第2話 有住と、やさしい世界
『すみません。喉の調子が良くないので、今日の配信はお休みします』
ポチポチと画面を操作し、投稿ボタンを押す。
数秒もすれば、いくつかの「いいね」がついた。
この「いいね」には、了解の意図や、心配してくれる意図が込められているだと思う。
もう暫くすると、ぱらぱらとコメントで心配や励ましの言葉が返信で付いてきた。
やさしい世界だ。
とはいえ、今日は喉の痛みがあるからお休みだけれど、そろそろ配信回数自体を減らす相談を、マネージャーともしていた。
流石に受験勉強との両立は厳しい。
ただ、一定期間、活動をお休みすることへの懸念もあって、まだちゃんと話を詰め切れていなかった。
どうにかなる、って思いたいけど。
どうにかするのも結局のところ、自分だし。
大学入試のかたちも時代とともに変わって来た、だなんて聞く。
でも当事者からすれば目の前のものが全て初めての体験なんだから、入試のあり方が刷新されました、とか何が変わったのか、だなんて議論はどうでもいい。
結局はよく分からないんだから。
勉強するしかないんだし。
一つ言えるのは、とにかく面接がある試験は嫌だ。
嫌だから、私には、推薦とか他の方法じゃなく、一般入試しかないってことだ。
『ほー、もうすぐ華の大学生活か。それが終わったらすぐ就職活動だね』
PCの向こうの北斗さんの声は、何故だか弾んでいる。
『まだ分かんないですよ。受かってもいないんだし』
作業通話をしながら、手元で次の配信のサムネイル画像作りを進めていく。
なってもいないのに大学生活の夢だけ見るなんて、捕らぬ狸の皮算用ってやつだ。
びびりな私にはとてもできない。
『サークルに飲み会に、ゼミにバイトに、自由度が高まるから色んな人と交流できるし色んな事ができるよ。色んなところにもいける』
構わず、北斗さんは続ける。
『大学生になったら何がしたいか、想像を膨らませなきゃ、頑張れなくない?』
何がしたいか――か。
配信に、遊びに、勉強に――。
ううん、いまいち想像ができない。
『もっと彼女さんとも一緒にいれるかもしれないけど、場合によっては、お互いが忙しくなる可能性もあるね』
そんな言葉に、思わず眉を寄せてしまう。
大学生活なんてまだ経験していないことは想像できない。
けれど、私がするどの想像の先にも吉谷――いや、もう歩、って名前で呼ぶことにしたんだった――がいる。
歩、と口の中でその名前を転がしてみる。
じんわりと、甘い気持ちに満たされる。
にやっ、と頬の筋肉がだらしなく緩む。
歩と離れたら幸せになれないことだけは、今の時点でも容易に想像ができた。
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