第2話 吉谷は、頭を抱える
今回のお話は短いです。(><)
=========================
「……あの、先輩、仕事してくれません?」
バイト先の喫茶店のスタッフルーム。
テーブルに突っ伏している私の頭上で、凜花ちゃんが言い放つ。
バイトを始めた当初、あんなに可愛らしかった彼女も、今ではすっかり一人前だ。
ここ最近は、どちらが先輩かわからない、とマネージャーに言われているくらいには。
……。
ほんとに優秀だなぁ。
あれから有住には何も聞けていない。
――有住と犬養桜の声って似てるね。
それは以前にも言ったことがある。
でも、有住ってもしかして犬養桜なの?だなんて聞いたことはない。
似ていても本人だとは限らない。
だってさくたんはVtuberだ。
友達じゃない。クラスメイトでもない。
同じ都道府県に住んでいるとか、もしくは同じ国に住んでいるのかすら分からない、年齢不詳、所在不明の、画面の向こう側の存在なのだ。
ただ、有住が常盤先輩に無理やり放送室に連れ去られたあの日、校内放送を聴いた私はこう思ったんだ。
――見つけた、って。
別に、探していたわけじゃない。
意識して聴いていたわけでもない。
それでも、マイクを通した声や間のとり方、息づかいを聴いていて、大好きなあの声だ、って思ったのだ。
大好きな、さくたん。
……ただなぁ、そうだとしたら。
私はまた頭を抱える。
……推しが実は自分の彼女だったってマジ?
『私はさくたんも、中の人も含めて全部好き』
途端に、過去の自分が吐いた恥ずかしい発言が蘇る。
『見た目はもちろんだけど、声も喋り方も、性格も全部好き』
ああ、そんなことも言いましたね。
確か他にも――。
『実物のさくたんに会ったら、ただの視聴者と配信者の関係ではいられなくなるかもしれない』
『……』
あの時有住は、何か言葉を返してくれたっけ?
私の言葉を受けて、なんて思ったんだろう。
ああああ、よくよく考えたら、もしも有住がさくたんだとして、それならこれまでの私のさくたんへの愛の言葉は、全部本人に届いてたってこと?
「うっわぁ〜〜〜……恥ずかしい……でもまだ確認してないし確定では…」
「ほんとに、今日はどうしたんですか先輩?」
「凜花ちゃん」
「はい?」
「これって夢かな?」
「あの、先輩、マジで仕事してくれません?」
頼もしくなったね、凜花ちゃん。
こめかみに青筋をたてながら笑顔で凄む彼女を見て、私はやっと重い腰をあげたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます