はだかの王様

ノーバディ

第1話

 私は王だ。といっても小さく貧しい国ではあったが。

 民たちはみんな俺の家族。

 多少いい加減でずるいところはあるが私はそんな国民の為が大好きだ。

 この民の為ならどんな苦労も厭わない。

 私は国の為に必死に働いた。

 そのかいあってか国は少しずつだが豊かになっていった。


 ある日大臣の一人がこう言った。

「王様、この国も少しばかり豊かになりました。

 王様も少しくらい贅沢をなさっても良いのでは?」

「しかしこれといって欲しい物などないが」

「お召し物などいかがですか?

 今近隣の国で話題になった仕立て屋がこの国に来ているとか。

 多少値は張りますが一着くらいは良いのではないかと」

「そうか?」

「そうでございます」

 そんなものか。そうだな、偶には贅沢でもしてみるか。

「よし、その者を呼んでまいれ」

「はい」


 仕立て屋はすぐに来た。

「これはこれは王様、お声をかけていただき光栄至極にございます」

「堅苦しい挨拶はよい。

 私に見合う服を新調してはくれないか」

「喜んで。

 実は海の向こうの国より珍しい布を手に入れまして。

 その布は七色の輝きを放ち観る物の心を奪う程美しいといわれております」

「ほぉそれは凄い」

「ただ・・」

「ただどうした?」

「その服は愚か者に見えずその存在すら感じることは出来ないとか」

「なんだ、そんなことか

 この国にそんな愚か者は居ない。

 気にせず作ってくれ」

「そうですか。ありがとうございます。

 それと、この服を作ってるあいだは絶対に中を覗かないで下さい」

「あい分かった」


 愚か者には見えぬ七色に輝く服、なんと素晴らしいことか。

 出来上がりには2ヶ月程かかるとか。

 服が完成した暁にはすぐに国中の人を集めてお披露目会をしなければ。

 お披露目会?馬鹿か私は。ただの自慢会か?

 いや違う、国をあげての収穫祭を行うのだ。

 普段頑張ってくれてる民たちを労うのだ。

 その場で初めてその服を着るんだ。

 決して服を自慢する為に集めるんじゃないぞ。

 収穫祭だから人を集めるんだ。

 俺は柄にもなくウキウキしていた。


 そしてその日はやってきた。

 私はその服を着て玉座の前に立った。

 なんて軽さだ。まるで何も着ていないかのようだ。


 国中の人が私に挨拶をしていく。

 皆口々に私と衣装を褒めたたえた。

「なんて美しい」

「まるで神の化身のようだ」

「こんな美しい衣装は見たことがない」

 そして民達は衣の美しさに圧倒されたのか少し目を逸らしていくのだった。


 衣装を褒められるのがこんなにも気持ち良い物だったなんて知らなかった。

 王妃達が競って着飾ろうとする気持ちが少し分かってきた。


 祭りに終わりが近づいた頃、一人の幼い子がやって来た。

 俺は自慢げに衣装を振りかざしつつその子に声をかけた。

「よく来たな、坊主。

 しっかり楽しんでおるか?」

「ねえ王様?」

「なんだ?」

「どうして王様は裸んぼなの」

「へ?」

 思わず変な声が出た。

「こ、これ。そんな事言うもんじゃありません」

 母親らしき者がその子を叱った。

「だってホントに裸んぼなんだもん。

 おへその周りに毛が生えてるし

 パンツにクマさんの絵が描いてある」


 一瞬間を置き、どこかでぷっと吹き出す声がした。

「クマのパンツ」

「へそげ」

 それまで押さえてきたものが一気に噴き出すように各所で笑いが置き、それは一気に会場全体を包み込んだ。

「王様は裸」

「はだかの王様」

「仕立て屋に騙されたばかな王様」

「愚かな王様」

 皆んな顔を見合わせて笑ってる。

 私を指指して笑ってる。

 国中の皆んなが俺を見て笑っている。

 俺は青ざめた顔をしたままその場を後にした。


 そうか。そうだったのか。

 こんなにも愚かだったのか。

 俺は一人泣いた。


 俺はこの国を後にした。

 七色に輝く服をまとって。


 了

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はだかの王様 ノーバディ @bamboo_4

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