温泉旅館で催●をかけられ幼馴染の前で弄ばれた件について
第11話
木曜日。午後6時。
場所は僕の部屋。
制服を着替えもせずに、僕は椅子に座って愛菜さんとスマホで通話をしていた。
『ゆーいち、来週の土曜日って暇かなぁ?』
「いまのところ予定はないよ。陽佳は何か考えているかもしれないけど」
『よっぴー次第かぁ』
悪夢の【お泊まり勉強会@ラブホテル】から約二週間。
僕は陽佳の友達とすっかり親密な関係になっていた。
今じゃこうして普通にトークするような仲だ。
今日もまた、愛菜さんから誘われてLINEで通話中。
そんな話の途中で急に彼女が「頼み事があるんだ」と深刻なトーンで僕に言った。
また撮影の相談かな?
おずおずとした話し方に愛菜さんが困っているのを感じる。「詳しく話してよ」と言うと、僕は週末のスケジュールを彼女に確認され――今ココという訳だ。
スマホの向こうで愛菜さんが「うーん」と唸った。
『どうしよっかなー? よっぴーが一緒なのはちょっとまずいよなー』
「なにがマズいの?」
『いや、こっちの話。できれば、よっぴーには内緒にしたいんだ』
どうも話の要領が見えない。
条件の確認ばかりで、具体的な話をしないのもどうしてだろう。
言いにくそうに愛菜さんが黙り込む。
椅子の背もたれに体重を預けて僕は次の言葉を待った。
随分ためらって彼女は『あのさ……』と話を切り出した。
『土曜日なんだけれど、早馬温泉に一緒に行かない?』
「え? 温泉? なんでまた?」
『いや、別にデートじゃなくてね。普通に仕事なの。うん。私のカメラの腕を見込まれて、知り合いから撮影を頼まれちゃって。それで、どうしても男手が必要な作業があってね。ゆーいちさえよければ手伝って欲しいなと……』
「なんかキョドってない?」
『キョドるじゃん! 友達の彼氏を誘ってるんだよ!』
たしかに。
いくら手伝いが欲しいからって、友達の彼氏を誘うのは勇気がいるよね。
ひとつ間違えたら浮気だもの。
そりゃ慎重になるか。
しかし、友達の彼氏に声をかけるなんてよっぽど困っているんだな。
――まぁ、そういうことなら仕方ないか。
「いいよ、行こうか早馬温泉」
『……ホント? ありがとゆーいち!』
友人を見捨てることはできない。
僕は愛菜さんの申し出を受けることにした。
ただし、陽佳に週末にデートに誘われなかったらという条件付きで。
当日の仮スケジュールを詰めて僕は通話を切る。
去り際に「くれぐれも陽佳にこのことは内緒で」と愛菜さんに念を押されて、僕は少し罪悪感を覚えた。なんだか浮気をしている気分だ。
恋人の友人っていうのがそれっぽいよね。
さて。
今日も陽佳は僕の部屋に遊びにくる。
その時に、週末の予定については聞くことにしよう。
話し込んだらちょっと喉が渇いた。夕飯前だが小腹も空いている。
飲み物とエネルギー源を求めて、僕は一階のリビングへと向かった。
リビングに入れば、カウンターキッチンで母さんが夕飯の準備中だった。
ソファーには妹の宮古。寝そべりながらテレビを眺めている。ローテーブルには彼女のスマホとじゃがりこが置かれていた。
我が家のいつもの風景だ。
ふと、キッチンの母さんと目が合った。
「あら、ゆうちゃん。どうしたの下に降りてきて?」
「ごめん、ちょっとお腹が空いちゃって」
「もーっ、お夕飯まで我慢できないの? 食いしん坊さんねぇ」
妹の横を素通りしてキッチンに入る。
母さんの背中を通って冷蔵庫の前。扉を開けるとドリンクホルダーに500mlのスポーツ飲料があった。よし、とりあえず飲み物は確保だ。
お菓子は何にしようかなとキッチン上の戸棚を覗く。
夕飯を残されるのが嫌なのだろう、母さんがふてくされた顔をした。
そんな顔しなくてもちゃんと食べるよ。安心して、食べ盛りなんだから。
「あ、そうだ。母さん、今週の土曜日は出かけるね」
「あら? また陽佳ちゃんとデートかしら。妬かせるわねぇ」
「いや、今回はちょっと違ってね……」
母さんのふてくされた顔で、週末の話を僕は思いだした。
出かける予定はちゃんと話をしておかないと。
しかし、説明に困るな。
彼女の友達のお手伝いだなんて。正直に言ったら誤解されちゃいそう。
少し考えて僕はおでかけの予定を誤魔化すコトにした。
「ちょっと一人で温泉に入ってこようかなって。ほら、いい季節じゃない」
「あら、いいわねぇ」
ぽんと手を合せて母さんがうらやましがる。
咄嗟に吐いた嘘だったが、母さんは無事に信じてくれたみたいだ。
よかった変に突っつかれなくて――。
戸棚から袋入りのチョコレートと一口羊羹を手に取る。
調達も無事に終わったので、僕はさっさと部屋に戻ることにした。
ふと、ソファーに寝そべる妹が視界に入る。
思春期真っ盛り。
用がなければ自分から家族と話そうとしない。
そんな妹は、皮張りのソファーに横になってテレビに夢中だ。
リモコンでお尻をぽりぽりと掻く妹。
あまりにだらしのない姿。年頃の娘がそれはちょっとどうなのさ。
――うぅん。
「宮古、そういうのやめなよ。彼氏の前でおもわずやっちゃって恥をかくよ」
「大丈夫よ、お兄ちゃんじゃないんだから」
どういう意味?
別に僕の経験談として言ったわけじゃないんだけれど?
何か知っているの宮古さん?
こっちを見ようともしない妹。
テレビを見ていたと思ったら今はもうスマートフォンに夢中だ。
LINEで何か忙しそうにやり取りをしている。
昔はもう少しかわいげがあったのだけれどもなぁ――。
いや、まだ「お兄ちゃん」なんて呼んで貰えるだけ幸せなのかもしれない。
「なに見てんの、キモいよお兄ちゃん」
「……はい」
シンプルな悪口に心が折れる。
とほほと肩を落として僕はリビングから自分の部屋に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
時は流れて午後8時。
陽佳が僕の部屋を訪ねてきた。
お互い、お風呂も済ませてスタンバイオッケー。いつでも仲良し出来る状況だ。
けれども、流石に交際三週間目ともなるとおちついてくる。
ベッドの上に寝転んで抱き合っていちゃいちゃ。今日はもう、そういうのはいいかなって感じで、僕たちは夜を過ごしていた。
Tシャツにゆったりとしたニットのパンツ。
髪をヘアバンドで上げてお化粧も少し薄めの陽佳ちゃん。
彼女は僕の腕の中でスマホを見ていた。
スマホで見ているのは動画配信サイト。
最近流行っているドラマが画面では再生されている。
陽佳の背中にくっついて僕もそれを一緒に眺めた。
恋人と一緒にドラマを見るって、なんだかドラマのワンシーンみたいだな。
なんて思っていたら、美琴さんがちょい役で出て来てぎょっとしてしまった。
そんな友達の出番が終わった所で「ふぁ」と陽佳があくびをする。
ずいぶんと眠たげな表情だった。
「どうする、今日はもう寝ちゃう?」
「まだ帰りたくないかなぁ。ゆうちゃんと一緒にいたい」
「じゃあ――する?」
「そういう気分でもないかなぁ。ゆうちゃんがしたいのならいいけど」
むずかしい要求だなぁ。
これは、男してどうするのが正解なんだろう。
少し考えて、僕は陽佳のお腹に手を回す。
服の上からおへそを人差し指でくすぐる。それから手のひらでさわさわと恋人の下腹部をなでた。「ンッ……」といろっぽい声を上げて、陽佳が動画を止める。
あら、これはだめだっただろうか?
頬を膨らませてこっちを見る陽佳。
それは「ちょっと怒っているかな?」くらいの顔つきだった。
「ゆうちゃん。服が皺になっちゃうからだーめ」
「だめですか」
「やるならこっち」
陽佳はシャツの袖をめくって僕の手をその中に誘い込んだ。
直で触れて欲しいということか。なるほどエッチなんだから。
ほんのちょっぴり彼女に身体を寄せる。柔らかい陽佳のお尻にひっつきながら、僕はそのなめらかな肌をやさしくさすった。
彼女の耳の先が、薄く赤らんでいるのがどうにも愛らしい。
こういう健全ないちゃいちゃも悪くないかも。
そんな時、僕は二時間前の愛菜さんとの約束をふと思い出した。
「そうだ。今週末ってどこか行きたい所ある?」
「ごめん。土曜日はもう予定があるんだ」
「あ、そうなの?」
「うん。みこちんと冬服を買いに行こうって前から話をしていたの。今週末はお仕事ないから一緒にどうかって、さっき連絡があったんだ」
奇遇なこともあるものだな。
二人揃って、友達に誘われてお出かけだなんて。
まぁ、僕の方は口止めされているから言えないんだけれどさ。
いつの間にか僕の方を向いていた陽佳。
彼女はさっきまでのおかえしという感じに抱きついてきた。
二つのたわわがみっちりと僕の胸の前で押しつぶされる。
シャツの下はノーブラなんだろうか、やけに動きが荒々しい。だが、それがいい。
僕は陽佳の胸の柔らかさを贅沢に心ゆくまで堪能した。
こればっかりは恋人の特権だよね。
その体勢のまま、陽佳は話を続ける。
眠そうだった顔はいつの間にかいつもの明るい笑顔に戻っていた。
「ゆうちゃん、もしかしてどこか行きたかった?」
「いや、別に。日曜日に行けばいいだけだよ」
「ごめんね、他の子とデートなんてしちゃって。私、悪い子だね」
「なに言ってんのさ」
そんなこと言われたら僕はどうなるんです。
土曜日、君の友達とこそこそと出かけるんですが。
まぁ、愛菜さんも本気で困っているんだ。そこは見捨てられない。
それに、男と女とかの前に、僕と彼女はもう友達なんだから――。
そうだ友達と遊ぶだけだ。
「友達と遊ぶだけじゃない。全然浮気とかじゃないよ、気にしないで」
少し言葉に詰まったけれど、僕は陽佳にそんな言葉をかけた。
陽佳が「ふーん……」と冷めた反応をする。
思っていた反応と少し違う。「そうだよね」と同意してくれるかと思ったのに。
急に僕から陽佳が胸を離した。
いちゃいちゃはおしまいかなと思えば――陽佳の小さな手が悪戯っぽく蠢く。
「土曜日も本当はいちゃいちゃしたかったんでしょ? ゆうちゃんってばエッチなんだから。そんないけない彼氏は――こうだ!」
「あっ、ちょっと陽佳! だめだよ、そんな所を!」
僕のお腹より下の部分をこしょこしょと陽佳がくすぐってきた。
この数週間の猛勉強の成果だろう、身体の触れ方がとても巧い。
ちょっと触れられただけなのに――みるみると気分が盛り上がっていく。
今日はそういうことしないつもりだったのにな。
やる気スイッチを入れられてしまった。
せわしなく手を動かす陽佳を「ダメだよ!」と僕は叱る。
そんなことを言いながら、僕は陽佳の胸に自分の手を置いた。
僕の方がよっぽどダメだ。
優しく身体に触れると、なんだか楽しそうに「うふっ」と陽佳は声を漏らす。
「土曜日にできない分、今日は楽しもっか?」
そう言って、陽佳は渾身のキス顔でおねだりしてきた。
ヘアバンドで上げられたミディアムの髪がいつもと違う動きをする。
バンドから髪が零れると、瑞々しい香りが僕の鼻に届いた。
湯上がり、卵肌、キス顔。
耐えられる男はそうそういないだろう。
彼女の顔と期待に僕はすぐに応えてあげる。
唇でお互いの輪郭をなぞり合うと、お互いの背中に僕らは手を回した――。
「ねぇ、ゆうちゃん。浮気はダメよ」
「……なに言ってるのさ?」
ふと、僕の背中にちくりと痛みが走る。
陽佳が僕の背中に爪を立てたのだと気づくのに、少し時間がかかった。
浮気を牽制した陽佳の顔はやけに暗い。
陽佳は黙って目を伏せる。まるで瞳の色を見られたくないみたいだ。
そんな仕草に、背筋が急に凍り付いたような気分がした。
――こんな顔もできるのか。
「もし浮気なんてしたら。私、何するか分からないからね?」
陽佳が僕の背中を掻いた。
心地よい痛みが背中に走った。
もしかすると、僕の彼女は思った以上にSなのかもしれない。
陽佳は僕の背中を掻いた指を顔の前に持ってくる。
その先を、舌でちろりと舐めた彼女は伏せていた視線をこちらに向けた。
縋るのでも祈るのでもない、強い意思が籠もった陽佳の瞳。
――もし彼女を裏切ってしまったら、僕はどうなってしまうのだろうか。
暗く後ろめたいその想像を僕は胸の中に押し込んだ。
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