第4章
第1話 さっちゃん、当事者になる
いつも、誰かが誰かに恋をするのを、傍で見ていた。
例えば、洋。
同性の先生を好きになっちゃって、その気持ちを必死に隠して隠して笑顔を貼り付けて、ただ傍に居られればいい、っていう見ているだけで切なくなりそうな恋。
かたや、有住や吉谷みたいに、よくケンカするのに仲が良い、不器用な子同士の恋。お互いの気持ちに気づいてからは周囲を手こずらせながらもなんとかくっついて、見ているこっちもついつい応援したくなるんだ。
まあ、本気度は人それぞれだし、その時々でも私の周りにいた人たちはきっと一所懸命、恋をしていたのだと思うけど。
それを、私はずっと色んな誰かの近くで見てきた。
当事者ではなく、隣、またはその周囲のひとりとして。
恋をして、傷ついてみたり、甘酸っぱい気持ちになってみたり、どきどきしてみたり、そんなもの、私にはまだよく分からなくて。
有住や吉谷みたいな可愛い子や、洋みたいな自分の気持ちに忠実なやつが似合うんだと、そう思っていた。
――そう、思っていた、んだけど。
「――あの、それって私で合ってる?」
目の前で真剣な眼差しで見つめてくる女の子に、私は思わずそう返してしまった。
今日は夏休みに入る前日の終業式の日。
HRも終わり、あとは帰るだけ、って時。
「すみません。村山先輩はおりますでしょうか」
ドアの方から聞こえてきたその声に振り向く。その顔を見て、「あれ?」と首を傾げた。
肩を少し過ぎるくらいの髪をふたつ結びにした、顔にまだ幼さが残る女の子。
やや強ばった声色でも、懸命に発せられたその声はしっかりと私に届いた。
目が合う。
そのままその子に連れ出されて、今私がいるのが、校舎裏。
典型的な告白のシチュエーションの場に、もしかして、と勝手な想像をして少し笑ってしまう。
そんなはずはないのに。
「んで、何か相談事? 一年生が三年生の教室まで来るなんて緊張したでしょ」
緊張した面持ちで両手を胸の前でもじもじとさせているその子は、まぁ、少しは見知った子で、
「あ、いえ、えっと…」
と歯切れ悪く答える様子に、やっぱり何かあるんだ、と話を聞く体制に入る。
どのみち人がいる場では言いにくい事なのだろうと思ったので、暫くそのまま雑談をして気持ちをほぐしていく。
手を伸ばして少し頭を撫でてやると、「ほんと先輩そういうとこ…」とボソリと呟かれて、慣れ慣れしすぎたか、と手を引っ込めた。
そうすると何故か逆に落胆したような顔をされ、何か間違えたかな、と思ったのも束の間。
「私――先輩のこと、中学の頃から好きでした」
繰り出された告白に、「好きって、どの好き?」なんて答える野暮なことはできない。
いや、吉谷や有住あたりは天然だしやりそうだな。
洋は――あいつは分かってて相手を
いつか誰かに刺されればいい。
とはいえ、今は私が当事者なわけで。
いや、だって、君、ううーん。
分かりやすく
口からその言葉が出きった瞬間には、自分で自分に「この状況で人違いなわけないだろっ」とツッコミをいれたけど。
でも、だって。
だって、この子 ――
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