最終話 月が沈むまで...

 しばらくすると、雲の隙間から月が顔を出しました。

そして、それに合わせて街の灯も戻ってきました。

しかし、そこにはお父さんたちもスタンもいなくなっていて、

アイリーンだけがそこに立っていました。

エイミーが駆け寄り、アイリーンをぎゅっと抱きしめました。

すると、アイリーンが口を開きました。

「お姉ちゃん、お父さんたちね、すーって消えたんだよ。

 ありがとうって言ってた。」

そう言うと、アイリーンはにこっと笑いました。

それを見ていたバルタザールが口を開きました。

「三人とも、それぞれよく頑張ったね。

 今夜の事、忘れてはいけないよ。」

そう言うと、その場を後にしようとしました。

そこへ、サーヤが口を開きます。

「バルタザールさん、本当にありがとう。

 あなたのおかげです。またお会いしましょう。」

その言葉に感激したのか、彼はサーヤのもとへいき、

優しく抱きしめながら言いました。

「また、森へおいで。待ってる。」

そう言うと、彼は森へと帰っていきました。

見送るサーヤの後ろ姿は、とても立派に見えました。


街の人たちは何か夢でも見ていたようで、

しばらくはぼーっと辺りを見回していました。

そこへ、町長さんがやってきました。

町長さんは時計台の下に上がり、一つせきをすると、

胸をはってこう言いました。


「諸君、我々は奇跡を見た。

 長い年月をかけて苦しんできた森のオオカミが

 再び正しい道へと歩き出した。

 そして、我々の先祖たちが、

 我々を悪しき者から守って下さったのだ。

 我々は感謝しなければならない。

 先祖と、この海と大地の恵みに。

 さあ、今夜は盛大に祝おうではないか!」


それを聞いた街の人たちは喜びの声を上げました。

そして、お祭りの夜は月が沈む頃まで続きました。


次の日、人々はそれぞれのお墓にお参りに行き、

感謝を込めてお祈りを捧げるのでした。

それ以来、一年に一度やってくる長い夜は、

一年の収穫の感謝と共に、

先祖や魂たちに感謝を込めたお祭りとして、

いつまでも、続いたそうです。


そして、街の人たちが入ることさえ恐れていた"迷いの森"は、

街の人たちによってキレイに手入れがされて、

一部に動物たちのお墓を作り、

ご先祖様たち同様、時々お参りに来るようになりました。

更に森の奥にはスタンの記念碑を作り、

守り神として大切にされました。

いつしかその森は"スタンの森"と呼ばれるようになり、

動物たちの憩いの場になったそうです。


そして、あの教会の物知りおじいさんは、

毎年秋になると、子供たちを教会に集めて、

この一連のお話を教えているのだそうです。


最後に、あの三人はというと…

ご心配なく。仲良く元気にやってます。

そして、いつまでも、幸せに暮らしましたとさ。


…おしまい。

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ハグルマビーチと月夜のケダモノたち Mikoto@飼い主 @xxxmikotoxxx

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