第4話 吉谷の、のど飴



「今日は吉谷はバイトかぁー」

 放課後、帰り支度をしていると、同じく鞄を背負った洋ちゃんとさっちゃんに声を掛けられた。

 その拍子に、「これ、あげる」とのど飴が差し出されたので、有難く受け取る。


「ありがと。ちょうど最近、喉がちょっと違和感あったんだよね」というと、ふたりは顔を見合わせて「なるほど」と手のひらの上に拳を、ぽん、と置いて合点がいった様子で頷いた。


「それ、吉谷に貰ったの」

「へ?」

「正しくは、吉谷が有住にあげるために持っていたのど飴を、洋が奪った」


 なんて奴だ。


 聞くと、洋ちゃんが歩の鞄に入っているのど飴を寄越せと迫り、「有住にあげるんだよぅ」と抵抗したらしい。


 抵抗したらしいけど、「そしたら私が有住に渡しておくから、私にも寄越せ」といくつか奪った――いや、貰った、らしい。


 なんて奴だ。


「あ、有住さんまだ喉の調子良くないの?」

 その時、私達のすぐ傍を通りがかった宮城さんが気遣うように声を掛けてくれ、「私ものど飴あるよ、あげる」と机に置いてくれた。


 こうして、私の机にいくつかののど飴が転がることになったのだけれど。


 私やさっちゃん達はそれを受け、「……宮城さんも、私が喉の調子良くないの知ってたの?」と、思わずお礼よりも先にそんな言葉を返してしまった。


「え、ああ、あゆちゃんから聞いて……」

「吉谷はなんで有住の不調が分かったのかな、私がのど飴奪ったの数日前なんだけど」

 洋ちゃんは、その数日ずっと私に渡さず持っていたんですね、はい。


「え?だって有住さん自分で――あ、……」

 はっとしたように宮城さんが口を押えて後ずさる。

 後ろに一歩引いたところで、それに合わせて洋ちゃんの瞳がギラリと光った。


「わ、私、そろそろ帰るね、ごめんね邪魔し……てっ…、きゃ!!」

 ささっと離れて逃げていく宮城さんの背中を、実にスムーズな動作で洋ちゃんが追いかけていく。


 肉食獣か何かなのかな、洋ちゃんは。

 そしたら宮城さんは草食動物だなぁ。


「うーん、取り合えず、有住は帰っていいよ。何か洋が興味を示しちゃったから、帰るまでもう少しかかると思うし」

 少し考える素振りをしたさっちゃんが、ちらりと私を見て告げた。


 正直私も気になるんですけど。

 でも、何となく言う事を聞いておいた方がいい気がして教室を出る。

 教室のドアを出るタイミングで振り向くと、宮城さんが羽交い絞めにされて教室に戻ってくるところだった。

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