第4話 有住愛花と、3人の絆
「はぁーい、そしたら班に別れて役割分担したらディスカッションを始めてください」
先生の合図で、ガタガタと机を動かして班をつくる。
今日は、授業でグループディスカッションをするらしい。
与えられたテーマについてグループで話し合って全体に発表する、アレだ。
大学入試の試験などでやる可能性があるとか、就職でもこういう選考をする会社が多くなっているから、とかで授業でもやることになったらしい。
私は、正直ちょっとこういうの苦手なんだけど。
結局いつものメンバーで班を組み、私達は役割分担から決めることにした。
「んじゃ、役割決めますか。話し合いを進める司会と発表者、書記とタイムキーパーだってさ」
「司会はもうさっちゃんで良くない?今も回してくれてるし」
洋ちゃんの言葉に、私と吉谷もうんうんと頷く。
「それぞれ無理なくできるのやろうよ。私、発表者やっていい〜?」と洋ちゃんがひらひらと手を挙げる。
結局、さっちゃんが司会で、洋ちゃんが発表者、私が書記で、吉谷がタイムキーパーとなった。
吉谷は、「良かったぁ。私、司会とかできる気しないんだよね」と安心した様子だ。
だいぶすんなり決まったなぁ、と思う。
他のグループでは、じゃんけんをしたり、どうやって決めるかを決めよう、とみんな遠回しに役割が割り当てられることさえ避けたい様子が見える。
その点、私達はほぼ即決だった。
「さ、じゃあテーマをおさらいして班の意見出していこっか」
さっちゃんの言葉を受けて、みんなで黒板に書かれた文字を見る。
テーマは、『ネット広告とテレビ広告のメリットデメリット』。
それを班で話し合って、クラスのみんなの前で発表するんだそうだ。
改めて、自分から発表者をやると言った洋ちゃんは凄い。
私は、配信ならまだしもリアルではなるべく人前に出たくもないし目立ちたくもない。
「人前で発表するって凄い……」
そんなことを言うと、頬杖をついた本人から「ああ、そうでもしないと私、真面目に話し合いに参加しないかもだから。発表する人って話の流れ踏まえて頭の中でまとめないといけないでしょ。だから強制的に」と返ってきて、また感心した。
こういう、何だかんだ真面目なところが中学時代にテニス部の部長をやってた所以なんだろう。
「それよりも私は文章まとめるの苦手だから、有住が書記やってくれることの方がありがたいけど。字、綺麗だし文章も分かりやすいし」
班でまとめたものは発表だけじゃなくて、指定のプリントに書き込んで提出しないといけない。
それを書くのが書記の仕事だった。
「ねぇねぇ、私は!?私は!?」
「吉谷は声がデカいからね。残り時間とか、何分経ったよ、とか言ってもらえると助かる」
にこにこ顔で言うさっちゃんに、吉谷が「声…おっきい声でがんばる!」と握りこぶしを作って意気込んだ。
可愛い。
私の彼女可愛い。
「有住、顔ゆるみすぎ」
洋ちゃんに頬を突かれる。
いかんいかん。
さぁさぁ、始めますよ〜、とさっちゃんが手を叩き、他の班が役割分担でもたつく間に私達は本題に入った。
「テレビあんまり観ないなぁー」
「私、観てるのスマホで動画ばっかー。動画の合間に挟まってくるのが広告だよね」
「あれってAIがその人が普段ネットで見てるものの傾向で判断して出してるらしいよ」
「あ、だから見た覚えのあるやつよく表示されるのかー」
「はいはいはーい!5分経過したよ。あと15分ね!」
「ありがと吉谷ー。要するに、ネット広告はその人の好みにピンポイントで来るってことよね。じゃあテレビはどうー?」
みんなで、まずはどんどん知ってることを出し合っていく。
話し出して暫くして気がついた。
あれ? なんかいま、楽しい。
過去、私が経験してきたグループ学習って、あんまり楽しいものじゃなかった。
まずそもそも" 誰とグループを組むか" で躓いてたし。
余り者だったしなぁ…。
思い出すだけで胸が痛い。
無事グループを組めたって、そもそも緊張で何も浮かばないか、私なんかが口を開いていいのかさえよく分からなくて、どきどきしてイヤな汗をかいていた。
それに比べたら、このメンバーって安心できるし、さっちゃんの回しも上手だなぁ。
「さっちゃん、話を回すの上手だね」
尊敬の念をこめてそう伝えたら、「え、私が上手っていうか…うーん、このメンバーだからじゃないかな?」と私も思っていた事を返される。
「そうだねー。それぞれがそれぞれの性格をちゃんと知ってるからってのもあるんじゃない?」
「分かる〜。なんかこのメンバーだと何言っても大丈夫そう。信頼できるから、安心して自由にやれるって感じ」
何だか、すとん、と腑に落ちた。
私達は、お互いを信頼してて、お互いのことをよく知っていて、だからリラックスして伸び伸びと話ができる。
なんか、ちょっとだけ、分かったかも。
「みんなありがと」
思わず出た言葉に、3人は一瞬不思議そうな顔をしたけど、すぐに笑って「おう」と返事をしてくれた。
そういうところも、好きだなと思った。
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