第117話寛弘6年(1009)の正月(3)

大納言の君は、いとささやかに、小さしといふべきかたなる人の、白ううつくしげにつぶつぶと肥えたるが、うはべはいとそびやかに、髪、丈に三寸ばかりあまりたる裾つき、髪ざしなどぞ、すべて似るものなく、こまかにうつくしき。顔もいとらうらうじく、もてなしなど、らうたげになよびかなり。

 宣旨の君は、ささやけ人の、いと細やかにそびえて、髪の筋こまかにきよらにて、生ひさがりのすゑより一尺ばかり余りたまへり。いと心恥づかしげに、きはもなくあてなるさましたまへり。ものよりさし歩みて出でおはしたるも、わづらはしう心づかひせらるる心地す。あてなる人はかうこそあらめと、心ざま、ものうちのたまへるも、おぼゆ。


大納言の君は、とても小柄で、はっきり言って背が低いと言うべきほどの人で、色白で可愛らしい雰囲気、丸々とふくよかであるけれど、見た目では大きく見えて、髪の毛は背丈より三寸ほど長くて、その生え際の感じなど、全てが比べ物にないくらいに、整って見えて愛らしく見えます。お顔も美しく、物腰も可愛らしく柔らかく見えます。


宣旨の君は、小柄な人で、実に細身ですらりとしていて、髪の毛筋はしっかり整って美しく、その毛先は衣装の裾より一尺ほど長く余っておられます。

こちらが恥ずかしくなるほどに、とても気品高くおられます。

(それだから)どこかから急に歩み出られて来られると、(私などは)緊張してしまい、いろいろ神経を使ってしまいます。格が高い人とは、このような人のことを言うのでしょうと、その御気性や、何かお話をなさるにつけても、そう感じてしまいます。


これも紫式部による女房の観察。

可愛らしい大納言の君と。紫式部が気後れするほど上品な宣旨の君。

後世の我々としては、実際見ることは出来ないので、判断のしようがないけれど、日記に同僚のことを書くのは、現代人でもありうる話。


ただ、実感としてわからないのは、背丈より長い髪の毛のこと。

重さもあるだろうし、生活に不便ではないか、手入れも大変とか推測するけれど、どんなものなのだろうか。

あの世に行った時に、当人たちに逢えれば、聞いてみたいものである。


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