第10話

「またしてもえろい目にあった……」


 Hなハプニング頻発。

 エロエロ浴室から這い出た僕は、服を着直すとソファーでため息を吐いた。


 本当に疲れた。

 彼女の友達とラブホでイチャイチャ全裸密着。

 そんな異常な状況と背徳感によく耐えたよ。


 最後にビンタで正気とマゾ気を取り戻さなかったら、危なかったな――。


「ごめんね、ゆうちゃん。私もやり過ぎちゃったよ」


「いいよ。気にしてないから。僕もエッチなことしちゃってごめんね?」


 ひょっこりと浴室から顔だけ出してこちらをうかがう愛菜さん。

 大切なニプレスを失った彼女は、恥ずかしそうに扉で身体を隠している。それはそれで、ちょっとエッチな仕草だ。


 愛菜さんってばなんか『いじめてオーラ』を持ってる気がする。

 普段は強気ないたずら娘が、こういう時に弱気になるのは反則だよね。


 ほんとたまらない。


 深呼吸をして僕はサドっ気と身体を落ち着かせる。


「愛菜さんは真剣にやってただけでしょ。丸く収まった訳たならもういいじゃない」


「……ゆうちゃん」


 僕は今回のことを水に流した。

 いや、シャワーに流すかな?


 愛菜さんも深く反省しているようだ。

 そこに言葉を重ねても、彼女をいじめるだけにしかならない。

 悪気もなかったことだし。


 チョロいかもしれないけど、僕は愛菜さんのことを許すことにした。


 むずがゆそうな顔をして彼女は顔を伏せる。

 無意識だろうか、扉にかけた人差し指をもじもじとさせると、「えへへ」と妙に嬉しそうに微笑んだ。


「じゃぁ、お言葉に甘えるね」


「うん。その代わり、陽佳のことよろしく」


「分かってるよ。ゆーいち」


 あれ?

 なんか僕の呼び方が変じゃない?


