第3話⁂おまじない!⁂


 田園調布に白亜の豪邸建てて勉と緑は幸せな、夢のような生活を送っている。


「奥様お茶をお持ちしました」


「アア~!ありがとう!」


「あの~?もうすぐお盆ですが……?鎌倉には御帰りにならないのですか?」


「父の容態を見に行きたいけど、それどころじゃ~ないのよ、もう直ぐ横浜アリーナでコンサ-トが有るからその時に顏出してくるから、食事の準備はコンサ-ト中はいらないから」


「かしこまりました」



 *****************

 緑は時折過去の辛かった日々の中で唯一楽しみだった、朝の『おまじない』を思い出す事がある。


 まだ駆け出しだった九州時代の事だ。

 大物アーティスト永田亮の前座を務めていた、あの頃の芸名は水口静子。

 永田のファンらしきその少女は、まだ静子と同年代くらいの美少女。


 いつもお付きの者を引き連れ最前列のSS席に座っていた、お金持ちのお嬢様。

 まだ使いっぱしりの、その他大勢時代、学校へ行けば嫌な思い出ばかり。


 その為授業が終わるや否や、今にも崩れ落ちそうな、あばら家にハヤテの如く猛ダッシュで帰宅したものだ。


 ある日、例のいつもお付きの者を引き連れ、最前列のSS席に座るお金持ちのお嬢様が、偶然にも黒塗りの高級車に乗るところを発見!


 貧乏人の静子は、いつもおんぼろ自転車が交通手段。

 暇に任せて、あまりにも自分と掛け離れた存在の、この女の子の実態を知りたくなり自転車で跡を追った。


 すると案外自分の家とほど近い、橋を渡った高級住宅地に住む豪邸のお嬢様だった。


 壊れてボロボロの窓から覗くと、遠くにそびえ立つ高級住宅地。

 橋を渡ったあちら側の世界はまるで夢の世界。


 ある日、高級住宅地の中でも群を抜いた豪邸に、あのSSお嬢様を発見した。


「エエエエエエエエ――――――――ッ!」


 それからというもの、あの自分とあまりにも掛け離れた、雲の上の存在のお嬢様を探すのが日課となった静子。

 静子は、そのSSお嬢様を発見出来た日は、何かしら良い事が起きる。


 それはいつも散々いじめる連中が、SSお嬢様を発見した日だけは、何も言わず通り過ぎるのだ。

 またそればかりか「一緒に出掛けない?」と誘ってくれるまでの変わりよう。


 だから静子は朝起きる前に、布団の中で毎日「今日もSSお嬢様に会えますように?」

 お祈りして起きるのが日課になっていた。


 時折見掛ける、長い緑の黒髪をなびかせ窓際にたたずむ美少女。


{ああああああああ!羨ましいな~!}

その美少女は、こんなどうしようもない、掃き溜めの、世間から見放された誹謗中傷、差別の対象でしかない静子には、まさに夢の世界。


 そんなある日、その美少女が満面の笑顔で手を振ってくれた。

{エエエエ———ッ!どういう事?}


 静子が毎日このあばら家から見上げていた、あの高台にある豪邸のお嬢様もいつしか静子の存在に気付いていたのだ。


{こんな私の様な者に、あんな輝く世界のそれもあんなに美しい美少女が、こんな私なんかに目を向けてくれるなんて!}


 静子唯一の楽しみ、布団の中での『おまじない』は東京に出るまで続いた。


 だが???

「キャ――――――――ッ!ナナナナなんて事を!」

 恐ろしい殺人事件が……。

 一体誰が殺害されたのか……?







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