第3話 さっちゃんと、双子ちゃん



 返事は保留――というより、友達から、だなんて一見するとほぼほぼ相手を受け入れる方向の返答をしてしまったような気がしている。


 いつもの私なら、断ることは結構はっきりと断るはずなのに。


「ただいまー」

 今日はいつもより早い帰宅なのに、いつもより疲労感が強い。こんな日はさっさと部屋に戻ってのんびりしたい。


 のんびりしたいのだけど。


「きゃー!」

「きゃー!おねぇちゃーん!」


 出たよ。

 玄関を開けた途端、響いてきたのは耳を刺すような叫び声と、家の奥から走ってくるちびっこ怪獣――もとい、双子の妹と弟達。


「はいはい、どうしたの。近所迷惑だから叫んじゃ駄目よ」


 私の腰ぐらいまでの身長しかないふたりの頭をぽんぽん、と撫でながら一緒にリビングまで移動する。


 その短い間もふたりは、「あのね、あのね」といつものように興奮気味に話し始めるので、「はいはい」と相槌を打つ。


「あー、ごめんね、紗智。さっき幼稚園の帰りにショッピングモール行ったら、この服見つけちゃって。思わず買ったらふたりとも喜んでねー。すぐ着るって言って聞かなくて」


「あーどうりで」


 どうりでふたりとも、文字通り怪獣の格好をしているわけだ。弟達はふたりとも、お腹あたりに亀のお腹に似た絵がプリントされている繋ぎ服で全身をすっぽりと覆われていて、頭も怪獣の顔がプリントされたフードを被っている。


「おねぇちゃんみてー!」

「みてー!かいじゅう!」

「帰宅した瞬間からもう見えてんだよねー」


 フードをぐい、と手前に引っ張ると、弟はよろけながら「やめてー」と手足をばたつかせる。


「わたしもー!」と横からタックルを受けそちらを向くと、同じく怪獣ルックに身を包んだ妹が「わたしもあそんで」と抱きついていた。


 うーん。

 まず部屋に戻りたい。


「ふたりとも、お姉ちゃん疲れてるから」

 母親が夕飯の支度をしながらそう言うと、途端にふたりは唇を尖らせてぷくーっと頬を膨らませ、何故か私を見る。


 その訴えかけるような目や表情が、いじけている時の吉谷のようでもあり、さっきまで一緒にいた後輩の幼い顔を思い出させる。


 なんだか頭痛が……してくるような気がする。


「ほらほら、まずはお姉ちゃんが着替えてから遊んでもらいなさい」


 その言葉に、今度は私が訴えかけるような目線を母親に送る。

 そんな「頼むわ」みたいな顔されても。


「……着替えてくるから、待っててね」

 またもふたりの怪獣が奇声をあげ、私の両腕にぶら下がってくる。どうして子どもって何にでもぶら下がったり、よじ登ったりしたがるんだろう。


 それを見ていると、どうしても構ってあげたくなるような、疲れるような、相反する感覚が出てきて胸の中でぐるぐると渦巻く。


「おねぇちゃん、抱っこ」

 あっちでもこっちでもひっぱりだこで、もうおねぇちゃんはいっぱいいっぱいです……。

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