11
地獄のような夢だった。
いや、少し違う。
あれは、地獄の夢だった。
今回の夢は最近見た夢とは少し違うような気がする。
うまく説明できないが。
現実離れしているのに、
何故か本当にあった記憶のように頭に残っている。
ー
今俺はどこにいるのかは不明だ。
体を動かす事が出来ない。
顔の向きも変えられない。
目線だけが辛うじて動かせるようだ。
目を凝らすように周りを見渡すとその俺の眼前には何だか良くわからない赤い景色が見えていた。
俺は一体今何を見ているんだろう。
まるでカメラにでもなったような気分だ。
瞬きもしていない。
自分が今どんな格好でいるのか、この夢ではそもそも俺は人の形をしているのか?それすらもわからない。
ただ自分が今夢の中にいるという事だけはわかっていたし、今まで様々な夢を見てきた事で精神が慣れてきているのかあまり恐怖や不安は無い。
これはきっと、ただ目に映るものを見るだけの夢なのだと思う。
その俺がただ見ているだけの景色はやたらに赤く、少し薄暗い。
薄暗い景色の下の方で赤い大きな明かりがぼんやり明るくなったり暗くなったりを繰り返していた。
ここはどこなんだろうか?
こんな場所は自分の記憶の中には無いと思う。
時間をかけて見回す事でやっと少しずつどんな場所なのかがわかってきた。
目の前に見えているのは壁だ。
赤いレンガのような色で荒れた山肌のようにざらついた絶壁だ。
その上の方は今の俺の視野では見切れないが上から光が届いているようには見えないのできっと空も見えないよう塞がった所なんだろうなと思った。
反対に下の方は赤い大きな光。
光の増減を繰り返しているように見えるそれはよく見ると波打つようにうねりを上げていた。
なんだか溶岩のような?
この薄暗い明かりの正体は溶岩からあがる火熱によるものなのだろうか。
だとしたらここは火山の火口なのかもしれない。
蓋をされた火山、その火口の中。
そんな所で俺は何をじっと見ているんだろうか。
ゆっくりと状況を把握しようとすると少しずつ夢が動き出す。
自分の目線が切り替わった。
火口の中を斜め上から監視カメラのように見下ろす光景に移ったので再度壁面をじっくり見てみると、
赤い壁に何か模様のようなものが見えている事に気がついた。
それはどうやら火口の上の方から螺旋状に下へと続いており、目線の下の方に見える溶岩の更にその下へ点々と続いているようだ。
あれは何だ。
赤い壁に規則正しく螺旋状に並んだ点。
何か意味が?
また目線が切り替わる。
先程より壁に近づいたようだ。
俺は点の正体が一体何なのか気になってきていたが、
新しい目線のお陰でその正体が何かがすぐにわかってしまった。
こんなのわかりたくなかったそんな酷い
人だ。
何人もの人が火口の壁に張り付けられているのだ。
火口の上から下までずっと螺旋状に規則正しく人が昆虫の標本のように両手に杭を打たれぶら下がっている。
なんて恐ろしい光景だ。
俺は目線しか動かない筈なのにごくりと唾を飲み戦慄していた。
目線がテレビで風景を紹介するようにゆっくりと横に動き出す。
目を背けたくとも叶わない。
嫌でも見えてしまう。
老若男女問わず壁にぶら下げられた人々は力なくぐったりとしているが息をするように体が動いているのでどうやら生きているようだった。
焦点の定まらない虚ろな目とだらしなく開いた口、その表情からは絶望の二文字が読んで取れた。
俺はこの人々を何とか助ける事は出来ないものかと考えるがそもそも体が動かせない。何かに捕まっているとかではなく体自体が無いようなのだ。
このままではいけない。
この時俺は何故このままではいけない、と思ったのだろう。
この後起こる事を予知していたのかどうかはわからない。
ただ虫の知らせのように冷えた胸騒ぎがしたのだ。
そしてずずず、と火口が低い音を立てて少し揺れ、溶岩は更に波を立たせ大きくうねりながら上へと向かってせり上がって来た。
溶岩が徐々に嵩を増すにつれ下の方で張り付けられていた人はたちまち溶岩に呑み込まれてしまう。
足から溶岩に触れるとそこから火が立ち到底耐える事の出来ない程の灼熱に、力なくぶら下がっていた人々も大きな断末魔を上げて体を跳ねるように動かす。
体を逃がそうにも溶岩はゆっくりとせり上がりその体を逃さず焼き続ける。
人が焼ける所なんて見たく無いのに目が閉じられない。
焼かれ続けた人はやがて溶け始めた鉄のように赤々と体を光らせながら、断末魔すら上げる事も出来なくなりそっと目を閉じて
湯に放った氷のように溶け込んでいった。
目を閉じて死を悟りながら溶けていく瞬間の表情がこの文を書いている今も目に焼き着いている。
俺は未だに身動きも取れず呆然と溶ける人を見送り続けていた。
もうこんな夢は見たくない。
目を閉じたいのに閉じられない。
助けに行く事も出来ない。
一定のリズムで聞こえてくる断末魔が俺の恐怖心を煽り立て悲しみや絶望の感情に包まれる。
何故俺はこんな夢を見せられているんだ。
俺の脳は俺に何を教えたい?
ただ人が焼け死んでいく光景を見せられる事に何の意味があるというのか。
自分の脳を否定した時、俺は目を覚まし布団から飛び起きていた。
ー
こんな夢、書きたくなる訳が無い。
でもやると決めていた事だと仕方無く書いている。
だがどうもおかしい。
今までの夢は深く思い出しながらおぼろ気な所もありつつ書いていた。
それが今回の夢は、
全て事細かにはっきりと覚えている。
まるで自分が本当にそこにいて経験していたかのように。
嫌な気持ちだ。
夢を書いているつもりが今回ばかりはどうも夢を書いているとは思えない。
そう言えば起きた時に時計を見ていなかった。
一時間ぐらい書いていたからいつもと同じ時間に起きていたならきっと3時前ぐらいだろうか。
ふと時計を見ると、デジタル時計は
「06:12」を示していた。
おかしいな。
いつもは「01:48」に起きていたのに。
何で今日に限って。
頭を傾げながら外を見ると、白く光る太陽が俺を手招きしていた。
ああそういう事か。
もう、起きる時間なんだ。
「01:48」 ー完ー
01:48 ロベルト @akirapark
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます