の復讐からとんでもない噓の供述をしたのだった。

 夫婦喧嘩は日に日に増していく。


「あなた~私がこんなに醜くなったからでしょう?ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」

「…違う…違うよ!・・ともかくそんなふしだらな女とは御免だ!出て行ってクレ!」


「…ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭嫌よ!絶対に!」


「…そんな俺と言う者が有りながら、結婚後に男作って浮気して梅毒になり、離縁したくないなど虫が良すぎる!」


「ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭絶対に浮気なんかしてないから、坊やも一緒だったのよ!」

 証人に息子の満も呼んで話し合いが続く。


「僕お母様といつも一緒だったよ」

 そう言っているにも拘らず。


「まだ子供の言う事など当てにならない!……ともかく顧問弁護士に話はしてある。静養先も用意してあるから、さっさと出て行ってくれ!」


 ともかく醜いお岩のようになった霧子が嫌で嫌で、一刻も早く別れたいばかりの本郷。


「ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭そんな~ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


 泣く母に抱き付きながら「お母様を虐めるな!お父様なんか大嫌いだ!ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


 こうして、この冷たい本郷は優秀な顧問弁護士のおかげで霧子を追い出し、息子を傍に置くことに成功した。


 霧子は全てを失い、あれだけ美しかった顔は醜く崩壊して、その挙句に頼みの綱の陽介とも連絡が取れず、愛する息子と引き離され、世を儚んで大量の睡眠薬を服用して自殺をしてしまった。



 霧子の息子満がめぐみちゃんの父親なのだが……?

 愛する母をこの様な形で失った満には、大きな心の傷と父に対しての恨みが増幅して行く。


 そして???















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