第2話 救うぞ河北君!

真壁は完全に俺達に不登校生徒を救うという厄介事を教師でありながら投げつけた。




すると廊下の角を曲がって誰かがやってきた。




「その話僕に任せてくださいよ」




軽い口調で言ってきたのはリア充グループの中心人物である滝岡隆二たきおかりゅうじと餅屋博嗣もちやひろつぐだ。




餅屋はリア充部五人の中のリーダーである滝岡の側近的な男でハイテンションな男である。




すると真壁先生の表情が見たこともないくらい輝きだした。


「滝岡君と餅屋君じゃない!」




「先生元気ー?」


餅屋が友達のように話しかける。




リア充部は基本的にどの先生とも仲がいい。


部活はやってないが、先生の頼み事を積極的に買って出ることで、印象良くしているのだろう。




「不登校の生徒が居るんでしょ?廊下に響いてたんで聞こえましたよ」




「そうなのよ、節丸君たちにお願いしt、、」


と言いかけたところで真壁は一度俺と節丸を一瞥して話を切り替えた。




「滝岡君たち河北雄介君を学校に登校させてくれないかしら」


どうやら俺と節丸だと頼りないから、滝岡達に乗り換えたようだ


それはそうだ。スクールカーストトップの連中に任せたほうが上手くいくに決まってる。




「もちろんですよ。先生は日々の授業と業務でお疲れでしょ。俺たち生徒は授業を聞いてるだけなんでお安い御用ですよ。」


滝岡が爽やかに答える。さすがはリア充部のリーダー的存在だけあって人を魅了するカリスマ性がある。






「助かるわーやっぱ滝岡君達は頼りになるわねー、それじゃあお願いねー」


真壁先生はルンルンとスキップしながら場を去っていった。




廊下には俺と節丸、滝岡、餅屋の四人になった。


傍から見たら、かつあげにあっているようだ。




横を見ると節丸が睨にらみをきかして怒鳴った。


「おいおいちょっと待て!、先生は俺たちにお願いしたんだよ!」




「なんだあこのちび、学校の事は俺たちに任せておけばいいっての」


と餅屋があおり口調で話す。餅屋は見た目通り、わりかし攻撃的な性格だ。




それでも節丸は怒り狂った目で背の高い餅屋を下からメンチを切るので慌てて俺は静止した。




「節丸やめろ!わざわざ敵に回す相手じゃない!」




「なんだよ、彼女作りたい同盟の一員なら負けるんじゃねーよ」




「なあ聞いたかよ隆二、彼女作りたい同盟だってよ…ぷくく」


餅屋が半笑いで言う。




「笑ったなお前、この同盟はな、必ずスクールカーストの上位に成り上がりお前たちなんて霞むくらいの組織になるんだ」




「なあチビ、スクールカーストなんて言葉はなあ俺たちは使わねえんだわ、俺たちは普通に生きているだけで誰かに羨ましがられる。中にはお前みたいに勝手に嫉妬して憎んでこじらせていって、ようやく自分たちが底辺だと気づきスクールカーストなんて言葉を強く意識しちまう、つまりお前はなあ。そんな言葉を使ってる時点で自分から人生に敗北しちまってんだよ。」




いくら節丸といえど膝をつき何も言い返せなかった。




「節丸…」




餅屋の見た目にそぐわない理論的な意見に半ば委縮してしまったが、節丸ですら落ち込んでしまったようだ。




「なあ、陽介…、俺たち底辺なんだよな、」




「節丸やっぱりこんな同盟無駄だよ」




「伸びしろしかなくないか?」




「え?」




「底辺は文字通り一番下、順位が変動するとしても上がるしかないってことだよ」




「節丸おまえ…」


節丸のメンタルの強さはうらやましいが、いかんせんこいつは方向性が間違えている。




「なんだよこいつ…気持悪…」


餅屋がドン引きした表情で呟いた。




「ちょっと待て!お前ら!その地位にいて、まだ点数稼ぎするつもりかよ!なんだ先生に好かれて学校を支配しようってか、そっちがその気ならこっちも何もしないではいられねえな」




