第2話 さっちゃん、年下に気圧される
「……っと、それは先輩で合ってますっ」
「ごめん、今のは私が悪かった」
ごめんなさい、と流石に頭を下げる。
折角、勇気を振り絞って三年の教室まで来てくれた子になんてことを。
やっちまった感が拭えない。
拭えないけど、私のことが好きだというのも、ピンと来ない。
面倒見がいいとか大人びているとか言われることはあるけど、正直なところ、自分がそんなにモテるタイプだとは思えないからだ。
ましてやこんな素直そうな女の子に。
「えーっと、私、何か好かれるようなこと、したっけ」
そう聞くと、百瀬ちゃんは少し頬を染めながら話してくれた。
「あの、村山先輩、卒業してからもよく水上先輩と中学に来てくれてたじゃないですか」
「あぁー……」
まぁ、確かに行っていた。洋の付き添いで。
先生に会いに。
「その時、卒業しても熱心に母校の先生に近況を報告しに来たり、後輩たちの指導をしている姿を見て、いいなって……」
近況を報告してたのは主に洋だけど。
部活は、あいつらが勝手にこちらを見つけてきてわらわらと寄って来ていただけだし。
「直接の後輩じゃない私達テニス部の様子も水上先輩と見に来てくれてましたよね。高校生活の話をしてくれて、進路に悩んでいた私達にとっても凄く参考になったんです。それで、いつの間にか村山先輩や水上先輩と同じ学校に行きたいなって思うようになって」
何度も言うが、私は洋の付き添いで、あいつに連れられて行っていただけだ。
「あー、申し訳ないんだけどそれ……」
「はい。村山先輩が水上先輩と、その、仲が良いことは知っているつもりなんですが……」
ん?
今なんて?
「でも、気持ちだけは伝えたかったというか、あわよくば付け入るスキがないか、というか……」
「思ったよりしたたか……じゃなくて、ちょ、すとっぷ! 桃瀬ちゃん、私と洋のこと、何か勘違いしてない?」
「え、おふたりが、その…付き合って」
「ちがうからっっ!なんでそうなる!女同士でっ!」
あ、これは言葉のチョイスを間違えたかも。
今現在、私に告白して来たこの子も女の子だ。
「あ、その、ごめんね。別に女同士が嫌とかそういう訳ではなくて、洋とは、ほんとただの友達なんだよ」
女の子同士が一緒にいるだけで懇ろな関係(古い?)だと思われるなんて、時代も進歩したもんね。
だなんて考えて気を紛らわせようとしたけれど、この子はこの子で多分私のことが好きだから思わずそういうフィルターで見てしまった可能性がある。
さて、どうしたもんか。
見ると、目の前にいる桃瀬ちゃんは、俯いてふるふると震えている。
私はまた何か間違えたのだろうか。
「えーっと、桃瀬ちゃん?」
「やった……、じゃあ…」
「ん?」
「先輩っ、私にもまだ希望はありますかっ!」
この子、スーパーポジティブだなっ!
どこをどう翻訳したらそういう解釈になるのか。
ただ、あるとは言えないけれど、無下にもできない。
この子は洋の後輩だし、それに、何だか、見てるとこう、思い出すのだ。うちの弟や妹たちを。もしくはいつも洋にいじめ…いじられている吉谷とかを。
この間も有住をとられてしょんぼりしてたもんな。
休み時間の度に有住にじゃれに行く吉谷も吉谷だけど。
ええと、今はそんなことを考えている場合じゃなくて。
「えっと、付き合えはしないけど、じゃあ、友達にはなってもいい、かな」
「お友達から、ですね。やったぁ」
そう言って嬉しそうにはしゃぐ様子の百瀬ちゃんを見て、私は押しに弱いのかもしれない、と思った。
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