第4話⁂豪邸で?⁂

 九州の天神は、福岡県福岡市中央区にある九州最大の繫華街の通称。


 1970年4月初旬、やっと寒かった冬も終わりを告げ―――

 花が咲き乱れ❀*⋆*


 春の息吹を感じる今日この頃……。

 静子14歳は、この時中学3年生。


 若干14歳の静子はアルバイトの為に、九州最大の繫華街天神町のパチンコ本店キングに足を進めている。


 それは母町子の姉知子が、パチンコ店キングの社長に見初められて嫁いでいるからなのだ。

 キング本店の受付をしていた姉は、丁度その頃、本妻をガンで亡くし意気消沈していた社長を陰ながら勇気付けていた。


 社長好みの美しい容姿に加え、いつもニコニコ明るい笑顔で接してくれる知子にいつしか気持ちも解れて、やがて20歳以上も年の離れた社長の後添いになった幸運の持ち主なのだ。


 それでは一体何故、若干14歳の静子がそんなアルバイトをしなければならないのかというと……?


 それと言うのも父が居ない今、生活は困窮を極め、静子の母親町子が姉に頼み込んだのだ。


 どういう事かと言うと、静子は成績優秀で学問好きな少女、その為どんな事をしても高校に行きたいと懇願している。


 母親町子は中学を卒業して就職して欲しいばかり。

 そこで思い付いたのが妹思いの姉で、現在は九州地方にパチンコ店を5店舗経営している、パチンコ店キングの社長夫人に収まっている姉に頼み込む事。

 こうして若干14歳の静子は、キングのお手伝い補助として働き出したのだ。



 ある日、天神2丁目を歩いて家路を急いでいた日の事、何かしら誰かに付けられているような、そんな不安を感じた静子は急いで路地に隠れた。


 するとスーツ姿の年齢は30代中盤といったところだろうか?

「……あの~?私はこういう者ですが……?」


 名刺を渡してくれたのだが、そこにはK・エージェンシ―と書かれてあった。


「……これは何ですか~?」


「アア~うちの事務所でモデルとして働いて欲しいのですが?」


 スタイル抜群の美少女静子は、九州最大の繫華街でも一際目を引く美人。

 あの当時で身長169cmの長身に加え、手足のすらりと伸びたスタイル抜群の美少女、当然の如くスカウトされたのだ。


 幾ら叔母の家と言えども長時間労働の為、毎日勉強とアルバイトでクタクタ、それでも高校に行く為にはお金が必要。


 まだ14歳の中学生という事で労働基準法で禁じられている為、実質上アルバイトは出来ない。

 そこで母町子が叔母に無理矢理頼んで、働き出したアルバイトなのだ。



 このK・エージェンシ―は、今伸び盛りの事務所で、大物アーティスト永田亮を輩出した事でも有名な事務所。


 その事務所で提出された条件は『あの当時で月10万円、週2回の土日にイベントコンパニオンやモデルとして働く事』そう提示されたのだ。


 叔母の家は、キング本店の3階が社長家族の居住空間で2階が従業員達の居住スぺ-ス。仕事は専属お手伝いさん2名の補助。

 それでも毎日クタクタになるまで働いてもわずかばかりの賃金。


 そこにまだ14歳の静子に、この破格の金額!

 こうして静子はパチンコ店キングの仕事を辞めて、モデルとして働きだした。


 やがてモデルの仕事を足掛かりとして、自作の楽曲で大物アーティスト永田亮の前座を務めて行く事になるのだが、そこで永田のファンらしき美少女で、いつもお付きの者を引き連れ最前列のSS席に座っていたお金持ちのお嬢様と、いつしか親しくなって行くのだ。