さらに殺気立つ節丸に俺は諭した


「彼らに任せようよ。河北君も俺たちみたいな奴に説得されるより良いって。」




構いもせず引き返そうとした滝岡達の前から、学校のマドンナ井上麻美いのうえあさみが走ってきた。




「あっこんなとこにいた!隆二ともっちー!」


透き通った白い肌の美少女は滝岡と餅屋に抱きつく形で喜んでいる。


豊満な乳が密着しているというのに当たり前かのように涼しげな顔をしている二人。




「あさみ、今日先に帰ってくれ。用事が出来たんだ」


滝岡がクールに言う。




「えーーー!?なんでなんでー、今日は遊ばないのー?」




「あさみはたまにはダンス部の練習参加しろよ」


餅屋が言う。


「んーわかったよー、じゃあ明日は由香里ゆかり達の家でパーティーね」


従順に彼女は従った。




由香里というのはリア充部のメスゴリラで、いつも家でお菓子パーティーをしているらしい。




真壁とリア充部の三人は談笑しながら、俺たちには目もくれず去っていった。




そして俺と節丸以外誰もいない廊下で俺は呟いた。




「なあ、節丸」




「どうした?まだあいつらに任せようと言うのではあるまいな!?」




「どうしてあんな顔ができるんだ?」




「ん?顔?なんのことだ?」


節丸は訝しげに聞いた






「なんで美少女のおっぱいが体に当たってるのに、あんな涼しい顔ができるんだ。あいつらにとってはそれが自然なのか、当たり前なのか。」




「フフフ…陽介、気付いたか。そうさ!あの地位を手に入れれば女子の胸なんて頼まずとも触れちまうん


だ。だからやろうぜ、陽介」




節丸の言葉はもはや聞こえていなかった。頭にあるのは、あんなエチエチな事を自然と感じられるだけの地位を手に入れたいという欲求だけであった。







俺たちは活動拠点であった空き教室に戻っていた。


一つの机を挟んで座りながら作戦会議だ。




「なあ、引きこもりを学校に来させるにはどうしたらいいんだろうな」


節丸が本題に入った。




「なにが原因かは分からないがどうやら河北君は入学初日から来てないみたいだから、高校に入ってなにかあったって訳じゃなさそうだな」


俺はさっきまでと打って変わって同盟の活動に真剣に参加する。


当たり前だ。あんなものを見せられてしまったら俺の性欲も黙っちゃいない。




「なるほど、そしたら高校生活の楽しさを教えてあげるってのはどうだろうか!」


節丸は真剣な俺を見て、楽しそうに会話する




「楽しさって?」




「そりゃ、恋愛だったり部活だったり、行事だったり色々…あるだろ?」




「何一つ味わえていない俺たちが言うには説得力がなさすぎるな…」




「いいんだよ、俺たちが楽しめてるかどうかなんて」




「まあ、それもそうだな!」




「よーしじゃあ掛け声行くぞ!」




「掛け声?」




「俺たちの同盟ここにあり!」




「お、おう!」


奇しくも彼女いない同盟を大河と結んだときの掛け声と重なり動揺した。


大河今お前は彼女と楽しめているか。俺は危ない組織で楽しいかは分からないが元気に活動中だ。







どうやら住所によると節丸の家からさほど遠くないためすぐに行くことが出来た。




インターホンを鳴らすと母親らしき人物が出た




「はい…?」


弱弱しい声だ




「あっ河北君と同じクラスの一之瀬というものです。学校からの連絡を伝えたいので河北君に直接お伝えしたいのですが。」




「あ…また…、息子は家を今空けてまして、ごめんなさいね」




「また?」




「さっきも生徒さんが来たんです。しばらくその子と雄介が話してて、そしたら二人は帰って行って、雄介は出て行ったんです。」




「雄介君はどこに行ったんですか?」




「わからないです…急に出て行って夜ご飯までには帰ってきるよう言っただけなので…」




「わかりました。ありがとうございます。」




俺と節丸は状況を整理した。




