第6章
第1話 吉谷は、ご褒美がほしい
資格って、何か持っていた方がいいんだろうか。
英語に関する資格は一応、取ってみたけれど喋れるわけでもないし。
受験に有利かというと、受験生はみんな持っているようなものだから周りと差をつけられるものでもない。
かといって、他の人とちょっと異なる資格で差をつけようとしたら、それなりに勉強が必要だったりするから、受験勉強がメインの今では、時間も足りないし本当にその努力があっているのかも自信がない。
なんでこんなことを考えているのかっていうと。
「足りない……」
「吉谷、模試の判定どうだったー?」
先程先生から配られたばかりの模試結果を目の前に
足りないのだ。点数が。
もっと勉強しないと、と思っているけど、思うように結果が出ていない以上、焦りは募り、モチベーションはなかなか上がらないわけで。
「な~んかさ、推薦とか、他の入試の方法とか、凄い資格取ってみたり、功績とかあげて、ぱーっと目立って逆に大学からスカウト!とか来ないもんかね」
洋ちゃんの言葉に、自分の頭の中を読まれたのかと一瞬思い、どきりとする。
みんな考えることは同じらしい。
夏の終わり頃、私立や専門学校だとかの進学先によっては既に出願が始まっていて、何なら一部では既に合否発表が出ているところもあるらしい。
――らしい、っていうのは、あくまでそういうところもあるってだけで、私が受験予定の大学はまだ先だ。
大学入学共通テストの出願はした。
確実に足音は近づいている。
でも。
「ご褒美欲しいよね。ちいさくてもいいし、これがあるなら頑張れる、みたいなさ」
どうやら今日は洋ちゃんと思考がシンクロしているらしい。
頷きながらSNSで他人の呟きを見て、現実から逃避する。
今日はこのまま学校に残って勉強するか、自宅に帰って勉強するかどちらかしかない。
スマホの画面をスクロールしていくと、ある呟きが目に留まった。
「あ」
洋ちゃんに「なに?」と目を向けられたけれど、構わずきょろきょろと周囲を見渡す。
「あい……、あ、有住ってもう帰ったんだっけ」
「あー、確か今日は疲れたから早めに帰るって言ってたね」
そういえばそうだった、とお昼時間の会話を思い返す。
今日は比較的大人しく、口数自体も少なかったので疲れているのは本当なんだと思う。もしくは体調があまり良くなかったか。
画面をタップし、見ていた呟きに「いいね」を押す。
「――私、ちょっと用事できたから先帰るね」
ひらひらと手を振る洋ちゃんに見送られ、教室を出る。
洋ちゃんは、今日もこのまま教室に残って勉強するつもりなんだろう。
彼女の、普段の発言は軽いくせに、何だかんだこういう、しっかり努力するところは、結構好きだったりする。
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