 静子が毎日このあばら家から見上げていた、あの高台にある豪邸のお嬢様、その美少女が満面の笑顔で手を振ってくれ、すっかり打ち解けた2人。


*****************

 そんなある日の事。

 大物アーティスト永田亮のコンサートが、博多で開催された日の事だ。


 その日も前座を務めて楽屋に向かおうとしていると、あの高台にある豪邸の別世界のお嬢様が目の前に現れた。


 静子は余りの嬉しさに声が出ない。

 面と向かって会うのは今日が初めてで、緊張と喜びで顔を真っ赤っかにして只々お辞儀をするばかり。


{こんな私の様な者にあんな輝く世界の、それもこんなに美しい美少女が声を掛けてくれるなんて!}


 するとその美少女は「初めまして。私は柳田万里子と申します。水口静子さんの『シーサイド・湘南』素敵な曲ね!……最近は永田亮を聞きに来るというよりも静子さん目当てでコンサートに来るのよ!」


「アッ!アありがとうございます!」


 余りの嬉しさと緊張で、その言葉を話すのが精一杯の静子。


 すると万里子と名乗るその美少女が「今度家に遊びに来てくださらない?」

 そんな夢のような言葉を発してくれたのだ。

{私の住んでいる場所も知っていながら、こんな嬉しい言葉を発してくれようとは?}


「イッイエ~?私みたいなものが……とんでもありません」


「イッ良いのよ!そんなこと気にしなくても?」


 強引に誘われる形になった静子だが、内心は嬉しくて嬉しくて天にも昇る思い。

{ああああああ!幸せだ~!こんな私にあんな豪邸のお嬢様が『遊びに来て!』だなんて夢みたい!……ああ~洋服何着て行こうかな~?・・・そうだ叔母さんの買ってくれた高級なワンピ-ス、一度も袖を通した事のない、あのピンクのワンピースを着て行こう!}


*****************


 その日はやって来た。

 夢にまで見た万里子ちゃんの豪邸の前に着いた静子は、早速インタ―ホンを押した。

程なくして中年の小太りの、優しそうなお手伝いさんが応対に出てくれた。


「アアアア!お嬢様のお友達の方ですね!さあさあどうぞお上がり下さい!」



 素材が創る上質な空間が広がる家


 曲線とモノトーンの邸宅


 曲線で柔らかな空間の美しい家


 エコロジカルな空間の中に囲炉裏のある家


 上品かつ和モダンな佇まいが美しい家


 自然とアンティークが混在する家


 まるで現代アートのような四季を演出した芸術的邸宅


 和と洋のない交ぜになった豪邸に只々圧倒される静子。


 そして2階の万里子お嬢様のお部屋に通された静子は、余りの可愛いお部屋に{夢の世界に迷い込んでしまったのでは?}と錯覚したほどなのだ。


 アンティークのさも高級そうな可愛い家具と、あの当時人気のリカちゃん人形が、所狭しと飾られた夢のお城のような部屋。


「あ~ら嬉しいわ!よく来てくれたわね~!有難う」


「いいえ?こちらこそこんな豪邸に招いて貰いありがとうございます!これをどうぞ!」

なけなしのお金で買った静子が出来る最大限の、近年若者に人気のお菓子ポテトチップスを渡した。


 すると奥の方から同年代の少女が、さも不機嫌そうに現れた。


「……あなたは橋の向こうの住民らしいじゃないの~?・・フン汚らしい!傍に寄らないで!あなたが持って来た物なんか汚い!こんなポテトチップスなんて~!……えい!」


 ””グシャグシャ””とポテトチップス踏み付けた少女。


「酷い!めぐみなんて事するの~!」


 ””ピシャリ””万里子はめぐみと名乗る少女の頬っぺたを、思いっ切り叩いた。


 静子は、いつもの事とは分かっていたが、やっとお友達になれた唯一無二の友達の前でこの様な醜態と侮辱を受けて{やっとできた友達ともこれで終わりだ!こんな恥ずかしい身分の私の事なんか‥もう呆れて避けるに決まっている?}


 涙がとめどなく溢れる静子。

 逃げるように豪邸を飛び出し……どこをどう歩いて家に戻ったのか分からない程、只々涙の枯れ果てるまで歩き続けた静子。


 やがて複雑に絡み合った人間模様の中で殺人事件が………。

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