「どうやら滝岡は先に来て、河北雄介君に学校に来るように諭した。そのあと一人でどっかに出て行ったってことでいいんだよな」




「出て行った理由はわからないが、一人で高校生が出ていくということは場所は限られてる、公園とかゲーセンとかだな」




節丸曰く近くにゲームセンターがあるので行くことになった。




バチーン ピュロロロリン キュイーンズドドド




ゲーセンというのは非常にうるさいが静かよりは居心地がいい。




俺と節丸は店内を練り歩き、それらしき人を探した。




「ゲーセンにはいなそうだなあ」


と俺が言ったところで背後から声が聞こえてきた。




振り返ると少量のコインで遊べる釣りゲームをしている同年代くらいの男の子がいた。


スウェット姿で何か月も切っていないであろう伸びきった髪の毛の少年で眼鏡をしている。




「くそっばかにしやがって、顔だけで楽しい人生送ってる奴になにがわかるってんだ」


その少年がそうつぶやいていたので、俺と節丸はお互い確信して顔を見合わせた。


絶対にこの子だ。滝岡達に諭されたが、気に障ったのだろう。




俺と節丸はその釣りゲーム機に少年と向かい合うようにして座った。


少年は伸びた前髪の隙間から俺たちのほうを見ると、すぐに席を立とうとした。


どうやら制服が同じ学校であることに気付いたみたいだ。




俺はあわてて静止した。


「あの!河北君だよね…?」




びくっとして一度動きが止まったがまたその場を去ろうとした。




「学校から大事な連絡があるんだ!」




「あいつらの仲間かよ!ストーカーしてきたのか」


かなり怒っているようだが帰らすわけにはいかない。




「フッフッフ、どうやら俺の居場所を突き止めた推理力で勘違いしてしまったようだが、彼らとは友達ではない。」


節丸はまたホー○ズモードに入ったようだ。




「そうそう。俺はあいつらとは友達ってか真反対、敵だよ」


俺も節丸に同調した。




「どっちでもいいけど、どうせ俺を無理やり学校に来させようとしてんだろ!行かねえよ!」


かなり興奮しており、話が通じそうにない。




「そうだな、回りくどい言い方はしない。学校に来てほしい」


俺はあくまで冷静にカウンセラーのように接する。




「だから行かねえって!」




「なんでだよ、まだ一回も学校に来てないんだろ。どうして来ないんだ」




「行きたくないんだよ、あんな美男美女しか楽しめないとこなんてよ」



「知ってるか、高校ってのは体育祭、文化祭もあれば部活、恋愛だってあるんだぜ」




「何が楽しいんだよ、陰キャにはむしろきついじゃねえか。」




俺達は言い返せないと思いきやなぜか節丸は自信満々に言う。


「恋愛はいいぞー告白するまで相手は俺の事好きなのかなーとか、なにしたら好きになってくれるかなーとか考えたりな」


お前は手あたり次第告白していただろ、と心の中で思いつつも俺も同調。     


「そうそう、それにうちは進学校だから友達と真剣にいい大学目指したりなあ」




「進学校?その偏差値で?」




確かにうちの学校は偏差値55、特別高くはないが、ほとんどの生徒は大学に行く。




「その偏差値っつても君も入ってるわけじゃないか」




「俺は本当だったら…」


なにか苦しい表情を浮かべた河北に気付きつつも話を進めた。




「あまり言いたくはないだろうけど、なんで学校に来ないんだ?学校に来てないんだから嫌な事をされたわけでもないだろう?」




「そうそう勉強についていけないってわけでもないだろう」と節丸。




「当たり前だろ!こんな低レベルな学校…」




「なんでい、なんでいさっきから学校の偏差値がどうだとか、低レベルだとか、おまえだって同じ学校に入学しただろう!」


節丸は激高した。こいつはすぐ感情的になるなあ。




「うるせえ!俺は帰るぞ!母ちゃんがシチュー作ってくれるんだよ!」


シチュー…、荒々しい口調に合わないワードに笑いそうになったが、河北も悪い奴じゃないみたいだ。


