第4話 さっちゃんと、夏期講座
私が通う学校は、地元でもまぁまぁな進学校だったりする。
いつも吉谷を構っている担任や教員達の様子から、ついそんなこと忘れそうになるけども。
先生達が真面目なのか、学校のコンセプトがそうなのか、公立高校にも関わらず他の学校への教員達の闘志が高く、「どこどこの高校に負けてはいけない」とずいぶんなハングリー精神発言が飛び出す。
なのでめちゃくちゃ模試も多い。
ここは予備校か、ってくらいに。
そのため、実は終業式が終わった翌日にも普通に学校に通っていたりする。
翌日からすぐに夏期講座があり、全校生徒強制参加なのだ。
休めよ。先生達も。
そんなことを言ったら、「あなた達が夏休みに入ったとしても、どうせ先生達は結局年間行事の準備やら夏休み明けの面談準備やら部活の顧問やらで休みはないのよ」と返された。
そんなに忙しいなかで夏期講座もやって、先生達は大丈夫なんだろうか。
公立高校の教職は結構ブラックなのだと、私は周囲の大人達から聞いてなんとなく知っている。
設備投資費が少ない中で時代遅れのIT環境で、このご時世に年功序列の古い働き方を強いられている――って、従妹のねーちゃん(現・高校教師)が愚痴っていた。
それはまぁ、おいといて。
「あ、紗智。桃瀬がいる」
そんなわけで、告白された翌日も、移動教室でこうして顔を合わせることになるのである。
洋の言葉に、通りがかった1年生の教室に目をやると、少し気まずそうな顔をした桃瀬ちゃんがこちらに手を振り、ぱっと目を逸らした。
――たぶん、今日から夏休みで会わないって思ってたんだろうなぁ――
わかる。
私も1年生の頃、夏休みはお休みだと思ってたもん。
「桃瀬、いいやつだよ」
私の顔を下から覗き込むように、洋がにやけた顔でそう告げる。
ちょっとデリケートな話だから迷ったけれど、元部活の後輩のことだしってことで、こいつにだけは昨日のことは話していた。
「いいやつなのは分かってる」
「じゃあ付き合ってみたら」
「それとこれとは違う」
「えー」
面白くなさそうにして唇を尖らせ、ぶー、と音を立てる。
行儀悪いからやめなさい……ほら、遠くで見てた吉谷が真似してる。
吉谷が行儀悪いことをしたら有住が躾けてくれるので、あいつは放置。
私は洋に向き合う。
「なんか妙におススメしてくるじゃん」
「べっつにー。桃瀬と紗智がくっついたらいいなって思っているだけだよ」
「その心は?」
「皆広がれ百合の華。女の子同士でくっつけば、そういう話ももっとしやすくなるな、……って」
そういうことか。
打算的な考えに呆れるが、そういう自分の欲望に忠実なところも嫌いじゃない。
もう一度1年生の教室を覗くと、桃瀬ちゃんは私の目線に気づかず、友達と喋っていた。
さて、どうしたもんか。
正直なところ、答えを出すべきなのか、保留にし続けてうやむやにしてしまう方がいいのか、迷っているところなわけである。
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