 困惑する僕に愛菜さんはサディスティックな笑顔を向ける。

 どうやら調子を取り戻してきたようだ。


 人差し指を唇の少し下に置くと、愛菜さんが思わせぶりなウィンクをする。


「私ね。友達をあだ名で呼ぶのが好きなの」


「あぁ、そう言えばなんか呼んでるね」


「そう。だからね、ゆうちゃんはゆーいちね」


 普通に本名なんだけれど。

 まぁ、いいか。別に呼び方くらい。


「ほら、ゆーいち! はやく髪を乾かさないと!」


「あぁ、そうだね」


 いいよといやだとも言わないのに、遠慮なく僕の名を呼ぶ愛菜さん。

 彼女に急かされて僕はドライヤーを探し始めた。


 髪が濡れていたら「なんで?」って陽佳に疑われるかもしれないからね。

 他にもいろいろと細かい所の帳尻を合わせないと。

 せっかく巧く誤魔化したんだ、最後まできっちりとキメよう。


 かくして僕と愛菜さんの内緒の撮影会は幕を閉じた。


 騒がしいばかりで散々な結果だったが、困難を共に乗り越えて二人の絆は深まったように思う。そのことは僕もちょっと嬉しく感じた。

 彼女の友達と親密になってどうすんだって話だけどね。


「……ホント、ありがとね。助かったよ、ゆーいち」


「なんか言った、愛菜さん?」


「べつに! ほら、早くしなよ!」


◇ ◇ ◇ ◇


 無事に愛菜さんとのあれこれを誤魔化し終えた僕たち。

 それからは、特に問題などなくトントン拍子に話は進んだ。


 愛菜さんが新しい下着に着替える。

 ローテーブルを囲んで美琴さんのお弁当を皆で食べる。

 腹ごなし。部屋に置いてあったボードゲームで一勝負。


 そこから気持ちを切り替えて――いよいよお勉強。


 ガラス張りのローテーブルにノートと教科書を広げる三人。

 床に直接座り込んだ陽佳たちは、シャープペンシルを忙しくノートに走らせる。流れるように次々と、彼女たちは教科書の練習問題をこなしていった。


 流石はお嬢様学校の生徒だけあって真面目なものだ。


 陽佳が手を止める。

 シャープペンシルのノックを唇に当てて、計算途中の式とにらめっこ。

 うーんとひとしきり唸ってから、彼女は隣の愛菜さんの肩を叩いた。


「愛菜ちゃん、ここなんだけれど?」


「どれどれ? あー、これは単純な計算ミスだね。ここ、数字が入れ替わってる」


 呼ばれて愛菜さんがノートを覗く。

 すぐに彼女は自分のシャーペンを使って間違っている箇所を指摘した。

 ちょっと見ただけですぐ分かるなんて、やっぱり賢いんだな。


 少し考えて「なるほど!」と陽佳は手を叩いた。

 そんな感じで、愛菜さんにうまくサポートしてもらい、着実に陽佳はテスト勉強をこなしていった。どうやら約束はちゃんと守ってもらえそうだ。


 身体を張った甲斐があったかな。


 そんなこんなで、時は流れて――。


「あら、もうこんな時間ですわ」


「くぅー、疲れたね。よっぴー、今日はここまでにしとこっか」


「ふぁー、やっとおわったー。もうむりぃー」


 時刻は午後11時。

 あっという間に深夜の入り口だ。


 眠そうに目を擦る陽佳。肩をほぐすように伸びをする美琴さん。ベッドでストレッチをする愛菜さん。勉強から少し離れて、彼女達はリラックスする。


 こんな夜遅くまでおつかれさま。

 君たちの努力が実を結ぶことを僕も祈っているよ。


 紙コップにペットボトルの紅茶を淹れると僕は彼女達に配って回った。


 そして唐突に気がついた。


「だからここラブホテル! ダメだよ、こんな深夜までいちゃ!」


 なんだか帰るタイミングを逃して、こんな時間まで一緒にラブホにいることに。


 高校生として不健全極まりない状況に僕は愕然とする。

 なのに、陽佳たちは冷ややかな表情。


「ゆーいちってば、なにを今更言ってんのさ」


 と、ケラケラ笑う愛菜さん。


「ゆうちゃんさんってば、勉強してないから一人だけまだ元気ですわね」


 なんだかちょっと呆れた感じの美琴さん。


「ゆうちゃん、悪いけれどマッサージして。もうくたくたなの」


 そして、こんな状況なのに甘えてくる陽佳。


 のんきか!


 そのまま寝てしまいそうなくらい、くつろいでいる女の子達に僕は白目を剥く。

 早く帰らないと終電なくなって家に帰れなくなちゃうよ。


 のんびりしている場合じゃない。


 ――いや、待てよ。


 まさかとは思うけれど。


「……君たち、ここに泊るつもりじゃないよね?」


「「「泊るけど?」」」


「嘘でしょ⁉」


 やけにまったりした陽佳たちに恐る恐る尋ねれば、ほれみたことか思った通り。

 真顔で「ラブホテルで一晩明かす」なんて彼女達は言った。


 まぁ、確かに女子会ならお泊まりは普通かもしれない。

 勉強するだけならスタバやマクドでもいいものね。

 泊ることを見越してのラブホチョイスか。


 ――けど、ラブホやん!


「あ、そうだ! せっかくだからさ、ゆうちゃんも泊って行きなよ!」


「……なに言ってるのさ陽佳⁉」


 打ちひしがれる僕にさらに追撃が入る。


 いつの間に僕の傍にすり寄っていた陽佳さん。

 ぎゅっとズボンの裾を引いて、彼女は下からおねだり顔。

 あざらしみたいな愛らしさで僕に迫ってきた。


 いつの間に編み込みのおさげがほどけていて、ふわりと顔の横に広がっている。寝癖っぽいような天パっぽいような、もっさりとしたその感じもまたキュートだ。

 かわいさ反則勝ちだよ。


 けどなぁ。

 流石に女子会のお泊まりに男が混ざるのはなぁ。


 僕はちらりと美琴さんと愛菜さんの方を見る。

 いいですかというよりは、ダメだよねと確認する感じ。むしろ断ってもらって陽佳の説得に力をかして欲しかった。


 けれど――。


「いいじゃん、そうしなよ! 一緒にお泊まりしようぜ、ゆーいち!」


「そうですわよ、ゆーちゃんさん。遠慮なさらないで泊っていってくださいまし」


 どうしよう歓迎されちゃった。

 しかも、彼女達ってばちょっと嬉しそうだ。


「……けどほら。僕、着替えを持って来てないし」


「大丈夫だよ。下着を買いに行ったときに、ゆうちゃんのも買って来たから」


「え? そうなの?」


「そう! だから安心してお泊まりできるよ?」


 陽佳は立ち上がるとベッド横に置いてあった紙袋を持ち上げた。

 愛菜さんの下着を入れていた袋だ。


 陽佳は紙袋を僕の胸に押しつけると、少し屈んで上目遣いに「ダメかな?」と僕に尋ねてきた。桜色のワンピースの中で柔らかく彼女の胸が揺れる。

 ほんと、頼み方が反則だよ。こんなの断れない。


 理性と欲望の狭間で僕の心が揺れる。


「それにこの後、みんなでパーティするのよ?」


「パーティー?」


「うん。寝間着に着替えて見せ合いっこするの。きっと楽しいよ?」


 パジャマパーティか。

 それは確かに楽しそうだな。


 だからねと僕の腕を遠慮気味に引く陽佳。

 ダメ押しの甘えんぼモードで、彼女は僕に泊っていくようにねだった。


 まぁ、いいか。


 彼女が喜んでくれるなら、それをしてあげるのもまた彼氏の役目だ。

 変なことにならないよう僕が気をつければいいだけだしね。


 頼むぜ! 持ってくれよ僕の理性!