そして俺はさっきから引っかかっていた事を聞いてみた。




「不登校の原因は勉強…なのか?」


さっきから偏差値を気にしていたのでこの質問をするのは当然の帰結だ。




しばらくの沈黙の中、河北は声を絞り出した。


「本当はもっと上の学校に行きたかったんだよ…」


河北はなにか吹っ切れたかのように赤裸々に語った。


「俺よお…勉強好きだったんだ。中学入ったあたりからいい大学に行けば高給な仕事に就きやすくなるって知ったんだ。俺んちはそれほど裕福じゃないから、家族に楽をさせたいって思って張り切ったんだ。」




「そうなのか、頑張ったんだな」




「でも中二に進級したあたりで声が聞こえてきたんだ」




「声?」




「河北君っていつも勉強してるよねとか、がり勉河北だとか、なに頑張っちゃってんだよとか、クラスの腫物扱いされるようになったんだ」




河北もまた学校という小さな世界で居場所を無くした人間の一人だったんだ。俺は悲しくなった。




「最初は我慢してたけど、やっぱり学校に居場所がないってのはきつくてな、次第に勉強のやる気もなくなって、でもあいつらの言うとおりだよ、勉強大好き人間と友達になりたい奴なんていねえよなって…不登校がちになって結局行きたい学校にはいけなかったって訳、高校でも同じ様に腫れ物になるさ」




「すげえよ…河北お前すげえ」




「え?」




「俺はなにかに本気になれたことなんてない。人生通してお前みたいに向き合ったことなんてなかったから自分が情けなく感じたよ」




「そういうお前の熱さに気付いてくれる仲間が絶対いるはずだからよ」




「でも一回も来てないやつが急に学校に来てもなじめると思えないよ」




「確かに難しいかもしれない。でも河北はゼロからのスタートだ、白いキャンパスにいくらでも色を塗らなければならない。」


我ながらくさいセリフを吐いてしまったがそれでいいと思った。




「そうそう俺なんて告白しまくって全員に振られてやばい奴扱いだぜ」




「そうそう気持ち悪い奴だろ?」




そう言って、俺は節丸をちゃかしたが直ぐに反撃された。




「こいつなんて親友に彼女ができたことを嘆いて、クラスにドン引きされたんだぜ!」




「つまり俺たちはうんこ色のクレパスからうんこを取り除くことから始めなければいけない、だからこうして人助けなんてやって点数稼ぎしようとしてるんだ。だせえだろ」




「ぷはっははははは。なんだよそれ、おまえら変なことしてんだなあ、おもしれえ。」




河北の無邪気な笑顔に思わず節丸も俺も笑ってしまった。




「点数稼ぎでもなんでもなんか元気出たよありがとう。君達も苦労してるんだって知ってやる気出たよ!明日から学校行ってみる!」 




そんな溌剌とした河北を家まで見送ったあと、


俺と節丸は顔を見合わせ強くハイタッチした。











次の日から学校に来た河北はわりかしクラスから歓迎され、すぐになじんでいた。




勉強好きの友達と東大に受かる会なんてのも作ってね。




廊下ではスクールカーストトップの滝岡達がおり、生徒たちにまた何か噂されていた。




「滝岡君たち凄いよね引きこもりの子を救うなんてねー」


「やっぱすごいよねえ、私もあんなふうになりたい!」




どうやら河北が学校に来れたのは滝岡たちのおかげということになっていた。




滝岡達はそんな噂に悦に浸っているようだが、勘違いも甚だしい。




節丸は放課後、活動拠点の空き教室でその事を嘆いていたが、実のところ俺はそれほど嫌な気はしなかった。




なにより河北が学校に来てくれたことが嬉しかった。


俺は彼女作りたい同盟に不覚にもやりがいを感じてしまった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女作らない同盟を結成したらあっさり裏切られました。 家谷集 @uchiyama112293150

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