タワマンインフェルノ

@nickbalbossa

タワマンインフェルノ

始まりはとあるTwitterアカウントが連投したタワマンに関した自虐風ツイート群だった。「タワマン高層階だからお米がうまく炊けない」「気圧が違うから子供が捕ってきた虫がすぐ死んだ」など、ネタであることは明白だったが、なぜか一部の富裕層がそれを間に受けてしまった。多分科学の知識が足りなかったのだと思う。

高度なマウンティングにプライドを煽られた富裕層たちは即座にタワマンの最上階を買い、さらに高度な自虐風自慢を写真付きでツイートすることでその自尊心を満たした。

このブームは瞬く間に富裕層全体に広がり、富裕層たちは日々連投されるタワマンツイートをマウンティングできるような更なる高みを目指して、高層タワマンを買いま漁った。

富裕層の求めに応じ、建設業界は雨後のタケノコのごとくタワマンを建てまくったが、彼らの飽くなき欲求は止まるところを知らず、タワマンは際限なく高くなっていった。

タワマンの平均が500メートルを超えたあたりで、周囲への影響や航空機運行への支障など様々な問題が指摘されるようになったが、富裕層は多額の賄賂で政府を黙らせることに成功した。富裕層に逆らえなくなった政府はタワマン住人に極端な優遇政策を実施し、他を顧みない開発は周辺を荒廃させ、街には失業者が溢れまくった。

2000メートルを超え出したあたりで富裕層はタワマンからあまり出なくなったが、今の世の中は基本全てインターネットで支配できるので支障はなかった。マウンティング合戦はさらに熾烈を極め、富裕層の人々は生活全てをツイートに集中するために、衣食住全てを外注するようになった。

この頃になるとタワマン低層階に飲食店、スーパー、美容室などのサービス業が集中するようになり、職を求める庶民も一緒になって低層階やその周辺部に移住していた。

タワマンの外はタワマンから廃棄される汚水やゴミに汚染され、さらに荒廃の一途を辿っていった。


そして五十年が経った。

「今日は宇宙線が強めで大変☆」「窓開けたら何か入ってきて、よく見たら宇宙デブリだった〜危ない危ない。」「まだ5月なのに外の気温はなんと-30度!温暖化って深刻だな、子供たちの未来のためにもロハスな生活しないと…」

一昔前ならネタとしか扱われなかったであろうツイートは、全て現実のものとなった。なにしろタワマンは10,000メートル超えがステータスの時代である。

富裕層はもはや外の世界を知らず、タワマンの上層階どうしを時空転移装置で移動して暮らしていた。タワマンで生まれ、地上に一度も足を付けないまま死ぬ人間が大多数になった。

自虐ツイートは文化となり、もはや誰もやっている意味はわからなかったが、様式美としてマウント合戦は続いていた。

秩序は「どの高さに住んでいるか」のみとなり、より高層階に住んでいることが絶対にして唯一の価値となった。

外の世界は荒廃しきり、もはや人間は住めない環境となっていた。何度か出た惑星移住の計画も、調査隊すら帰って来れなかったことから断念され、ついに人間の生存の道はタワマンの中だけとなった。

庶民の住むタワマン低層階は富裕層の生活を支えるための原発や下水処理場、ガス田などが集中していたので生活環境は劣悪だったが、選択の余地はなかった。

ガイガーカウンターが鳴り止まない居住空間は機械熱で常時40度を超え、便所は毎時間ごとに逆流した。

あまりの劣悪さに頻繁に一揆が企てられたが、富裕層が雇ったタワマン秘密警察の弾圧により全て未遂に終わった。タワマン内は富裕層が支配しているので法律が機能しておらずやりたい放題だった。


しかし、百年も経った頃、低層階に傑物が現れた。最下層肥太郎(もしもそう こえたろう)である。

彼は最下層に生まれたことを逆手に取り、上層階に空気や水を送るブースターポンプに、ヘドロ、工業排水、排気ガス、放射性廃棄物、し尿、下層民の死骸など考えうる全ての汚物をぶち込む画期的な戦法を編み出した。

上層階は突然空気穴をぶち破って入ってきた汚物の山により阿鼻叫喚の地獄と化した。全ての上下水から糞便が逆流し、強烈な各種化学汚染物質により富裕層は溶けていった。

肥太郎は下層庶民のヒーローとなり、彼の軍勢は「汚物逆流メソッド」により次々にタワマンを攻め落としていった。下層民たちは積年の恨みを込めて糞便をひり出し、その他化学物質とともにブースターポンプにぶち込んでいった。


しかし、富裕層は死んでいなかった。成層圏で生まれた彼らの一部は元々高度の宇宙線に耐性を持っており、自らを更にミュータント化することでは高濃度の汚染にも順応して耐え抜いた。

逆に取り出した放射性物質から核兵器を作り、タワマンもろとも吹き飛ばし始めた。世にいう大汚物返しである。

さすがの肥太郎たちもたまらずタワマンから逃げ出したが、外は荒廃した地球。あっという間に全員死んでしまった。

そして富裕層たちは生き残った。タワマンから下野した彼らは、ミュータントなので汚染された大地にも全く動ぜず順応した。

こうして富裕層ミュータントは、地上に生きる唯一にして最強の存在となったかに見えた。


しかし、戦いは終わっていなかった。

敵はなんと猿だった。富裕層の動物園で飼っていた猿が高濃度汚染で突然変異を起こし、知的生命体となって刃向かってきた。

猿は無駄に身体能力が高かったので、ミュータントたちを圧倒し地下に追いやったのだった。


その後、膨大な月日が流れた。

地上は長い年月を経て浄化され、汚染は少しづつ改善されていった。

そこへ一隻の不時着した。それは遥か昔に惑星移住の調査団として人間たちが打ち上げたロケットだった。本当に今更ながら、彼らは帰ってきたのだった。


そして物語は「猿の惑星」へと続いていく事になる。

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