「分かったよ。じゃぁ、泊っていこうかな」


「やったぁ! みんなー、ゆうちゃん泊ってくれるって!」


 僕が頷くと、陽佳がすぐさま両手を挙げる。

 そんな喜ぶことだろうか。苦笑いしながら、美琴さんと愛菜さんにも僕は頭を下げた。「という訳でよろしくね」と言うと、二人もなんだか嬉しそうに微笑む。


 またしても女子会の中に男一匹紛れ混む。

 結局また、うらやまけしからんと後ろ指をさされる展開になるのだった。


 さて――。


「それじゃぁ、さっそくお着替えタイムといこっか!」


 立ち上がって自分の寝間着を取りに行く陽佳たち。

 僕も紙袋を手に浴室へと向かった。


 彼女達のお着替えを見るわけにはいかないからね。


 服を脱ぎかけていた陽佳に移動しているところを見つかる。「別に気にしなくていいよ」と止められたけれども、そういう訳にはいかない。

 逃げるように浴室の中に駆け込むと、ほっと一息。

 

 怒濤の今日もいよいよ終わりか――。


 このまますんなり寝れるといいけれど。

 なんて思いながら、僕は陽佳が選んでくれたパジャマを身につけた。


 うむ。


 ウール100%。

 白いもこもこな外見は、男が着てもとってもキュート。

 大事な乳首と僕のお○ん○んを、ファンシーかつソフトに包む一品。

 ただし、それ以外の場所はモロ出し。


 ――これ、下着やん。(しかも女性用)


 渡された寝間着はどこからどう見ても、下着以外の何ものでもなかった。


 浴室の鏡の中に、ふたたび変態が現われる。


「ちょっと陽佳! どうなってるのさこれ!」


 たまらず浴室から僕は飛び出す。

 しかし、それが早計だった。


 ベッドの前に集まった美少女達。

 僕と同じように彼女たちも思い思いの寝間着に着替えていた。


「あら? なかなか言い趣味していらっしゃいますわね、ゆーちゃんさん」


 セクシーな赤いネグリジェに身を包んだ美琴さん。

 身体を振れば、赤いカーテンの向こうに胸とお尻が暴力的に揺れる。

 うーん、総天然色ピーチガール。


「あーっ! なに着てるのさゆーいち! 女の子の下着じゃん!」


 競泳水着のようにマットな感じの下着を身につけている愛菜さん。

 そのしなやかな身体にはシンプルな服装がよく映える。

 うーん、たまらんエッチかわいい。


「あらあら、かわいい子羊ちゃん。どうしてくれようかしら」


 そう言って、一人だけドスケベ下着を身につけた陽佳。

 いわゆるマイクロビキニ。大事な部分だけを隠して後は紐だ。

 灰色をしたもこもことしたのファーが、実にワイルド&ビースト。

 いけない女オオカミさん。


 ずらり並んだ下着の美少女達。

 僕はたまらず「うぅん!」と唸っていた。たぶんとってもスケベな顔で。


 そして、すぐ正気と真顔に戻った。


「なにやってんだよ君たち! どういうことこれ⁉」


「「「ランジェリーパーティだけど?」」」


 パジャマパーティじゃなかったの⁉


 予想もしなかった女子会夜の部に僕は絶句する。

 そうだと知っていたら、無理にでも帰っていたよ。


 目のやり場に困って僕はあわてふためく。

 そんな僕を、まるで獣のように機敏に近づいて陽佳が押し倒した。


「さぁ、ゆうちゃん。夜のお勉強をはじめよっか?」


「陽佳さん?」


 僕のお腹の上で舌なめずりする彼女。

 むき出しになった僕のお臍を彼女は指でさするとぎらりとその目を光らせた。

 もうすっかりやる気満々だ。


 はからずとも僕たちの状況は下着の意匠どおり。

 僕が羊で、陽佳がオオカミ。エッチな女オオカミに襲われて、どうやら僕はこれから食べられてしまうらしい。


 けど待って、ちょっと待って。

 美琴さんと愛菜さんがいるのよ。

 ダメよ、こんなの――。


「あらあら。今日も仲良しですわね」


「ほどほどにしてよ頼むから」


 なんて思っているのは僕だけのよう。流石はDiscordで、友達の初情事を見守った者達だ。いまさらな心配だった。


 ダメだこれは。


「はい! それじゃみんな集まって! Discordで見た映像の復習だよ!」


「「はぁーい!」」


「みこちん、愛菜ちゃん、カメラの準備はオッケー?」


「「まかセロリ!」」


 女子会おそるべし!

 ランジェリーパーティ侮りがたし!


 かくして――。


 ぼくはあさまでいっぱいおべんきょうした。


【幼馴染を救うのを条件にラブホテルに入って便利な道具扱いされた件について編 おわり】


☆★☆ ここまでお付き合い本当にありがとうございます。引き続き『温泉旅館で催●をかけられ幼馴染の前で弄ばれた件について編』というのを今全力で書いてます。なんとかまた明日から投稿しようと思っているので、よろしければまた応援していただけると嬉しいです。m(__)m ☆★☆


☆★☆ 執筆の励みになりますので面白かったら評価・フォロー・応援していただけるとうれしいですm(__)m ☆★☆

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