第8話 集結

慎之介と妙心坊が出会って数年後の節分祭の早朝。

龍門館本堂から少し山奥に佇む龍神池。

周囲約5キロ。

深さは不明。

龍門館で修行する少年少女忍者達には遊び場になっている。

この日、小雨の中。

慎之介と雅が、周囲の遊歩道になっている小路を歩いていた。

慎之介と雅は15歳になっている。

祝言を上げる数時間前である。

数ヵ所だが水辺に下りられるようになっているうちの砂利の浜。

雷鳴一閃。

『キャー。』

雅が悲鳴を上げるが、慎之介は事も無げに、砂利浜に下りて、大きなガマガエルと遊びだした。

『雅・・・。

こいつ、ガマ介にしよう。

俺のペットにする。』

雅にすれば、気持ち悪いガマガエルでしかない。

それどころか、雅は雷鳴に悲鳴を上げているのである。

本来なら、彼女を守ってこその夫であり彼氏ではなかろうか。

しかし、本堂前で白雲斉と出会って、雅は衝撃を受けることになる。

『慎之介。

肩に乗せているガマガエル?』

『ハイ・・・。

お祖父様、先ほど龍神池の砂利浜で見つけました。

僕のペットにします。

ガマ介と名付けました。』

屈託のない笑顔でニカっと笑った。

『慎之介。

もう出会ったか。

そのガマガエル。青龍の化身ぞ。』

『ハイ・・・。

存じております。

だから、仲間になりました。

ガマ介。

青龍変化だ。』

慎之介の命令で、巨大な青龍が現れた。

雅、腰を抜かして驚いた。

だけではなく、しばらくの後、光り輝く小舟が2艘。

片方の小舟から、山伏姿の少年とマタギ姿の少年。

もう片方からは妙心坊が下りてきた。

『お祖父様。

出羽羽黒山の月山宗幸殿と甲斐の風磨小太郎殿。

こちらは、南禅寺の妙心坊様です。

皆。

龍門館館長。

戸澤白雲斉先生。

俺のお祖父様だけどね。』

白雲斉は、驚くよりも呆れてしまった。

『慎之介よ・・・

いつの間に、これほどの仲間に巡りあった。』

宗幸と小太郎と妙心にしても同じ思い。

宗幸と小太郎、妙心坊に。

『多門天様の庇護を受けておられる。

妙心坊様ですね。

私、梵天様の庇護を受けておりますの月山宗幸でございます。

こちら、帝釈天様庇護の風磨小太郎殿です。

こちらの美しい方は、吉祥天女・弁財天様の望月雅様。

慎之介殿の奥方様ですね。

しかし、慎之介殿。

あなたというお方は。

いつもながら驚かせて下さいますね。

青龍まで手なずけてしまわれるとは。』

『お初にお目にかかります。

南禅寺で修行しております。

妙心と申します。

慎之介殿。

南禅寺水路閣の戦いで、毘沙門天を自由自在に操り、魑魅魍魎を粉々にされた時は、どのようなお方かと思いましたが。』

宗幸と小太郎。

白雲斉は寝耳に水。

ついでに、小太郎はガチガチに緊張している。

『お頭様・・・

風磨小太郎にございます。

お見知りおきください。』

戸澤白雲斉と言えば、甲斐の伝説的な忍者。

武田信玄並びに勝頼親子に仕え、武田家の滅亡と共に姿を消した風磨一族の初代族長。

『そなたが小太郎か。

その資質ならば、戸澤白雲斉の名前、譲れる忍者になれそうじゃの。

よく励まれよ。

慎之介。

毘沙門天様を自由自在などと畏れ多い。

そんな話し、聞いておらんぞ。』

『実は、もう1人、皆に紹介したい者が・・・。

ポセ丸・・・

ポセ丸・・・。』

慎之介の呼び声に応えて。

黒い豆柴犬の子犬が尻尾をブンブン振りながら走ってきた。

『ポセ丸・・・

わだつみ変化だ。』

黒い豆柴犬が憤怒の表情の海神ポセイドンに変化した。

『慎之介・・・

もう少しマシな名前は考えつかんのか。』

『んじゃ、わた坊。』

『それも嫌じゃ。

まぁ、それより皆の衆。

海神ポセイドンでござる。

よろしゅう頼んます。』

海神ポセイドンまで手なずけてしまっていることに皆、ひっくり返りそうなほど驚いた。

『慎之介・・・

そろそろお前の守護神を明らかにしても良いのではないか。

みんな、驚くぞ~。』

青龍が後押しするように言って、ポセイドンも同調した。

『いや。

まだ少し早い。

俊寛僧都様すらこれから大暴れされると考えられる。

と・・・するならば。

もう少し隠しておく方が、後々闘いやすくなる。』

宗幸と小太郎と妙心坊は、フムフムと頷いている。

『ポセちゃん。

あなた、海神ポセイドンだったのね。

普段のこの姿の時は、可愛いだけだから、全然気がつきませんでしたよ。』

ポセイドン、すでに豆柴犬子犬に戻って雅にじゃれついていた。

『あははは・・・

そうしておられると、天使のようですね。

とても、筋骨隆々憤怒の形相のわだつみ様とは思えませんね。』

妙心坊は感心しきりに首をかしげている。

慎之介の頭には、怨霊となった数々の人々の名前が浮かんでいるようだった。

俊寛僧都の他にも、平将門と

菅原道真と崇徳天皇は必ず出てくると思われる。

有名処では、早良親王(光仁天皇の皇子で桓武天皇の弟。御陵信仰の主伸平安時代初期の怨霊。)や六条御息所(源氏物語で紫式部が生み出した光源氏の相手。光源氏に棄てられたことで怨霊に化けた。)

ただ、この5人のうち4人は、民衆から崇め奉られる神社の神になっている。

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龍門館の慎之介・京都東山の怪 近衛源二郎 @Tanukioyaji

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